第216話 平井の末路 後編

「いや、他のスポンサーを探そう・・・そうだ!西園寺はどうだ、あそこは金もあるし、まあクラシック部門はないが音楽会社もある、我々が売り込めばクラシック部門設立の話も出るだろう。」

「打診はしました。しかし、社長の認可はたぶんおりないとの事でした。」

「なぜ?」

「団長が侮辱した相手は西園寺のお嬢様の婚約者だそうです。どうやら二人で取り合ってるみたいですが、その為、私達を受け入れて彼からのマイナス評価を受けるぐらいなら援助しない方がいいと考えるだろうとの事でした。」

「そんな、それならどうしたら・・・」

「キサクさんに仲介を頼んで謝罪は出来ないのですか?」

「俺が奴に頭を下げろと!」

「関東交響楽団の為です!」

「クッ!仕方ない、キサクさんに連絡してみる。」

平井は無念ながらキサクに電話を入れた

「キサクさん、昨日はすまなかった。」

「何の用だ。」

「いや、昨日は俺も大人げなかったと思ってな、謝罪をしようかと思うのだが仲介を頼めないだろうか?」

「謝罪?お前がか?ということは既に源家にやられたな?」

「・・・何か知ってるのか?」

「今朝早く源家から平井くんとの関係を断つとの連絡が回ってきた。各音楽家に回されているようだが。」

「源家はどれほど俺を虚仮にしているんだ!」

「そんな言葉が出る以上、謝罪も表面的なものだろう、悪いが協力は出来ない。」

「そんなことを言わないでくれよ、長年の付き合いじゃないか、昨日今日知り合った奴よりコッチの味方をしてくれよ。」

「君の味方をするつもりはない!もし、君の味方をして彼が私を避けるようになったらどうするんだ!」

「何を言ってるんですか?」

「私と彼の繋がりはあまり強くない、たまたま家の近くの病院に入院して暇潰しにピアノを弾きにきた。ただそれだけの関係なんだ。もし、君を擁護したらそれこそ彼に避けられてしまうだろう。」

「それならそれぐらいの関係だったって事じゃないか?」

「君は・・・私の夢を知ってて言っているんだよな?」

「あー歴史に残る曲を出して自分の名前を歴史に刻むでしたよね。」

「そうだ、私自身に才能がなく達成出来なかったが此処にきてリョウくんを世界に送り出した人間として名を残そうと思っている。それなのに、リョウくんが曲を書かなくなったらどうしてくれるんだ!それに、君も音楽家だろ!彼が曲を書かなくなった時の損害がわからないのか!」

「しかし、彼の音楽に対する態度は許せるものではないだろ!」

「そんなの名曲の前ではどうでもいい事だ!君には途中で終わったとはいえあんな曲を作れるのかね?」

「そ、それは・・・」

「私達と彼は見えてる世界が違うんだよ、我々の価値観で彼を追及しても意味はない。我々に出来るのは彼が気分良く曲を作ること、そして、彼の曲を残す手段を作る事だ!」

「彼の曲を大事にしたいキサクさんの気持ちはわかった。しかし、今、私はどうしようもなく困っているんだ、ホントに頼むよ。桐谷くんは無理でも源グループに働きかけるぐらいはしてくれないか?」

「・・・断らさしてもらう。悪いとは思うが他を当たって欲しい。」

キサクは電話を切った。


「クソッ!」

平井は電話を叩きつける。

「団長・・・」

「だめだ、キサクは話にならん、他の音楽家に仲介を打診してみてくれ。」

「・・・無理でした。みんな源グループとの関係を考えて擁護は出来ないとの事です。」

「それじゃどうするんだ!」

重い空気が会議室に蔓延する。

「・・・団長、退団してもらえませんか?」

「・・・なに?」

「団長がいなければ、我々の謝罪も受け入れてもらえるかもしれません。」

「神田!キサマ!何を言ってるかわかっているのか!」

「勿論です!しかし、関東交響楽団を残すにはそれしかないと思います!団長は関東交響楽団を潰すつもりですか!」

「私がいない関東交響楽団なんかに何の価値がある!」

「団長?」

「私は辞めたりなんかしないからな!辞めてどうしろというんだ!」

「しかし、団長が辞めれば関東交響楽団を残す事が出来るかもしれないんですよ。団員達の事も考えてここは身を退いてくれませんか?」

「知らん!なんでワシが他の団員の為に辞めなければいけないんだ!ここは私が世界に音楽を発信する場所だ!誰にも渡さんぞ!」

「・・・わかりました。」

「ふん、最初からそういえばいいんだ!それで今後どうする?」

「知りません、私は今この時をもって退団させていただきます。もう何をあなたについて行けません。」

「キサマ!」

「団長、我々も本日付けで退団します。」

幹部一同も退団を願い出た。

「なっ!」

「もう団長にはついて行けません。厳しい指導も楽団の為と思えば我慢できましたが、団長にとって楽団は自分の権威の為のものだったんですね。」

「な、何を言ってるんだ、君たちがいてこそ楽団は生きるんじゃないか、辞めてどうするんだ。」

「今さら何を、退団者のリストは後でお渡ししますので確認を。」

幹部、マネージャーは出ていった。

「クソッ!なんなんだ!なんでこんなことになるんだ!」

メインメンバーに去られ、結果残ったのは未熟な十人ぐらいとなり、演奏はプロとは言えないレベルまで落ちてしまった。

音楽家の中では解散も近いだろうといわれていた。

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