前のエピソード――０１２．ゲーム脳の変態は、一人突っ込みで滑（すべ）り捲（まく）る！

極寒（ごくかん）の雪景色（ゆきげしき）の中を空中に浮かぶ真（ま）っ裸（ぱだか）の赤ちゃんが、次々にスノーラットとスノーラビットを狩っていく。

狩られた獲物（えもの）は、全（・）て（・）瞬（・）時（・）に（・）回（・）収（・）さ（・）れ（・）て（・）消（・）え（・）て（・）い（・）く（・）。

最高だなぁ～、生（・）ま（・）れ（・）た（・）初（・）日（・）か（・）ら（・）レベル上げが出来る何（なん）て堪（たま）らない！

俺は脳裏地図（マインドマップ）と脳裏情報（マインドインフォメーション）と雪山を同（・）時（・）に（・）視（・）な（・）が（・）ら（・）、狩りに興（きょう）じて居（い）た。

仮想現実ゲームの世界で【廃神（オーバーアウト）】と呼ばれる神プレイヤーとして、名を馳（は）せていたプレイヤーネーム【カルマ】にとって、レベル上げとは快感（かいかん）と同義（どうぎ）だった。

全てのゲームジャンルを網羅（もうら）プレイしていた【カルマ】は、所謂（いわゆる）ゲームが生活の一部に為（な）っているゲーマー達の中でも、ドップリとゲームに嵌（は）まっている【廃人（クラーク）】と呼ばれる人種を超越（ちょうえつ）した存在。人生全てをゲームに捧（ささ）げた異常（アブノーマル）進化種（プログレス）だった。

現実の世界の一秒が【二四秒】に相当する仮想現実の世界で、現実の人生の全てをゲームプレイに捧（ささ）げ、【最大延長（マキシマムエクステンション）】で現実の世界の一秒が【百十万四千秒】に相当する【アルグリア戦記】の世界で、常（つね）にトップを独走（どくそう）する。

【アルグリア戦記の公式ホームページプレイヤーランキング】で、二位にトリプルスコアー以上の差を付けるゲーム脳（のう）の変態（へんたい）は、ゲームプレイヤー達の憧（あこが）れで在（あ）り、正（まさ）しく神だった。

従来（じゅらい）の【創造神の試練】で約半年後に起こる村の襲撃（しゅうげき）イベントまでは、実質（じっしつ）生命力（HP）・魔力（MP）・精神力（MSP）・持久力（EP）の状態値しか育成しようが無い。

常人（じょうじん）にとって約半年間は育成期間では無く、只々（ただただ）無為（むい）の時間で苦痛（くつう）でしかなかった。又（また）、ゲーム脳（のう）の変態（へんたい）のように精神にダメージを受けても、嬉々（きき）として激痛（げきつう）に耐（た）え増加する生命力・魔力・精神力・持久力に、未来の自分の姿を想像し愉悦（ゆえつ）する異常者（アブノーマルパーソン）は皆無（かいむ）と言って外（ほか）ならない。

襲撃（しゅうげき）イベントが起きて初めて四（よ）つん這（ば）いで匍匐前進（はいはい）が出来るように為（な）り、出来るように為（な）っても生命力（HP）の数値次第では数秒から数十分で【０】ポイントに為（な）り【ゲームオーバー】する未来が待って居（い）るだけだった。

況（ま）してや封印（ふういん）に因（よ）る能力値【１】ポイント固定は、無理ゲーシナリオに拍車（はくしゃ）を掛けた。

常人（じょうじん）にとって鬼畜仕様（きちくしよう）の無理ゲーと呼ばれる【創造神の試練】は、全く面白（おもしろ）みの無い生き地獄（じごく）其（そ）のものだった。

意味の無い半年間を過ごし凍死（とうし）するか追手に殺される無限ループ地獄に心を折られ、心を病（や）み本物の廃人と為（な）るクラークプレイヤーの多くは完璧（パーフェクション）主義者（ニスト）だった。其（そ）の事実はゲーム規制の社会現象を巻（ま）き起こし、【創造神の試練】は鬼畜無理ゲーシナリオと呼ばれた。そんな禁断（きんだん）と言って良いシナリオを、十回以上も繰り返すプレイヤーは、常（・）人（・）の（・）中（・）に（・）は（・）居（・）な（・）か（・）っ（・）た（・）。

プレイヤーランキングのポイントは、プレイヤーの行動に因（よ）って採点（さいてん）され付与（ふよ）される。

一度クリアしたシナリオを前回と同様にプレイしても、同じポイントは得られない。初回クリア限定ポイント分で差が付くからだ。

つまり、各（かく）難易度（なんいど）シナリオごとに新規アバターでプレイしてゲームクリアすれば高得点が狙える。

勿論（もちろん）、高得点を叩（たた）き出すシナリオクリアとは【アルグリア大陸制覇（せいは）】を意味する。

其（そ）れ故（ゆえ）、ランキング二位とトリプルスコアーを付けるカルマに、畏怖（いふ）し憧憬（どうけい）し崇拝（すうはい）したプレイヤー達が付けた異名（いみょう）が、廃人（クラーク）の中の廃人（クラーク）、廃人（クラーク）達の神の名こそ【廃神（オーバーアウト）】だった。

過去に初回から数えて鬼畜（きちく）無理ゲーシナリオの襲（・）撃（・）イ（・）ベ（・）ン（・）ト（・）の（・）正（・）解（・）まで、通算（つうさん）四百七十七回行動不能（ゲームオーバー）の経験を持つ【カルマ】は、脳内地図（マインドマップ）を参考（さんこう）に効率（こうりつ）よくスノーラットとスノーラビットを狩っていく。

