第324話 閑話、加藤シロウ

俺は加藤シロウ、熊本にすむ九州男児である。

近々、大学の同級生の紹介で知り合った女性、アイナと来月に結婚を予定している。

俺は会社から帰宅したあと、アイナを訪ねる。

「アイナ、ちょっと聞きたいことがあるんだが?」

「なに、シロウ?」

「桐谷リョウという人を知ってるか?」

「リョウくん?もちろん知ってるよ。弟のように可愛がってきた子だよ。結婚式にもきてくれるって。」

「その方はどのような方なんだい?」

「う~ん、一言で言うと変な子だよ。興味を持ったら何でも1流にこなすけど、興味がなかったら全くしないからね。あっ、でも、悪い子じゃないんだよ。人に優しく出来るいい子だよ。」

「それは知ってる。アイナは仲がいいのかい?」

「そりゃね、私が育てました!って言えるぐらい♪まあ、それは冗談だけど、子供の時なら1番仲が良かったかな?ラブレター貰った事もあるし。」

「な、なんと!」

「ちょ、ちょっと、怒らないでよ。子供の時の話だよ。私が中学生でリョウくんが6歳とかの時だし。」

「い、いや、怒っている訳ではないんだ。それで、そのラブレターは?」

「もちろん大事にとってあるよ。可愛い弟の初めてのラブレターだしね。リョウくんの結婚式で公開してあげるの♪」

「結婚式に出るのか!」

「うん、約束してる訳じゃないけど、呼んでくれると思うよ。私の結婚式にも来てくれるし。まあ、その時はシロウも参加すると思うけど。」

「若の結婚式に参列か・・・」

「わか?」

「アイナ、俺達の結婚式のプランを変更しよう。」

「えっ?今から?もう時間がないけど?」

「アイナの最初の既望通り、盛大に行おう。」

「えっ、熊本の漢は質実剛健じゃなかったの?」

「俺の事はいいんだ、アイナの既望通りにしたい。」

「う~ん、でも、お金もかかるからね、私は質素でもいいよ。」

「それが・・・会社命令で盛大にやることになった。」

「はい?なんで会社命令?」

「大丈夫、予算もでるから。でも、会場はもっと大きい所にしないといけないらしい。」

「えっ、えっ!」

「これには九州男児の意地がかかっている。」

「いや、かかっているのは二人の未来じゃ?」

「アイナ、君は盛大にするのは反対かい?」

「私としては出来るなら、盛大にしたいけど、無理はしないでいいよ。」

「無理じゃないんだ、どっとかと言うと質素にした方が問題になりそうな・・・」

「どういう事?」

「それは・・・って、ごめん、ちょっと会社から電話がきた。」

「うん、どうぞ、でていいよ。」

俺はアイナをおいて電話に出る。


『君が加藤シロウかね?』

『はい、どちら様でしょうか?』

『私は島津ヒロヨシだ、話は聞いた。君は若の兄貴分になるんだな。』

『はい、妻になる人が若と昵懇の仲のようです。』

『いいか、これは我等九州男児の漢気を見せるときである!くれぐれも恥ずかしい式にしてくれるなよ。』

『はい!これから町1番の結婚式場を押さえてきます!』

『・・・ヌルイ!貴様はなめているのか!その程度で九州男児の意地と言えるのか!』

『しかし、これ以上となると何処が?』

『城の本丸御殿を借りきった。結婚式が出来るように改善もしておく。』

『えっ?』

『あそこなら全国から来ても恥ずかしくは無いだろう。』

『あそこは借りれるものなのですか?』

『少々伝手があるからな。君にアドバイザーを派遣した、よく話し合い、九州男児が恥ずかしくない式をあげるように。』

そこで電話は終わる。


「アイナ・・・場所が変わったよ。」

「えっ?」

「城の本丸御殿で行う。」

「えぇぇぇぇ!!何で、あそこ結婚式出来た?」

「今から改造するらしい。」

「な、なにがどうなっているの!」

「俺にもさっぱりわからないが、少なくとも記憶と記録に残るような式になるんじゃないかな・・・」

俺は自分の結婚式が既に自分の手を離れ、独り歩きを始めた事に気付いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る