第320話 チエちゃん

『もしもし、チエちゃん?リョウだけど。』

『リョウさん!お久し振りです。元気でしたか?』

『元気・・・なのかな?、まあ、元気か。』

『なんか歯切れが悪いですけど、大丈夫ですか?』

『だ、大丈夫だよ。ちょっと、ケガしたりはしてるけど、それよりお願いしたいことってなに?』

『はい・・・あの、私に歌を作ってくれませんか!』

『歌?』

『はい、事務所の方針で歌を出すことになったんですが、社長がどこで聞いたのかミウと友達ということがばれて、新人作曲者のリョウさんに頼めば安く稼げるとか言い出しまして・・・』

『チエちゃんに歌を作るのはいいけど、その社長の思いどおりになるのはいやだなぁ。』

『リョウさん?』

『ちょっと待ってて?』


俺は電話の途中でアズサに声をかける、

「アズサ~、織田さんの知り合いの芸能事務所に移籍させれないかな?」

「リョウが望めば出来ますよ。」

「うん、わかった、お願いするかも。」

「じゃあ、私から連絡しておきますね。」

「お願い。」


俺は電話に戻る

『ゴメンゴメン、ちょっと確認してたんだけど、チエちゃん事務所移籍する気ない?』

『えっ?』

『チエちゃんが今の事務所でいいと言うならそれでいいけど、不満があるなら別の事務所に行けるように手配するよ。』

『そんなこと出来るんですか?』

『出来るみたい。』

『リョウさんに無理がかからないならお願いします。』

『わかった。すぐに段取りするよ。』

『お願いします。』


電話を切ったあと、

「アズサ、移籍の準備お願い。」

「決まったんですね。」

「まあね、本人の既望だし、さて、東京に戻るか。」

「それはダメですよ、まだ湯治の途中なんですから。」

「でも、向こうの事務所とやりあうなら東京に行かないといけないんじゃ?」

「向こうに来させたらいいんですよ。格の違いがあるんですから下手に出る必要なんてありません。そんなことより、リョウの身体の方が大事なんですから、ちゃんと治してもらわないと。」

「だいぶ良くなってるよ。」

「それでもです。ちゃんと湯治してください。今日のお風呂だって、温泉を持ってきているんですから。」

「・・・もしかして、伊勢のお風呂も?」

「あれは手配が遅れてしまい準備が出来ませんでした。だから、今日はちゃんと持ってきてますよ。」

「・・・そこまでしなくても大丈夫だよ?」

「だめです。完全に回復するまで温泉生活をしてもらいます。」

「あーうー、わかったよ、じゃあ、向こうが此方にくる手はずを整えて。あとチエちゃんの身の安全を最優先で。」

「わかりました。すぐに風魔を差し向けます。」

「うん、お願い。」

俺はチエちゃんの移籍の手筈を終えると、

兄貴が不思議そうにたずねてくる。

「お前、いったい何してるの?」

「えっ?」

「まだ結婚もしてないのに、源家の力を使いすぎてないか?」

「・・・言われてみれば!」

「お前はただでさえ義理堅いんだから気をつけておかないと・・・」

「・・・お義兄さま、少しお話があります。」

「えっ?アズサさん?」

「リョウ、少しお義兄さまをお借りしますね。」

「うん。」

兄貴はアズサに連れていかれる。


「リナ、俺は源家の力使い過ぎてたよね。」

「リナはどっちでもいいよ、いざとなればお兄ちゃん連れて逃げるだけだもん。」

「リナは強いなぁ~あっ兄貴?」

兄貴が帰ってくる。


「リョウ、もっと源家を頼るべきだな。」

「さっきと話が違わない?」

「いやいや、リョウは遠慮しすぎだよ、源家の懐は深いからこれぐらいなんでもないさ、ははは・・・」

「アズちゃん、兄貴に何はなしたの?」

「源家についてお話しただけですよ。お義兄さまも源家に名を連ねるようになるのですから少し説明を。」

「・・・兄貴、軍門に降ったな。」

「リョウ、仕方ないんだ。」

「何で俺を売った?」

「売るなんて人聞きの悪い、ただ、お見合いをセッティングしていただけると。」

「兄貴!女で俺を売ったのか!」

「人聞きの悪い事を言うな!あくまでお見合いだ!わかるか、本物のお嬢様と知り合いになれる機会なんてないんだぞ!」

「?あるよ?」

「お前がおかしいだけだ、普通は知り合いになれない。」

「そうかな?婆ちゃんに頼んだら紹介してくれると思うよ。」

「婆ちゃんには前に俺には紹介できないって言われたよ。」

「兄貴は教養の分野苦手だからなぁ。」

「そうだよ、婆ちゃんにも指摘されたよ・・・」

「それでも、自分で探せよ。」

「お前はいない歴が年齢の人間の辛さをわかっていないな!」

「えっ?兄貴、まさか彼女いたことないの?」

「わるかったな!俺はお前を売り飛ばしてでも、彼女が欲しいんだよ。」

「・・・ごめん、兄貴。そこまで追い詰められてるとはおもわなかった。」

あまりの情けなさに涙がでる。

「謝るな!しかし、わかってくれたか?」

「はぁ、仕方ない、アズサ、こんな兄貴だけどいい相手いるかな?」

「任せてください。リョウと縁を結びたい家は多数ありますので、お義兄さまも既望をお伝えくださいね。」

「姫さま、この桐谷ジュン、終生の忠誠を誓います。」

俺は頭をかかえる。

「兄貴、情けないぞ。」

「うるさい!」

「ジュン兄、最低、リョウ兄を売るなんて酷いよ。」

「ミズホも黙りなさい。俺には後がないんだよ。」

「そんなんだからモテないんだよ。」

「グッ!痛いところを・・・」

「ミズホ、許してあげて!兄貴のライフはもうゼロよ!」

「リョウ兄、言いたいだけだよね。」

「ばれたか。まあ、兄貴の既望だし、見逃してあげよう。それに源家の力をたよってるのは俺も同じだからね。」

将来、義理で雁字搦めになってる自分が想像できたが・・・

今は考えないでおこう・・・

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