そんな中、もう一人のカルマは暖炉（だんろ）の近くで、カルスとマルナに見守られスヤスヤと眠って居（い）た。

＜＜個体名【カルマ】の個体レベルが上がりました！＞＞

＜＜個体名【カルマ】の無属性（むぞくせい）魔法（まほう）レベルが上がりました！＞＞

順調に個体レベルとスキルレベルが上昇していく。

やっぱりスキル【神童（しんどう）LV１】の効果は凄（すご）い！

プレイアバター【カルマ】のウキウキは止まらない。無双プレイが嫌いなのでは無い。ドキドキする気持ちが依（よ）り感じられる未改造（アンカスタマイズ）プレイが好みなだけだった。

【神童（しんどう）LV１】の効果で在（あ）る【１８歳まで獲得経験値×１０倍とする能力スキル】は、個体レベルだけに留（とど）まらずスキルレベルの経験値にまで適応（てきおう）される。

現在のスキルレベルこそ【１】レベルだが、此（こ）れが【２】レベルに為（な）れば【１８歳まで獲得経験値×２０倍とする能力スキル】に効果は撥（は）ね上がる。最大レベル【１０】で【１８歳まで獲得経験値×１００倍とする能力スキル】と化（ば）けるチートスキルだった。

良いよ！　オマエ（レベルの在（あ）るスキル）、良いよ！！

無属性魔法などの凡庸才能（コモンスキル）レベルが上がる快感（かいかん）に打（う）ち震（ふる）えるカルマだった。

通常（つうじょう）、プレイヤーネーム【カルマ】は無双プレイを好（この）まない。故（ゆえ）にシナリオクリア特典で獲得（かくとく）した凡庸才能（コモンスキル）でさえカスタマイズ時に使用した事は一度も無かった。

理由は『勿体（もったい）無（な）い』からだった。

折角（せっかく）のキャラアバターの特性を弄（いじ）るだなんてゲーム脳（のう）の変態（へんたい）に言わせれば、素材の味を活（い）かさないシェフ（料理長）ぐらい愚（おろ）かな行（おこな）いだった。

そんなカルマが自分の楽しみよりも、【創造神の試練】の両親の早世（そうせい）と仲間の無念（むねん）の運命（シナリオ）を、覆（くつがえ）し塗（ぬ）り直（なお）し改変（かいへん）する為（ため）に、死蔵（しぞう）して居（い）た固有才能（ユニークスキル）（レベル表示無し★）・特異才能（エクストラスキル）（レベル表示無し☆）・凡庸才能（コモンスキル）（レベル表示有り）を惜（お）し気（げ）も無くカスタマイズした。

全ては両親と仲間の為（ため）、カルマは自重を捨（す）てた。

現在（いま）のプレイアバター【カルマ】は言う為（な）れば、不正行為（チート）では無く超不正行為（スーパーチート）も通り越した埒外不正行為（ウルトラチート）な存在（そんざい）。

其（そ）の埒外不正行為（ウルトラチート）の一端（いったん）が、母体（ぼたい）と分体（ぶんたい）に分かれての効率的なレベル上げだった。

＜＜個体名【カルマ】の個体レベルが上がりました！＞＞

もうネズミとウサギじゃ効率（こうりつ）が悪いな～、次はキツネかシカかな～クマもいいな～！

そんな風に思いながらもスノーラットとスノーラビット狩りは続いていくが、近くにスノーウルフが居（い）ると解ると、方向転換（ほうこうてんかん）して次の獲物（えもの）を探し、【短距離転移（ショートワープ）】をしながら空中を進んでいく。

仲（・）間（・）に（・）は（・）今（・）は（・）近（・）づ（・）か（・）な（・）い（・）よ（・）う（・）に（・）しないとな～！

獲物（えもの）をスノーフォックスに切り替え効率的（こうりつてき）に狩りながらも、空中を進んで行くカルマの目の前に幾度（いくど）と無く飛び降りた【因縁（いんねん）の割れ目】が姿を現したのだった。

半年（はんとし）前倒（まえだお）しの打（ぶ）っ付（つ）け本番（ほんばん）か、・・・・・・ヤバいなドキドキする！

従来（じゅうらい）、【創造神の試練】時の【カルマ】は生後半年ほどで起きる村への襲撃イベントで、両親を亡くし極寒（ごくかん）の中に放（ほう）り出（だ）される。

其処（そこ）で初めて匍匐前進（はいはい）が可能になった処（ところ）から、本当の意味でのゲームが始まる。

放（ほう）り出（だ）されてから約三十分までに【凍死（とうし）するのが定番（デフォルト）】で、高難易度シナリオ【創造神への挑戦（創造神の試練の次に高難度なシナリオ）】をクリアした廃人（クリーク）達が心をポキポキ折られる、・・・・・・【鬼畜（きちく）の儀式（ぎしき）】。

其（そ）の儀式をクリア出来る、【創（・）造（・）神（・）の（・）試（・）練（・）】時（・）の（・）正（・）解（・）が居（い）る洞窟へ行く事が、今回でも正解かどうかはカルマとしても半年（はんとし）前倒（まえだお）しの状況では判断は付かなかった。

