第249話 施設の視察

「望月研究所ですか?」

「ああ、悪いのだが視察させてもらえないだろうか?」

俺は宮木総理に打診されていた。

「しかし、その話は研究所か源家の方にお願い出来ませんか?」

「そっちは取っているんだが、君が目の前にいるのに言わないのも違うだろ?」

「あーなるほど、それならいいですよ。」

「それで明日もリョウくんに同行してもらいたいのだけど、ダメかな?」

「うーん、用事もないですし、構いませんよ。」

「ありがとう!君がいるか、いないかで対応が全くかわるから、凄く助かるよ。」

「大袈裟ですね。まあ、一緒に行くぐらいでいいんでしたら付き合いますよ。」

俺の望月研究所視察が決まった。


翌日。

「ようこそ、望月研究所へ。」

アズサが研究所で待っていた。

「アズサがなんで?」

「ここは源家の管轄ですよ。それにリョウがいるのに私がいないのも変でしょ?」

「そうかなぁ~?」

「そうですよ、さあ、宮木総理とゲルマン首相を迎えましょう。」

「ははは、綺麗なお嬢さんだね、リョウくんの彼女かい?」

「ゲルマン首相、彼女は・・・」

「リョウの妻のアズサと申します、このたびは我が源家の研究所にようこそ。」

「源家・・・そうか、源グループかい。リョウくんはいいお嫁さんをもらっているのだね。」

「お姉ちゃん来てたの?」

「ふふ、リョウに会いたくなって来ちゃった。みんなには秘密ですよ。」

「うん♪秘密にしておくね。」

リナがアズサの手を握って喜ぶ。

その姿を見たミュラーは・・・

「リョウ、彼女はリナに何をしたんだ?何であんなにフレンドリーに出来る?」

「えっ?最初からあんな感じでしたよ。」

「リナがあんなに心を許しているのはリョウ以外だと初めて見たよ。」

「そうかな~?」

俺はミュラーさんの発言がよくわからなかったがこのまま入口にいるのもおかしいので中に入る。


「若!御尊顔を拝見いたしましたこと、恐悦至極にございます。」

職員一同が揃い、頭を下げていた。

「・・・頭をあげてください。」

「ハッ!」

「えーと、此方に来るのが遅くなってすみません、今日は皆さんのお仕事を拝見しに、ドイツの首相さんと日本の宮木総理が来てます。御迷惑かも知れませんが対応お願いしますね。」

「承りました。若の御命令とあらば全力で対応致しましょう。各自配置につけ!」

命令が下ると職員は急ぎ仕事に戻っていった。

「それでは、案内いたします。あっ、申し遅れました。私はここの所長を勤めます。望月トキモリと申します以後お見知りおきを。」

「お願いします。」

「では、みなさまこちらに・・・」

そして、俺達一行は施設内を視察していく。

量産施設や、研究施設に行き、総理や首相のお付きの人が専門的な質問をしていた。

その間俺は暇になっていた。

「ねえねあ、これはなに?」

「若、これはウイルスに新薬を投与して効果を確認するところです。御覧になられますか?」

「見ていいの?」

「若になら隠す事はございません。」

「じゃあ、お言葉にあえて。」

俺は光学顕微鏡を覗き込む、

「おーなんかいるよ!」

「それがウイルスにおかされている細胞です。そして、これが新薬を投入した細胞です。よく見ててください。」

ウイルスにおかされていた細胞が新薬を投入した細胞に飲み込まれていた。

「ほぇ~こんな風になるんだ。」

「凄いでしょ、こんなに早いのは他にないんですよ。そして、変質した細胞がなくなると動きを止めるんです。現在ここでは別のウイルスにも効かないか研究しているのですが。」

