第333話 モンスター

「若さま、面会既望の方が来てますが?」

俺は宿の人に声をかけられる。

「誰か来る予定あったかな?どんな人?」

「それが・・・三十代の女性と10歳ぐらいの男の子なのですが?」

「・・・だれ?まあ、来てるなら会って見るよ。ロビー借りていいかな?」

「御自由に御使いくださいませ、すぐにお茶を用意いたします。」

「それじゃその人達はロビーに通しておいて、俺も準備出来たら行くから。」

「かしこまりました。」

俺は急な来客に急ぎ身支度を整え、ロビーに

向かった。


ロビーにいたのは見知らぬ人だった。

「遅いですよ!」

着いた途端罵声がかけられる。

「あの?急に来てなんの御用件でしょうか?」

俺は少しイラつきながらも話を続けようとする。

「ふん、貴方に私の可愛いタダオちゃんの歌を作る権利をあげますわ。さっさと曲を提供しなさい。」

あまりの一方的な発言に言葉を失う。

「勿論ただとは言いませんわ、ここに20万あります。これで作りなさい。」

見知らぬ女性は封筒を差し出してくる。

「はぁ、お断りします。」

「なっ!何を言ってるの!私のタダオちゃんの曲を作れるのよ!」

「それに何のメリットがあるんですか?俺はそのタダオちゃんの事を知らないし、関係もない。」

「貴方はタダオちゃんの才能を知らないからそんな事を言うのよ、才能を知ったら土下座して作らしてくださいって言うのが眼に見えているのよ!」

「別に才能どうとかで作ったりしませんから。俺が作りたい人に作るだけです。」

「まあ、タダオちゃんの何処に不満があるというの!」

「不満も何も俺はそのタダオちゃんの何も知りません。ただ、母親のあなたがいる限り関わろうとも思いませんが。」

「くぅー!!あなたは私をバカにしているのですか!」

母親はヒスを起こしていた。

「話は終わりですか?どうぞお引き取りを。」

「ふざけないで!もういいわ、この手は使いたくなかったけど、あなたがそういう態度をとるなら仕方ないわ。」

「何ですか?」

「わたし、西園寺グループ、大阪支部、支社長の妻なの、わかる?あなたがそんな反抗的な態度をとるなら、私にも考えがあるわ。」

俺はあまりの話に固まる。

だが、俺の態度に気分を良くしたのか・・・

「あら、立場がわかったようね、今なら謝罪をして、タダオちゃんに曲を作れば許してあげてもいいのよ。」

「いえ?全く作る気はありません。」

「なっ!あなたは今後、音楽が作れなくてもいいって言うの!」

「別に作れなくても困らないけど、それ以前に脅して来る相手に折れる気はありませんよ。」

「どうやら、あなたは私を怒らしたようね!いいわ!後悔しなさい。あなたなんて私が圧力かけたらすぐに活動出来なくなるんだから!」

怒りながら親子は出ていった。

怒り狂う母親と違い、息子の方は申し訳なさそうに頭を下げていたのが印象的だった。


「何だったんだアレ?」

「若申し訳ありません!あのような物を通してしまい。」

「あーいいよ、会うって言ったのは俺だし、世の中には変な人もいるよね。」

「寛大な御言葉ありがとうございます。」

宿の人は深く頭を下げていた。

「しかし、音楽活動が出来なくなるかぁ~まあ、そうなったら仕方ないよねぇ~」

ボソッと冗談を言ったら、たまたま、俺を訪ねて来たキサクさんと眼があった・・・

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