本当は洞窟の前で着地してから匍匐前進（はいはい）で奥へ進んで行き、従来（じゅうらい）の正解時の状況に少しでも近付けたかった。

しかし、レベル上げしたステータスを以（もっ）てしても、【運命（シナリオ）の設定】なのか、現状では匍匐前進（はいはい）が出来なかったのだ。

只（ただ）、今回の行動が不正解だったとしても両親と仲間の運命（シナリオ）を改変（かいへん）する為（ため）には、不正解も正解にする気概（きがい）のカルマだった。

「あぅあぅあぅあぁぁ～！（あいきゃんふら～い！）」

既（すで）に空中に浮いているカルマが赤ちゃん言語で叫び、割れ目の中に姿を消して往（い）った。既（すで）に目を瞑（つむ）っていても攻略可能な氷柱（つらら）アトラクションを軽快（けいかい）に捌（さば）いて、目的地の空間に到達する。洞窟は奥へ進んで行く程に、壁が淡（あわ）く青（あお）く蒼（あお）く光っていて段々と明るさを増していき、最奥（さいおく）は碧光（あおびか）りする水晶が、花のように壁と天井に咲いている広間が拡（ひろ）がっている。

其処（そこ）は幾度（いくど）と無く訪れた場所だった。

そんな中、空中を進んで行く【カルマ】の目の前に、【従来の正（・）解（・）】が、鎮座（ちんざ）していた。

・・・・・・むっちゃ！　くちゃ！　見てるな！

従来（じゅうらい）、【半年後の正（・）解（・）】は眠っている状態だったが、半年（はんとし）前倒（まえだお）しの状況では、正（・）解（・）は起きていて【カルマ】を凝視（ぎょうし）している。

正（・）解（・）としても、見た目普精霊人（ヒューマン）の赤ちゃんが空中を【短距離転移（ショートワープ）】して進んで来る様（さま）は、異様（いよう）其（そ）のものだったので凝視（ぎょうし）するしかなかった。

「あぅあぅあぅあぁぁ～♪（母（・）さ（・）ん（・）・・・・・・いただきます～♪）」

碧光（あおびか）りする花水晶が咲く神秘空間（しんぴくうかん）で、空中に浮かぶ【カルマ】が真（ま）っ裸（ぱだか）で叫（さけ）ぶ！　

其（そ）の視線（しせん）の先には、蒼光（あおびか）りの陽炎（かげろう）に身を包んでいる、【白（・）い（・）巨（・）狼（・）】が静かに佇（たたず）んで居（い）たのだった。

なっ、何（なん）だ！　何（なん）なんだ、一体（いったい）！

【十の災厄（アンタッチャブル）】の一角（いっかく）である【氷狼（ヒョウロウ）エンプレス】は唖然（あぜん）として固（かた）まった侭（まま）だった。

何（なん）じゃ、・・・・・・此（こ）の赤ん坊は！？

禁忌（きんき）の【ハルベルト山脈】の主（あるじ）は、空中を短距離転移（ショートワープ）しながら、自分のあ（・）る（・）一（・）点（・）だけを見つめながら、畏（おそ）れもなく進んで来る、真（ま）っ裸（ぱだか）の赤ちゃんに呆然（ぼうぜん）としてしまい為（な）す術（すべ）が無かった。

「あぅあぅあぅあぁぁ～♪（母（・）さ（・）ん（・）・・・・・・いただきます～♪）」

そして、徐（おもむろ）に自分の乳房（ちぶさ）に吸い付いた赤ちゃんに対して、【氷狼（ヒョウロウ）】エンプレスは為（さ）れるが侭（まま）だった。

何故（なぜ）なら、十の災厄（アンタッチャブル）である彼女に対して、此処（ここ）まで無防備に接して来た存在（そんざい）は今まで居（い）なかった事と、此（こ）の極寒（ごくかん）の地を人の身で、況（ま）してや生後（せいご）間（ま）もないであろう赤ちゃんが、真（ま）っ裸（ぱだか）で短距離転移（ショートワープ）しながら近付き、一心不乱（いっしんふらん）に自分の乳房（ちぶさ）に吸い付く姿に不覚（ふかく）にも完全に思考停止（しこうていし）して居（い）たからだった。

か・・・・・・か・・・・・・可愛（かわい）い！

其（そ）れが、【氷狼（ヒョウロウ）】エンプレスの母性（ぼせい）が目覚（めざ）めた瞬間（しゅんかん）だった！　・・・・・・其（そ）の瞬間（しゅんかん）から、無我夢中（むがむちゅう）に赤ちゃんは母乳（ぼにゅう）を飲み始めた！

＜＜ずきゅ～ん♪　・・・・・・固有（ユニーク）個体名【エンプレス】の個体名【カルマ】への好感度が一定の値（あたい）に達しました！＞＞

＜＜個体名【カルマ】が称号【氷狼（ヒョウロウ）の加護（カゴ）】を獲得しました！＞＞

従来（じゅうらい）、【創造神の試練】時の【氷狼（ヒョウロウ）】エンプレスとカルマの邂逅（かいこう）は、一つの奇跡（きせき）だった。

極寒（ごくかん）の中、放（ほう）り出されて死の時間制限（じかんせいげん）の制約（せいやく）を課（か）せられ、徐々（じょじょ）に減っていく生命力（HP）と寒さで悴（かじか）んで思うように動かない身体で、匍匐前進（はいはい）しながら【氷狼（ヒョウロウ）】エンプレスに辿（たど）り着いた時には、カルマの生命力（HP）は残り僅（わず）かだった。

