第33話 大理石の町 2

 サンデー達が町に到着した頃には、すでに夜の闇に包まれていた。


 まだそれほど遅い時間という訳でもないが、町の中の明かりは少なく、路上は静まり返っている。

 かつて賑わっていたであろう大通りには全く人気が無く、余計に侘しさを感じさせた。


 ひとまず町の入り口近くにあった、宿屋の看板を掲げた建物に灯りがあるのを確認し、扉を開けて入って行く。

 カランカラン、と扉に付いたベルが乾いた音を響かせた。


「──おやまあ! これはこれは、いらっしゃいませ」


 奥の部屋から、驚いたような表情で老婆が出迎えた。


「夜分に失礼するよ。ここは宿屋で合っているかね?」

「ええ、そうですとも。しばらくお客らしいお客が来た事はありませんがね」


 久々に客を迎える事ができたせいか、嬉し気な様子の老婆。


「お客が来ないとは言っても毎日お部屋の準備はしておりますよ。しばらくぶりにご案内ができて嬉しいねえ」


 カウンターへと辿り着くと、引き出しから宿帳を取り出してみせた。


「お二人ご一緒でよろしいので?」

「はい~同じ部屋でお願いします~」


 エミリーが答えながら記帳する。


「それにしても、お二人ともお綺麗ねぇ。こんな小汚い宿で申し訳なくなっちゃうわ」


 二人を見比べて目を細める老婆。


「謙遜する事は無いとも。丁寧に掃除が行き届いた素敵な宿だ」


 サンデーが賞賛する。実際、古いながらも床には塵一つ落ちておらず、艶すら感じられる磨きぶりだ。


「そう言って貰えれば嬉しいですねぇ」


 顔を綻ばせながら引き出しから鍵を取り出すと、老婆は入り口の脇にある階段へと向かった。


「さあさ、お部屋は二階になりますよ。こちらへどうぞ」


 老婆に連れられて通された部屋は、それなりの広さであった。横にベッドが二つ並べられ、テーブルと椅子のセットが置かれていても、まだスペースが余っている。


「お夕食をご用意する間、先にお風呂で旅の埃を落とされてはいかが? すぐに沸かせますよ」


 老婆が鍵を手渡しながら尋ねてくる。


「それなら、お言葉に甘えよう」


 エミリーに鍵を預けてサンデーは頷く。


「それでは荷物を置いて落ち着かれたら、一階においで下さいな」


 老婆が軽くお辞儀をして退室していった。


「は~ちょっと足が疲れましたね~」


 旅行鞄を椅子に置くと、ベッドへと倒れ込むエミリー。

 老婆の言った通り、しっかりと洗濯されて清潔なシーツからは、日干しした太陽の香りがする。


「あのくらいの距離で情けないね、君は。記者にしては運動不足じゃないかね?」

「だって~この所ずっと乗り物ばかりでしたし~」


 ベッドに腰掛けるサンデーを横目に、ぐでりとベッドに沈んて行くエミリー。


「ふふふ、なら次の町へは徒歩で行くとしようか?」

「はんた~い! それは断固抗議しま~す!」


 脚をジタバタさせてエミリーが叫ぶ。


「やれやれ。我儘な事だ」


 くすくす笑うサンデーは、ふと窓の外を見やる。


 来るまでは曇り空だったが、今は雲一つなくなり、丸い月が全体を余さず見通せた。

 その満月の下、山の頂を見やると、白い建物が月光を受けて薄っすらと光っている。


「ほほう、確かに美しいね」

「噂通りに神秘的な光景ですね~」


 いつの間にか窓辺に立ったエミリーが、タブレットで景色を撮影し始めた。


「これは明日の朝も期待できそうです~」

「ああ、楽しみだね。さて、そろそろお風呂に行こうじゃないか」


 立ち上がり扉へ向かうサンデーは、窓を一度振り返った。


「本当に、楽しみだね」


 そう呟くと、一階への階段へ向かっていった。

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