世界と旅人と赤色

大西 詩乃

魔法が無い世界

第1話 部活終わり

 じりじりと照りつける太陽、道の向こうにある陽炎。制服と共にじっとりと粘り着く汗にため息を吐く。


 部活終わりの午後、俺は荷物を背負って歩いていた。


 後ろからドタバタと騒がしい足音が聞こえた。ああ、田中が来たんだ、こんな暑いのに元気あるな。とぼんやり思う。


「ちょっとちょっと!海翔先輩!」


「なんだようるせーな」


 走ってきた田中はいきなり俺の肩を掴んで前後に激しく揺らした。


「先輩夏の市大会出ないんですか?!」


「あたりめーだ三年優先だよ、俺は出ない」


 すると田中はシュンとして手を離した。そして、いつもの帰り道を歩いていく。


「そんな…この学校で一番空手がうまいのは先輩なのに…」


「冬の大会は出るからいいだろ、別に」


「あぁ、昔の先輩だったら顧問をなぎ倒してでも出てたのにな……」


「そんな事したことねーよ!」


 勝手に俺を凶暴なヤツにしないでほしい。


「でも、それくらい熱意があったじゃないですか」


「そうかぁ?」


「…オレ、気付いてるんですよ」


 その時、田中は今までのおちゃらけた雰囲気をしまった。珍しく真面目な声だ。


「何に?」


「先輩が部活にやる気を出さなくなった時期に何があったか」


 田中は俺の目を真っ直ぐに見つめてこう言った。


「うみさんが死んだんです」

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