カルマは【氷狼（ヒョウロウ）】エンプレスに辿（たど）り着き、母乳（ぼにゅう）を飲む事によって称号【氷狼（ヒョウロウ）の加護（カゴ）】を獲得して、何（なん）とか生き延びたのだった。

廃人（クラーク）の中の廃人（クラーク）、【廃神（オーバーアウト）】と呼ばれるカルマの体感レベルは、勿論（もちろん）最大値で設定しているので、現実の世界以（・）上（・）の敏感（ピーキー）な体感（触覚・痛覚等）が在（あ）る。

他の仮想現実ゲームでも常に、体感レベルと痛覚レベル機能の設定調節（ゲームごとに体感と痛覚との詳細なゲーム設定が各々違う）は最大値設定にして、格闘（ファイト）系、射撃（シューティング）系、隠密（アサシン）系、恋愛（ラブファイト）系などのゲームの最精鋭（トップランカー）達と日々凌（しの）ぎを削（けず）って居（い）たカルマのPS（プレイヤースキル）は、現実で実現可能なレベルまで技術として昇華（しょうか）して居（い）た。

其（そ）れが、【廃神（オーバーアウト）】と呼ばれる所以（ゆえん）の一つでも在（あ）った。

しかし、単純に体感レベルを上げればゲームが上手になる訳では無い。

研ぎ澄まされる感覚を使い熟（こな）し、痛みと其（そ）の恐怖に打ち勝って技術に昇華（しょうか）してこそ上達していくのだった。

但（ただ）し、体感レベルを最大値に近付けると言う事は、現実世界で実際に痛みを伴う行為（こうい）と同義（どうぎ）以上に近付けると言う事（小さい痛みが体感レベルの上昇値により、数倍の激痛として感じる事）を先（ま）ず理解しなければならない。

体感レベルの設定値の制作運営会社の推奨は三十パーセント（現実世界の体感と同等設定は五十パーセント）で、それ以上の設定にするには、ゲーム規約にある体感レベルによる障（・）害（・）事（・）故（・）及（・）び（・）死（・）亡（・）事（・）故（・）などはプレイヤーの自己責任で、制作運営会社は一切の責任を負わない旨（むね）に了解のサインをした廃人（クラーク）だけが挑める変態達（ヤバい奴ら）の狂宴（カーニバル）なのだ。

極寒（ごくかん）の寒さで身体が悴（かじか）み、思う様に動かない生後半年（せいごはんとし）ほどの赤ちゃんが、最適解（さいてきかい）を導き出す為（ため）に凍死（とうし）三百十八回と爆散死（ばくさんし）百五十八回を繰り返し試行して、【鬼畜（きちく）の儀式（ぎしき）】を体感レベル最大値設定で、嬉々（きき）として潜（くぐ）り抜けた。

ゲームに人生の全てを捧げたゲーム脳（のう）の変態（へんたい）が、【廃神（オーバーアウト）】と呼ばれるカルマの真（しん）の姿（すがた）だった。

ウグウグっ！　・・・・・・母（・）さ（・）ん（・）！　母乳（ぼにゅう）が美味（うま）過（す）ぎる・・・・・・ゲポっ！

FHSLG【アルグリア戦記】に於（お）いて、最高難易度のシナリオ【創造神の試練】が鬼畜無理（きちくむり）ゲー（超難易度過ぎて攻略が不可能、無理でしょうって言うゲーム）と言われるのは、単純にクリアしたプレイヤーが誰一人として居（い）なかったからで在（あ）る。

【創造神の試練】を攻略するには、あらゆる全てのものを活用しなければならない。

其（そ）の一つが、【称号の効果】である。

【アルグリア戦記】には、キャラアバターが元々（もともと）所持（しょじ）してる称号と、行動によって獲得出来る称号が在（あ）る。行動の結果で、所持（しょじ）称号（しょうごう）が上位（じょうい）称号（しょうごう）に書き替（か）えられ進化する場合も在（あ）る。

カルマが最初に獲得した称号【氷狼（ヒョウロウ）の加護（カゴ）】の効果は、寒冷耐性（かんれいたいせい）と狼（・）系（・）生（・）物（・）への威圧（いあつ）と魅了（みりょう）だった。

お腹一杯に為（な）りスヤスヤと眠る赤ちゃんを、白い巨狼が自分の尻尾で愛（いと）おしく包んで居（い）る。

巨狼は何故（なぜ）此（こ）の普精霊人（ヒューマン）（見た目が）の赤ちゃんは自分に対して、こんなにも無防備で居（い）られるのか自問自答（じもんじとう）する。

そして、自分への絶対的な信頼と一途（いちず）な愛情（あいじょう）を感じ、理由を考える事を放棄（ほうき）したのだった。

十の災厄（アンタッチャブル）の一角（いっかく）、【氷狼（ヒョウロウ）】エンプレスは運命（シナリオ）の設定（システム）上、【群（む）れない孤高（ここう）の狼（おおかみ）】だった。

