第322話 話し合い

チエちゃんが到着してから3時間程がたった頃、チエちゃんの芸能事務所の社長が訪ねてきた。

「このたびは私こと、馬田タラオをお呼びとの事でまいりましたが、どのようなご用件でしょう?」

「あー、たいした話じゃないよ、この仁科チエちゃんをうちの傘下の芸能事務所に移籍させたいのだが、いいかな?」

「これは乱暴な事を、この子は今売り出し中でしてな、これからっていうのに引き渡すなんて。」

「ほう、断ると?」

「いやいや、そう睨まれると怖いじゃないですか、ほら話し合いましょう。」

「まあ、もちろんただでとは言わんよ。君の望む額はいくらだ?」

「ズバリこれぐらいでどうでしょう!」

タラオは指を1本あげる。

「わかった、アズサ。用意してくれるかな?」

「わかりました。小切手でかまいませんか?」

「もちろんですよ。」

アズサは1億と書き込む。

それを見たタラオは目を見開く、タラオとしては1000万のつもりだったのだ。

「あ、あの実は・・・」

タラオはあまりに簡単に1億を出してきた為、欲がでてきたのだが・・・

「タラオさん、あなたが1000万を想定していたのは知っています。それに1億を出したんです。これ以上ごねるとひどい目に合いますよ。」

「・・・い、いやだな、そんなことないですよ!いやぁチエもいい事務所にうつれて良かった良かった。」

タラオは冷や汗を流していた。

この世界で生き抜く為の勘が、危険を察知したのだ。

「あまり、欲深いと長生き出来ないですからね。」

「ま、まったくその通りです。」

「もし、チエちゃんに今後近付こうものなら・・・」

「近付いたりしませんから!」

「わかれば、いいんです。」

その後、いろいろと契約書をかわし、はれてチエちゃんは自由の身となったのだった。


「チエちゃんは自由の身となったのはいいんだけど、俺って源家に借りを作りすぎなのでは?」

「あら、リョウ気にしなくてもいいのよ。結婚したら全てがチャラになるから。」

「ちゃんと返すよ!」

「無理しなくてもいいんですよ。」

「リョウさん、二人で返していきましょう。」

「そうだね、チエちゃん。がんばろー」

チエちゃんは俺に腕を絡ませ、寄り添ってくる。

「チエちゃん?」

「はい、がんばりましょう♡」

「リョウ、頑張らなくてもいいからね。チエさんも仲良くするんでしょ?」

「はい、でも、1番は取り合っていいんですよね?」

「あら?チエさん大人しそうな顔をして、対抗するんですね。」

「ええ、やっぱり、1番になりたいですもの。」

「そうね、受けてたつわ。でも、醜い争いは無しよ。」

「わかってます。リョウさんに選んでもらう事が大事ですからね。」

「ふふふ、わかってるならいいわ。」


そんな所にミウがやって来る。

「こんにちわ、アズサさん、チエがいるって聞いたから来た・・・けど、なんでチエがリョウくんに抱きついてるの!離れてよ!」

「ミウ、久し振り。私ね気付いたの。」

「な、何にかな?」

「リョウさんの素晴らしさよ。私を包み込んでくれる優しさに気付いたら・・・」

「リョウくんが優しいのは知ってるけど、チエが知る必要はなかったのに・・・それに私がリョウくんを好きなの知ってるでしょ。諦めてよ。」

「アズサさんに聞いて気付いたの。リョウくんみたいに素敵な人が1人としか結婚出来ないって間違ってると。」

「その考えが間違ってるからね!ウェディングドレスは1人だけのものだよ。」

「そうよ、ウェディングドレスは1人だけのものよ、でも、それは女の子の夢。リョウくんを付き合わせる必要はないわ。」

「アズサさん、チエが間違った方向に行ってるのはアズサさんのせいですよね。」

「私のせいじゃないわよ、きっと、そういった運命だったのよ。」

「うう、チエは私たちの仲を応援してくれてた筈なのに・・・」

「ミウ、二人で仲良くリョウさんの奥さんしましょうね。」

「私は1人でリョウくんの奥さんになりたいのにーーー!」

ミウの嘆きが木霊する・・・

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