第248話 その日の夜

ホテルにて、

「ミュラー、どうしたんだい?来日した時、君があんなに取り乱すなんて。」

「ゲルマン、なに、娘のワガママに動揺しただけだ。」

「くくく、天下のミュラー団長も娘に勝てないのか?」

「笑い事ではないんだぞ!」

ドイツ首相ゲルマンとミュラーは長年の友人だった。その為、カーワンに狙われていることを知って護衛の仕事を受けたのだが。

「娘のワガママなんて叱ったらいいだろ?」

「はぁ、そう出来たらどれだけ楽か・・・」

「なんだ、叱れないのか?なら代わりに叱ってやろうか?『パパの言うことを聞きなさい』って。」

「やめてくれよ、絶対!せっかくカーワンがいなくなったのにゲルマンが死ぬ事になる。」

「えっ?」

「この話は失敗すると俺でも死ぬかも知れない、そんな危険な話なんだ。」

真面目に語るミュラーに冗談がないことに気付く。

「そんなに危険なのか?ただ娘を叱るだけだろ?」

「普段は聞き分けのいい娘なんだが、リョウの事だけは引かないんだ。上手く話さないとリナがドイツの敵になってしまう。」

「リナちゃんが敵に回ると・・・止めれるのかい?」

「無理だな、もしドイツにいて俺が全軍指揮を取り、完全な防衛態勢で挑んでも守れるかわからない。」

「何とかならないのか?」

「リョウに頼んでみるつもりだが・・・」

「リョウというのは?この前日本政府と争ったという男か?」

「そうだ、そのリョウだ。」

「それなら彼を引き抜いたらいいのでは?ドイツ国籍も用意しよう。」

「それで来てくれたら話は早いんだが・・・」

「私が責任とるから、どんな条件をつけてもかまわないよ、ミュラーが思った通りにしてくれ。出来たら、戦う未来は避けて欲しいが。」

「まあ。彼の祖父とは友人だからな。いきなり戦闘にはならんが、細心の注意で交渉をしよう。」

「その事は任せたよ。それと、明日、望月研究所を視察するから、護衛を頼むよ。」

「カーワンもいないし、そこまで警戒する必要はないんだがな。」

「・・・私にはわからないんだが、ホントにカーワンは倒されたのか?私にはあのリョウという男が倒せるとは思わないのだが?」

「リョウが倒したというなら本当だろう。それにあの場で一番怖いのはリョウだ。ジロウにしてもリナにしても戦闘力はあるが作戦で多少はかわすことが出来るが、リョウだけは何をしてくるかわからないぶん、凄く恐ろしい・・・」

「それほどかい?」

「彼の祖父は桐谷アキラですが、どう育てたらあんな化け物が育つのやら、それにリョウと敵対しただけであの場の全員が即座に敵になるでしょう。実力と周りの繋がり、日本で一番警戒するべきなのはリョウだ。ゲルマンもそう思って行動してくれ。」

「わかった、君がそう言うなら従おう。」

「偉そうに言っても、自分の実力が足りないだけなのは恥ずかしい話だがな。」

「上を見ればキリがないという、ミュラーはよくやってくれているよ。日本は昔からおかしな化け物が生まれる地だからな。」

「違いない、しかし、桐谷アキラがやっと前線から離れてきたと思ったら、次の世代が更に酷いとは・・・なんて、悪夢だ。」

「彼らの教育システムを知りたいところだね。」

その後、ミュラーとゲルマンは二人で飲みながら、明日以降についての打ち合わせをしていた・・・

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