狼は群（む）れる習性（しゅうせい）が在（あ）り、其（そ）れが本能（ほんのう）でも在（あ）った。

其（そ）れを在（あ）る意味、強引に螺子（ねじ）曲げた設定（システム）との不条理（ふじょうり）が、【不具合（バグ）】を生んだのかもしれない。

赤ちゃんの寝顔を見ていると、其（そ）の存在（そんざい）を守りたい無償（むしょう）の欲求（よっきゅう）が高まっていく。

其（そ）の熱い眼差（まなざ）しを感じた赤ちゃんが目を覚（さま）し、自分を見つめる巨狼にくしゃっと笑いかけた。

＜＜ずきゅ～ん♪　固有（ユニーク）個体名【エンプレス】の個体名【カルマ】への【好感度】が上限に達しました！＞＞

＜＜　固有（ユニーク）個体名【エンプレス】の個体名【カルマ】への【好感度】が【愛情度】に書き替えられました！＞＞

＜＜固有（ユニーク）個体名【エンプレス】の個体名【カルマ】への【愛情度】が上限に達しました！＞＞

＜＜固有（ユニーク）個体名【エンプレス】の個体名【カルマ】への【愛情度】が限界突破（げんかいとっぱ）しました！＞＞

＜＜個体名【カルマ】の称号【氷狼（ヒョウロウ）の加護（カゴ）】が【氷狼（ヒョウロウ）の寵愛（チョウアイ）】に書き替えられました！＞＞

＜＜個体名【カルマ】の称号【氷狼（ヒョウロウ）の寵愛（チョウアイ）】が【氷狼（ヒョウロウ）の愛息（アイソク）】に書き替えられました！』

「あぅ！？（えっ、マジ！？）」

極寒（ごくかん）の洞窟の中、巨狼の尻尾で包（くる）まれながらカルマが真（ま）っ裸（ぱだか）で呟（つぶや）く！　

其（そ）の視線（しせん）の先には、慈愛（じあい）の眼差（まなざ）しで見つめる蒼（あお）い瞳（ひとみ）のも（・）う（・）一（・）人（・）の母親が微笑（ほほえ）んで居（い）た。

「あぅあぅあぅあぁぁ！（ふむふむ・・・・・・マジか・・・・・・まっ、良（い）っか！」

従来（じゅうらい）の【創造神の試練】では、此（こ）の段階で【カルマ】が獲得出来た称号は【氷狼（ヒョウロウ）の加護（カゴ）】のみで、十八才で成人を迎えた時に称号【氷狼（ヒョウロウ）の寵愛（チョウアイ）】を獲得出来るのだったが。

【氷狼（ヒョウロウ）の寵愛（チョウアイ）】を超（こ）える上位称号が在（あ）ったとは！？

称号【氷狼（ヒョウロウ）の加護（カゴ）】の効果は、寒冷耐性（かんれいたいせい）と狼（・）系（・）生（・）物（・）への威圧と魅了（みりょう）だった。

其（そ）の称号効果を活（い）かして【カルマ】はスノーウルフを仲間にし、鬼畜仕様（きちくしよう）の縛（しば）りで能力値（筋力・知力など）は、【１】ポイントより上（・）が（・）り（・）も（・）下（・）が（・）り（・）も（・）し（・）な（・）い（・）が、個体レベル上げを十八才の成人に為（な）るまで続けた。

そして、【氷狼（ヒョウロウ）の寵愛（チョウアイ）】の称号を獲得してから、其（そ）の効果の寒冷無効（かんれいむこう）と狼（・）系（・）生（・）物（・）への統制と魅惑（みわく）を使って、スノーウルフの群（む）れを統率して大陸制覇（せいは）の足掛（あしが）かりにするのだった。

其（そ）れが今や、其（そ）れを超（こ）える称号を獲得した。

其（そ）の称号【氷狼（ヒョウロウ）の愛息（アイソク）】の効果は、寒冷無効（かんれいむこう）・寒（・）冷（・）操（・）作（・）と狼（・）系（・）生（・）物（・）への支配と傾国（けいこく）だった。

FHSLG【アルグリア戦記】のステータス表示には、【情報表示（インフォメーション）】・【状態表示（シチュエーション）】・【能力表示（アビリティ）】・【部隊編成表示（フォーメーション）】が在（あ）る。

【情報表示（インフォメーション）】には、名前・個体レベル・備考（年齢・種族・身分・職業・称号・才能・説明）が、【状態表示（シチュエーション）】には生命力（HP）・魔力（MP）・精神力（MSP）・持久力（EP）・満腹度（FP）が、【能力表示（アビリティ）】には、筋力（STR）・耐久力（VIT）・知力（INT）・敏捷（AGI）・器用（DEX）・魅力（CHA）が、【部隊編成表示（フォーメーション）】には、統率力（LEA）・攻撃力（OFF）・防御力（DEF）・機動力（MOB）・持久力（END）・戦法力（TAC）・士気力（MOR）・詳細が表示されて居（い）る。

鬼畜仕様（きちくしよう）の縛（しば）りで在（あ）る能力値を全て【１】ポイント固定で適用される能力値は、筋力・耐久力・知力・敏捷・器用・魅力で、どれだけ個体レベルを上げても【１】ポイントの侭（まま）で在（あ）った。

そんな状態で鬼畜仕様（きちくしよう）の最高難易度シナリオである【創造神の試練】をクリアするには称号効果と、もう一つのス（・）テ（・）ー（・）タ（・）ス（・）情（・）報（・）である【隠された（マスク）データ】への理（・）解（・）が必要で在（あ）る。

称号【氷狼（ヒョウロウ）の加護（カゴ）】、【氷狼（ヒョウロウ）の寵愛（チョウアイ）】で言えば、魅了（みりょう）は現在の魅力値×【１０】倍の効果が在（あ）り、魅惑（みわく）は×【１００】倍だった。

つまり、能力表示上の魅力能力値が【１】ポイントでも、称号効果で【１０】、【１００】と狼（・）系（・）生（・）物（・）限定で、【隠された（マスク）データ】として反（・）映（・）される。

