第18話 海と水着と浜辺の華 2
「やぁ君達。奇遇だね」
「どうも~こんにちは~」
エミリーの手にはサンオイルのボトルが握られ、丁度サンデーの背中にオイルを塗っている最中であった。
うつ伏せになったサンデーは水着の紐を外しており、豊満な胸が上半身の重みで潰され、ぐにゃりと脇へと張り出している。
その白い背中へと、エミリーが両手に付けたオイルをせっせと塗り付けていた。
その光景に思わず見惚れるナインだが、アルトに膝を蹴られ正気に戻る。
「いやいや、一体何だってんだこりゃ!」
「何か? 見ての通り海水浴だが」
「せっかく海の有る街に来て、ビーチに繰り出さないなんて勿体ないですもんね~」
何でもないように笑い合う二人。
「いや、そもそも今真冬じゃ……っていうかこの暑さはどうなってんの!?」
あまりの暑さにマントを脱ぎ棄てるアルト。ナインも続いて鎧を外していく。
「うむ、君達も脱ぐと良いさ。なかなか気持ちが良いよ」
「プライベートビーチみたいですしね~凄い解放感ですよ~」
オイルを塗り終えたのか、サンデーの水着の紐を結んでいくエミリー。
「ちなみにこの空間は、サンデー様所蔵の魔道具によるものです~」
そう言って先程のパラソルを指さしてみせる。
「その名も~『いつでも
てってれーという謎の効果音が同時に響く。
「今のもそれの機能……?」
「そうで~す」
エミリーの説明によれば、差した周囲50m程の気候を変えてしまう魔導具らしい。常夏と名には有るが、実際は全天候に対応しており、雨も降らせられるし気温も下げられると言う。
「なんて魔力の無駄遣い……!」
がっくりと崩れ落ちるアルト。
単純に暖を取るだけであれば火を生み出す魔術で事足りるが、熱源そのものを作り出すというのは非常に難易度が高い。
しかもこの魔導具はどうやら天候そのものを限定的に操作しているようだ。
天候操作などは最上位に属する術で、そこまでの使い手はなかなかいない。
当然の事だが、気候を操れる程の魔術師であれば各国から引く手数多だ。農作物の管理から、戦争の道具にまで、多岐に渡って影響を与えるだろう。
(それをたかが水遊びの為だけに利用するなんて……!)
これだから金持ちは、と言いたくなるのをぐっと抑えてアルトは深呼吸する。
「まあそんなところへ立っていないでこちらへ来給えよ」
水着を整えると立ち上がり、パラソルの下へ移動する。
黒いビキニが真っ白な肌に映えて妖艶さが増している。
「喉が乾いただろう。一緒に一服しようじゃないか」
置かれていた長椅子に横たわると、エミリーから果汁の入ったグラスを受け取る。
組まれた長い脚、程良く締まった腰付きから奇跡のようなくびれを通り、豊満な胸元まで、何一つとして余計なパーツが無い。黄金比と言うべき美体があった。
「お二人もどうぞ~」
エミリーが銀盆からグラスを渡してくれる。
「ありがとう……頂くわ」
「ありがてえ」
実際喉が渇いていた二人は、それを一気に飲み干す。
「ぷはぁぁ、生き返るぜ~」
「おいっしい! 何これ、何の果汁?」
「ここの特産品だそうだよ。何と言ったかな」
「フロンティアグレープとフロンティアアップルのミックスジュースです~」
共に開拓島の主力輸出品だ。領主の実直な性格のせいか、ストレートすぎるネーミングである。
「それにしても……」
一息付いて冷静になると、アルトには別の不満が湧いてきた。
「今日程自分がエルフに生まれた事を恨んだ日は無いわ……」
再び崩れ落ちるアルト。
原因はエミリーだ。サンデーと同じくエミリーも当然水着姿である。しかし小柄な体に不釣り合いな程たわわな双丘が実り、青い生地にフリルのついた可愛らしいトップスを押し上げていた。そしてしっかりとしたくびれがありながら、安産型のヒップと太ももは適度にむちむちとしている。
サンデーは彫刻のような芸術的な美だが、エミリーは男好きのする健康的な肉体美である。昨日は厚着をしていたために分からなかったのだ。
サンデーのスタイルの良さは分かっていたが、まさかエミリーまでこれ程の武器を持っているとは。
エルフ族は美形揃いではあるが、基本的に華奢な者が多い。アルトもそれに漏れず控えめな体型である。
勝負どころか試合にも出られなかったような虚無感がアルトを襲う。
「君のしなやかな身体だって魅力的さ。自信を持ち給え」
ちゅ~っとストローを吸いながらサンデーが言う。
「貴方に言われると嫌味でしかないんですけどね……」
「いやー大したもん持ってるじゃねぇか嬢ちゃん! こりゃ子供扱いはできねぇやな」
目の保養とばかりに、隠す気も無くじろじろ見回すナイン。
「あんまり見るとお金取りますよ~? これでも読モやってたので~」
「……あああああ!! どこかで見た気が有ると思ったら!」
がばっと顔を上げたアルトがエミリーに詰め寄る。
「アネモネで一時期ちょこっとだけ出て話題になってた子! 名前忘れてたけど貴方だったのね!?」
アネモネとは、王都で発行されているファッション誌である。
タブレットは未だ高額だが、撮影機能のみに絞った魔導カメラは比較的安価で流通されている。写真の普及により、グラビアモデルという職業が注目され始め、数多くのファッション誌が発刊されている。
「おや~、ご存じでしたか~? お恥ずかしい~」
知っていると言われて満更でもないエミリー。
「学生時代に~ちょっとバイトのつもりでやったら意外と受けが良かったみたいで~」
えへへとはにかんで見せるエミリー。確かにこの童顔でこのスタイルでは話題性には困るまい。
しばし雑談に華を咲かせる一同。
平和な時間が過ぎて行く。
「ところで、君達は何をしにここへ?」
今頃思い出したようにサンデーが尋ねる。
「あ! あまりの展開に付いていけなくて忘れる所だったわ……」
「そうだったそうだった、仕事だぜ俺達ゃ」
膝を打って気を取り直す竜閃コンビ。
「実はよ、姐さんがぶっ飛ばしたイカ野郎、この島に流れ着いてるかもしれねぇって話が回ってきたんだ」
「そ。街の付近の海岸にはいくつも洞窟があるから、いるとしたらそのどれかに隠れているだろうって事でね。あたしらギルドも総動員で手分けして探してるって訳」
「それはご苦労な事だ。こんな所で油を売っていて良いのかね?」
「まあ、どこかの班が見付ければ連絡が来る事になってるから、それを待ってても良いんだけどね」
「ただあの野郎には借りがあるからな。一番乗りでぶちのめしてやらねえと気が済まねぇ」
「そうかね。では頑張って来ると良い。彼女は少し借りるとしようか」
「え?」
「良いお人形さんが来ましたね~。何が似合うでしょうね~?」
「え?」
両脇から抱えられ、逃げ場を失うアルト。
「あー、姐さん、何を……?」
「君が見付ければ通信機で呼べるのだろう? では彼女は私達とここにいても問題無いだろう」
サンデーが腕をさっと横に振ると、何処からか大量の水着の掛かったハンガーラックがするりと出てきた。
「さあファッションショーと洒落込もうじゃないか」
「アルトさんもお綺麗ですから楽しみですね~。これなんかどうでしょう~」
あれよあれよと更衣室に押し込まれるアルト。
「何かね。さっさと行き給え」
さも邪魔そうにしっしっと手を振ってみせるサンデーに、ナインは何も言えずに素直に鎧を付けて探索に戻って行った。
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