第28話 さよならマイラ村

瓦礫しかない村の中で、レミリア達3人は時間を持て余していた。レミリアとしては、同族と過ごした土地に未練のようなものがあり、なかなか自分から出発を切り出せない。


しかし、もうマイラ村にいてもすることはない。レミリアはこれからどうするか決めなくてはならない。


「君は今回のことをどう思っているんだい?」


アレイスターが口火を切り、今回のことをまとめて一通り説明してくれた。


レミリアを拐ったのは教皇庁の中でも魔族の殲滅を専門にしている「勇者」だった。奴隷商人を通じてベオウルフの城に売られた。同時に、住んでいた魔族の村は滅ぼされてしまう。村人は多くの犠牲者を出しながらも転移魔術による脱出に成功するが、レミリアの両親は殺されてしまった。


ベオウルフ達の理解があってレミリア自身は無事に居場所を確保できた。アレイスターに助けられ、こうして村にも帰ってこれた。結果は悲惨なものではあったが。


「決まってるじゃありませんか」

「そうなのかい?」

「はい。絶対許せないので、私達をこんな目に合わせた勇者本人を探し出して、必ず報復します。教皇庁や教会が邪魔をするならぶっ潰します!」


レミリアは大きな瞳を輝かせながら、力強く宣誓した。


「あはは。わかったよ、僕は全力で協力しよう」

「私も協力いたします!」


目的は決まったが、勇者が誰でどこにいるのかもわからない。


「私、彼らに祝福をしたので見ればわかるとは思います。名前までは覚えていないですけど。ただ、エテメンアンキに行って彼らを探すのは危険だと思います」

「確かにエテメンアンキに突っ込むのは危険すぎるね。今回は目的も果たしたし、一旦バリアントに帰らないかい」

「いいですね。そろそろ帰りたいと思ってました」


それから、レミリアは村に両親の墓を立てた。アレイスターに教わりながら土の魔法で作った石柱には、シンプルに「最愛の両親」と刻んだ。他に亡くなった人のためにも石柱を立てた。

本物の聖職者が故人の安らかな眠りを、改めて祈ってくれた。


「お父さん、お母さん、一段落したらまた会いにくるね」


レミリア達はマイラ村を後にした。


帰りは何も気にすることなく、アレイスターの飛行魔術で領地まで帰った。あっという間にバリアントに着いたが、レミリアはただの抜け殻と化していた。




レミリアは飛行魔術酔いのため、暫く部屋で横になっている。少し楽になってきたので、そろそろ身体くらいは拭こうと思う。ベオウルフに挨拶しないといけない。


今、クリスにはお願いしてアレイスターのところに居てもらっている。

ベオウルフは完全に独立して動く不死者だが、クリスの場合は曖昧な位置づけだ。

ベオウルフにお願いしてクリスの部屋を用意してもらうのも良いかもしれない。


クリスは首飾りに居ると言った割に、自由に首飾りから出入りしている。というより、ほとんど首飾りの外にいた。


身体が透けていて霊にしか見えないから、うろつかないでとアレイスターは難色を示したが、本人が気合を入れたら生身にしか見えない濃さまで変えれると言うので、なるべく濃いままでいてもらうことにした。


レミリアは身体を拭くとアレイスターの部屋に向かった。


奥でクリスが本の虫になっていた。レミリアに気づくと、地面を流れるように進んできた。

慌ててアレイスターが注意する。


「こらこらクリス、ちゃんと歩くように」

「知ってる人しかいないからいいじゃありませんか」

「駄目。油断したら外で出るからね」


レミリアは笑ってしまった。


「アレイスターさん、そろそろベオウルフさまに挨拶に行きたいんですが」

「そうだね、一応立ち話程度のことはしたんだが、僕も立ち会おう」

「クリスの部屋を用意する様にお願いするんで、クリスも一緒でいいですか?」


それを聞いてクリスが残念そうに言った。


「私はレミリアさんと同室でもいいんですよ? たまに首飾りから出て一緒に寝たりしましょうよ」

「狭いから嫌ですよ。夜くらい私も1人になりたいんです」


アレイスターが立ち上がった。


「まあまあ。じゃあ行こうか」




ベオウルフの執務室のドアを叩く。


「いるぞ。好きに入れ」


中ではマイラ村を探しに出かける前と同じように不機嫌そうなベオウルフがいた。横ではノイマンが事務仕事をしている。


「1番に報告に来てもバチは当たらなかったぞ」


どうやら、放って置いたことを拗ねているようだ。

レミリアはクスッときてしまった。


「ごめんなさい。乗り物酔いが酷くて休んでました」

「酷いなあ。僕は乗り物じゃないし、優しく運んだつもりだよ」


アレイスターは不満そうだ。


「まあそれはともかくさベオウルフ、今日は素直におかえりくらい言ったらどうかな。待ちわびていたのが顔に出ているよ」

「毎日毎日、まだ帰らぬかと言ってましたな」


ノイマンが追従する。


「うるさい。その、なんだ」


ベオウルフはレミリアを見て言った。


「レミリア、おかえり。無事に帰って来てくれて良かった」


優しげな顔で真面目に言われる。

破壊力あるなとレミリアは思った。


「ただいま、ベオウルフさま」


この人がレミリアの居場所を作ってくれたのだ。いろいろあり過ぎたが、帰って来れて良かった。

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