威圧（いあつ）と統制（とうせい）は称号効果で在（あ）り才能（スキル）ではないので、鬼畜仕様（きちくしよう）の縛（しば）りである才能（スキル）枠の【0】で固定による、才能（スキル）を修得出来ない効果は元から適用外（てきようがい）で在（あ）った。

【カルマ】は、威圧（いあつ）と魅了（みりょう）の併用（コンボ）効果でスノーウルフを仲間にして、統制（とうせい）と魅惑（みわく）の併用（コンボ）効果でスノーウルフの群れ（パック）を統率したのだった。

《氷狼（ヒョウロウ）の愛息（アイソク）》、ヤバい！！！

称号効果が凄（すご）いのは勿論（もちろん）だが、【氷狼（ヒョウロウ）エンプレス】がカ（・）ル（・）マ（・）を（・）尻（・）尾（・）で（・）抱（・）え（・）込（・）ん（・）で（・）離（・）さ（・）な（・）い（・）のが一番ヤバかった。

称号【氷狼（ヒョウロウ）の愛息（アイソク）】の効果で在（あ）る【傾国（けいこく）】は、狼（・）系（・）生（・）物（・）限定で現在の魅力値×【１０００】倍だった。

【カルマ】が現在のステータス情報を確認する。

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【情報表示】：▼

氏名（NAME）：【カルマ】

個体LV：【１８】

備考：▼

年齢：【０歳】

種族：【森精霊人（エルフ）と普精霊人（ヒューマン）の混血（クオーター）】

身分：【未設定】

職業：【未設定】

称号：【異世界転生者】▼

　　　【異世界転生者】：転生した異界者（いかいしゃ）の称号。異世界言語（いせかいげんご）を使用可能。

　　　【プレイヤー】▼

　　　【プレイヤー】：ゲームプレイヤーの称号。ゲームシステムを使用可能。

　　　【氷狼（ヒョウロウ）の愛息（アイソク）】▼

　　　【氷狼（ヒョウロウ）の愛息（アイソク）】：寒冷（かんれい）無効（むこう）・寒冷操作（かんれいさうさ）と狼（おおかみ）系（けい）生物（せいぶつ）へ支配（しはい）と【傾国（けいこく）】効果（こうか）。

才能（スキル）：【分体（ぶんたい）分裂（ぶんれつ）★】▼

　　　【分体（ぶんたい）分裂（ぶんれつ）★】：母体（ぼたい）と分体（ぶんたい）に分裂（ぶんれつ）する能力スキル。

　　　【存在遮断（エクジストブロック）★】▼

　　　【存在遮断（エクジストブロック）★】：存在（そんざい）を別次元に隔離遮断（かくりしゃだん）する能力スキル。

　　　【睡眠修行（スリープトレーニング）★】▼

　　　【睡眠修行（スリープトレーニング）★】：睡眠中（すいみんちゅう）に経験値を獲得（極）する能力スキル。

　　　【魔力無双（マジックオーバー）☆】▼

　　　【魔力無双（マジックオーバー）☆】：現在の魔力値×１００００倍にする能力スキル。

　　　【状態（じょうたい）異常（いじょう）無効（むこう）☆】▼

　　　【状態（じょうたい）異常（いじょう）無効（むこう）☆】：諸有（あらゆる）状態異常を無効状態にする能力スキル。

　　　【心眼（しんがん）☆】▼

　　　【心眼（しんがん）☆】：鑑定眼の上位版の能力スキル。

　　　【神童（しんどう）LV３】▼

　　　【神童（しんどう）LV３】：１８歳まで獲得経験値×３０倍とする能力スキル。

　　　【念話（ねんわ）LV１】▼

　　　【念話（ねんわ）LV１】：念（ねん）で意思疎通（いしそつう）を図（はか）る能力スキル。

　　　【時空魔法LV１】▼

　　　【時空魔法LV１】：時空を操（あやつ）る魔法スキル。

　　　【無属性（むぞくせい）魔法（まほう）LV４】▼

　　　【無属性（むぞくせい）魔法（まほう）LV４】：無属性の魔法スキル。

　　　【他】▽

説明：▼

　　　【運命（うんめい）と宿命（しゅくめい）の申（もう）し子（ご）】

【状態表示】：▼

生命力（HP）：【３４６/３４６】

魔力（MP）　：【３４８００００/３４８００００】

精神力（MSP）：【３４９/３４９】

持久力（EP）：【３４３/３４３】

満腹度（FP）：【９９/１００】

【能力表示】：▼

筋力（STR）　：【３４１】

耐久力（VIT）：【３４１】

知力（INT）　：【３４１】

敏捷（AGI）　：【３４１】

器用（DEX）　：【３４１】

魅力（CHA）　：【３４１】

【部隊編成表示】：▼

統率力（LEA）：【未設定】

攻撃力（OFF）：【未設定】

防御力（DEF）：【未設定】

機動力（MOB）：【未設定】

持久力（END）：【未設定】/【未設定】

戦法力（TAC）：【未設定】/【未設定】

士気力（MOR）：【未設定】/【未設定】

詳細：▼

主将：【未設定】

副将：【未設定】

部隊：【未設定】

戦法：【未設定】

特性：【未設定】

説明：【未設定】

----------

良し！　状態値と能力値共に【３４０】成長ポイントも加算（かさん）されて居（い）る！

【神童（しんどう）】スキルの効果で成長ポイント（レベルアップ時に自動的に【１】～【２０】ランダム付与（ふよ））が確定で【２０】ポイントづつ付与（ふよ）されるからだ。

