井戸の中

勝利だギューちゃん

第1話

S県K市の、ある井戸の中。


ここには、カエルの親子が住んでいる。

父のひろや、母のみえ、長男のしんた 長女のこすもす、ペットのみどり


とても、仲のいい家族。


以前なら、「井の中のかわず、大海を知らず」と、バカにされていた。

しかし、現代において、海の情報など、伝わる。

当然、彼らも知っていた。


「みえ」

「どうしたの?あなた」

「俺、海に引っ越そうと思う」


みえは、吹いた。


「いきなり、何を言いだすの?」

「俺に、この井戸の中は、狭すぎる。出世するためには、広い海がふさわしい」

「何、言ってるの?この井戸のローンだって、まだ32年も残っているのよ」

「そんなもん。俺がその気になれば、お釣りがくる。今がその時だ」


みえは、あきれた。


「あなた、私たちカエルは、海では生きていけないわよ」

「そんなの、どうにでもなる」

「ならないから、言ってるの」


カエルの世界も、女性の方が冷静のようだ。


「わかったわ。そういう向上心の強いところが、あなたのいいところだものね」

「わかってくれたか」


そこへ、息子のしんたが起きてきた。


「父ちゃん、母ちゃん、何騒いでるの?」

とても、寝むそうだ・・・


「おっ、起きたか」

ひろやはしんたの頭を撫でる。


「実は、父ちゃんたち、海に引っ越そうと思ってな」

「父ちゃん、S県には海はないぞ。父ちゃんが前に言ってたじゃないか」


子供というのは、どうでもいいことの記憶力は鋭い。


「だから、引っ越すんだよ。会社も近いしな」

「もし、海に引っ越したら、ビーチには?」


しんたは、眼を輝かせる。


「おう。水着のお姉さんが、好きなだけ、拝めるゾ」

ひろやのその言葉に、しんたも大賛成のようです。


「だめよ。あなた」

みえが、止めに入ります。

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