「効かないの?」

「ええ、先程のように進まないんです。」

「見して。」

「よろしいですよ、少々お待ちください。」

研究員が準備してくれる。

「これはEVDです。見てください、薬を投与した細胞が動きません。」

「ホントだ。」

「直接当てるとその範囲には効果があるのですが・・・」

「細胞が増えていかないと?」

「そうです。動いてくれたらなんとかなりそうですが。」

「ふーん、新薬も生きているの?」

「ええ、不活性したウイルスですから生きているといえば生きてますね。」

「うーん、ちょっとやってみよう。」

「何を?」

「ゴメン集中するから静かにしておいて。」

俺は意識を顕微鏡の中に向ける・・・

深く深く集中していくと、声が聞こえた。

「お前ら目の前の敵を駆逐せよ!」

指示を出す。

そして、意識を元に戻す。


「よしよし、動き出した。」

「えっ?」

「見てよ。」

顕微鏡の中では先程まで動かなかった細胞が動き出し、おかされていた細胞を飲み込んでいた。

「これは・・・」

「攻撃性を上げるように指示したから、あとの研究は任したよ。あーしんど。」

俺は席を離れた。


「あっ、いた。」

「リョウどこに行ってたんだい?」

「宮木さん、すみません、専門的な話についていけなくて、散策してました。」

「面白い物はあったのかい?」

「ありましたよ~新薬の効果を見せてもらいました。」

「それは私達も見てみたいな、所長見ることは出来ますか?」

「はい、できます・・・」

「所長!大変です!」

「どうしたんだ、今は来客中だぞ!」

「それどころじゃないんです!EVDのワクチンが出来るかもしれないんです。」

「何!何をしたんだ!」

「それが若が御覧になられてから、若に御見せしたワクチンが変異しまして、EVDにも効果を見始めました。」

「そんな事が・・・わかった、すぐに行く。培養の準備を整えておいてくれ。」

「はい。」

所員は走っていった。

「すみません、お聞きの通り、新薬が出来そうなので私は失礼さしてもらいます。代わりに別の人に案内させます。」

「EVDに効くのが出来るのかい!」

「これからの研究にはなりますが、光が見えたみたいです。詳しくはまだ。」

「是非進めてくれたまえ、私達の事は気にしなくていいから。」

「それでは、失礼いたします。若、御会い出来て光栄でした。これより望月トキモリ任務にうつります。」

「あー無理をしないよう頑張ってください。培養に失敗したらまた来ますので。」

「ハッ!では、御前を失礼いたします。」

所長も走って向かっていった。

「宮木総理、日本はEVDのワクチンも作るのか!」

「話によるとそうみたいですね。まだ、わかりませんが。」

「我がドイツにも回してくれるよな?」

「モチロンと答えたい所ですが、こればかりは出来てみないとなんとも。」

「ゲルマン、交渉相手が違う。」

急にミュラーが口を挟む。

「ミュラー、公の場で君が意見を言うのは珍しいね。」

「この施設は政府よりリョウを重視している。ワクチンが欲しいなら交渉相手はリョウだ。」

「・・・リョウくん、ドイツは好きかい?」

「ええ、嫌いじゃないですよ。」

「どうだろ、一度来てみないかい?」

「飛行機が苦手なので行けないです。」

「それなら船でくればいいじゃないか?時間はかかるがノンビリ船旅を楽しんで来るといい。君がよければ招待しようじゃないか。」

「ゲルマン首相、露骨に勧誘するのはやめてください。彼は日本の宝です。」

「宮木総理、勧誘なんて人聞きの悪い、リョウくんにドイツを知ってもらいたくてね。妹さんの故郷を見るのもいいだろう?」

「心揺れる勧誘ですね。」

「そうだろ?」

「リョウ、それなら一緒にドイツ旅行楽しむ?」

「アズサ、でも、船なら何ヵ月もかかるよ。」

「卒業さえしたらなんとでもなるから、その時に行かない?」

「それならいいかな?一度ヨーロッパには行ってみたかったし。」

「決まりだね、アズサさんの卒業に合わして招待しよう。」

「ゲルマン首相、それなら日本政府が留学ということで予算を出しますので。」

「お二人とも、私と一緒に行くんですから予算の心配は必要ありません。そして、この事で主人が恩を受ける必要もありません。」

「「うっ!」」

「まあまあ、アズサ。ゲルマンさんワクチンがいつ出来て、いくつ出来るかもわかりませんが日本政府と同じように交渉出来る機会を用意しますからそれでいいでしょうか?」

「モチロンだ!その時は連絡頼むよ。」

「わかりました。」

「リョウくん、日本人を優先してくれないのかね?」

「日本ではあまりかかる人いないみたいですし、それにドイツにはリナのお義父さんがいますからね。個人的な意見ですが配慮はしたいです。」

「あら、リョウの意見なら、源グループの意見としていいですよ。それにここはリョウの管轄エリアですから。」

「あっ、そうか。なら責任者の意見として決定さしてもらいます。」

宮木総理は将来交渉に使える材料を失い肩を落とし、

ゲルマン首相は交渉に成功した為、笑顔であった。

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