【神童（しんどう）】スキル！　なんて怖（おそ）ろしい子なんだ・・・・・・

おっ、個体レベルが【１８】に為（な）ってる！

眠る前が確（たし）か個体レベルが【１６】だった筈（はず）、大体一時間ほどでレベルが二つも上がってる！

やっぱり【固有（ユニーク）才能（スキル）】はチートだな！？

俺は眠る前にス（・）キ（・）ル（・）の（・）入（・）れ（・）替（・）え（・）を（・）し（・）て（・）居（・）た（・）。

FHSLG【アルグリア戦記】のルールの一つで在（あ）るスキル枠十枠の制限は、スキル枠（わく）撤廃券（てっぱいけん）で解除（かいじょ）されてスキルを十枠以上プレイアバターに付与可能（ふよかのう）に為（な）った。

しかし、常時（じょうじ）無限にスキルが使用出来る訳では無い。

十枠の制限ルールは存在（そんざい）した。

飽（あ）くまでも使用出来るのは【情報表示（インフォメーション）】にセ（・）ッ（・）ト（・）さ（・）れ（・）て（・）居（・）る（・）十（・）枠（・）の（・）ス（・）キ（・）ル（・）の（・）み（・）だった。

良かった、準備して居（い）て。

特別シナリオ【ゲーム世界に転生】をスタートするに当たり、両親と仲間の運命（シナリオ）を改変（かいへん）する為（ため）に、一切（いっさい）の妥協（だきょう）と自重（じちょう）をカルマはしなかった。

特典の能力値の限界突破券（げんかいとっぱけん）を使用して、普精霊人（ヒューマン）と森精霊人（エルフ）の混血（クォーター）の成長限界能力値（筋力・耐久力・知力・敏捷・器用・魅力の成長限界値）の壁を突破し、英雄ポイントで限界まで成長限界能力値を上げた。

其（そ）の結果、成長限界身体能力値の各（・）数（・）値（・）が【∞（無限表示）】になって居（い）る。

つまり、上限（じょうげん）無（な）しで育成出来ると言う事で在（あ）った。

そんな状態で育成出来ないのは俗（ぞく）に言う【蛇の生殺し】で在（あ）り、廃人（クラーク）の中の廃人（クラーク）、【廃神（オーバーアウト）】と畏怖（いふ）を込めて呼ばれて居（い）たカルマには我慢が出来ない事だった。

「あぅあぅあぅあぁぁ～！（育成出来ないじゃないかぁ～！）」

カルマにとって育成とは寸暇（すんか）を惜（お）しんでするもので、御褒美（ごほうび）、否（いや）至上（しじょう）の喜び以外の何物でもなかった。

しかし、こう言う事態（じたい）にも対処（たいしょ）する為（ため）に、準備万端（じゅんびばんたん）で生物との意志疎通（いしそつう）を図（はか）る才能（スキル）【念話（ねんわ）LV１】を、カスタマイズ時にキャラアバター【カルマ】に付与（ふよ）して居（い）た。

『母さん、少し離して欲しいんだけど？』

『なっ！　・・・・・・』

【氷狼（ヒョウロウ）エンプレス】は、カルマから初（・）め（・）て（・）念話で話し掛けられた衝撃（しょうげき）よりも、初（・）め（・）て（・）拒絶（きょぜつ）された事に衝撃（しょうげき）を受けているようだった。

＜＜固有（ユニーク）個体名【エンプレス】が個体名【カルマ】から精神攻撃を受け状態異常【精神崩壊（せいしんほうかい）】になりました！＞＞

えっ！？

【氷狼（ヒョウロウ）エンプレス】はカルマに拒絶（きょぜつ）されたと思い込み、初めての【反（・）抗（・）期（・）】の衝撃（しょうげき）で魂（たましい）に大打撃を受けたのだった。

『そ、そん、・・・・・・な！？』

＜＜個体名【カルマ】は固有（ユニーク）個体名【エンプレス】に精神攻撃を仕掛けました！＞＞

【氷狼（ヒョウロウ）エンプレス】は苦悶（くもん）の表情で、カルマを見つめた侭（まま）大粒（おおつぶ）の泪（なみだ）をポロポロと溢（こぼ）し出す。

あああ～、此（こ）の状況は何度も見た事が在（あ）る！

デレデレにデレた【親バカ（モンスターペアレント）】にバージョンアップした母（かあ）さんだ！！

でも、何（なん）かいつもよりも大袈裟（おおげさ）じゃ無いかな？

いつもは目に泪（なみだ）を溜（た）めるだけだったのに！？

あっ！　【氷狼（ヒョウロウ）の愛息（アイソク）】か！？

確（たし）か【傾国（けいこく）】は、狼（・）系（・）生（・）物（・）限定で現在の魅力値×【１０００】倍。

つまり、【能力表示（アビリティ）】上は魅力値は【３４１】ポイントでも、【隠された（マスク）データ】では、【３４１０００】ポイントに為（な）る！？

あっ、やっちまったか、・・・・・・も？　

ゴクリ・・・・・・

【氷狼（ヒョウロウ）エンプレス】は懊悩煩悶（おうのうはんもん）の極地（きょくち）に達（たっ）して居（い）た。此（こ）の赤ん坊を護（まも）りたい想いで満（み）ち溢（あふ）れ慈（いつく）しんで居（い）た処（ところ）を、最愛（さいあい）の存在（そんざい）に昇華（しょうか）した赤ん坊に拒絶（きょぜつ）された。

【氷狼（ヒョウロウ）エンプレス】は痛恨（つうこん）の攻撃を精神に受けて、病（や）んでバッタリと倒れ伏（ふ）したのだった。

＜＜個体名【カルマ】は固有（ユニーク）個体名【エンプレス】を討伐しました！＞＞

「あぅあぅあぅあぁぁ～！（えええぇぇ～マジか～！）」

極寒（ごくかん）の洞窟の中、驚愕（きょうがく）の表情でカルマが真（ま）っ裸（ぱだか）で叫（さけ）ぶ！　

其（そ）の視線（しせん）の先には、白い巨狼のも（・）う（・）一（・）人（・）の母親が、瞬時に【回（・）収（・）】さ（・）れ（・）て（・）消えていく、空虚（くうきょ）な空間だけが映っていた。

真（ま）っ裸（ぱだか）のカルマは驚愕（きょうがく）の表情で、瞬時（しゅんじ）に【回（・）収（・）】さ（・）れ（・）て（・）消えていくも（・）う（・）一（・）人（・）の母親見つめながら、何故（なぜ）か遠（・）い（・）目（・）をして居（い）た。

＜＜個体名【カルマ】の個体レベルが上がりました！＞＞

～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～

＜＜個体名【カルマ】の個体レベルが上がりました！＞＞

＜＜個体名【カルマ】は称号【氷狼（ヒョウロウ）の討伐者（トウバツシャ）】を獲得しました！＞＞

＜＜個体名【カルマ】は称号【精神破壊者（ソウルバスター）】を獲得しました！＞＞

＜＜個体名【カルマ】は災厄（カラミティ）武器（ウエポン）【氷狼（ヒョウロウ）の長剣（バスターソード）と丸盾（ラウンドシールド）】を獲得しました！＞＞

FHSLG【アルグリア戦記】に於（お）いて、ゲームクリアとは【アルグリア大陸制覇（せいは）】で在（あ）るが、其（そ）のゲームクリアの仕方によってクリア結果が別れていた。

所属する勢力の【覇者】としてクリアする【通常制覇】と、在（・）る（・）条（・）件（・）を（・）満（・）た（・）し（・）て（・）所属する勢力の覇者としてクリアする【完全制覇】が在（あ）り、所属する勢力の【一員】としてクリアする【所属制覇】と、在（・）る（・）条（・）件（・）を（・）満（・）た（・）し（・）て（・）所属する勢力の【一員】としてクリアする【完全所属制覇】が在（あ）った。

又（また）、【単独】で自分以外の勢力を殲滅（せんめつ）してクリアする【殲滅（せんめつ）制覇】と、在（・）る（・）条（・）件（・）を（・）満（・）た（・）し（・）て（・）【単独】で自分以外の勢力を殲滅（せんめつ）してクリアする【完全殲滅（せんめつ）制覇】が在（あ）る。

此（こ）れらの制覇の中の在（・）る（・）条（・）件（・）を（・）満（・）た（・）し（・）て（・）の条件とは、【十の災厄（アンタッチャブル）の全討伐】で在（あ）る。

災厄には弱点が個体ごとに存在（そんざい）するが、其（そ）の弱点が判明しても討伐不可能なのが災厄で在（あ）った。

災厄の縄張り（テリトリー）を犯しただけで【敵認定（ヘイトロック）】され、最（・）低（・）でも所属勢力が滅ぶ危険度が限りなく高いのは、【不（・）可（・）避（・）の（・）神（・）罰（・）】と呼ばれる所以（ゆえん）で在（あ）る。

そんな鬼畜仕様（きちくしよう）の存在（そんざい）で在（あ）る【十の災厄（アンタッチャブル）】を全討伐して、鬼畜仕様（きちくしよう）シナリオ【創造神の試練】を完（・）全（・）制覇（クリア）したカルマを以（もっ）てしても、も（・）う（・）一（・）人（・）の母親が亡くなった理由が、自分の何気（なにげ）ない一言で在（あ）った事実を受け入れる事は難しかった。

従来（じゅうらい）の【創造神の試練】では、十の災厄（アンタッチャブル）の一角（いっかく）、【不死鳥（フシチョウ）】との戦いで、も（・）う（・）一（・）人（・）の母親が、【不死鳥（フシチョウ）】の動きを封（ふう）じカルマは泣く泣く母親（ははおや）諸共（もろとも）【不死鳥（フシチョウ）】を討伐した経緯（けいい）が在（あ）る。

真逆（まさか）自分の一言が原因で、こんなにも呆気（あっけ）なく亡くなるとは・・・・・・

嘘だと言ってくれよ！　母（・）さ（・）ん（・）！

称号【氷狼（ヒョウロウ）の討伐者（トウバツシャ）】は、他のプレイアバターを含めて討伐経験があるので称号効果は知って居（い）る。

純粋（じゅんすい）に強くなる称号で、効果は現在の【身体能力値×１０倍】と【獲得経験値×１０倍】で在（あ）った。

そして、【氷狼（ヒョウロウ）】エンプレスを言葉（精神攻撃）だけで討伐したからか、称号【精神破壊者（ソウルバスター）】を獲得したのだった。

　称号【精神破壊者（ソウルバスター）】の効果は、任（・）意（・）に【精神破壊効果】を攻撃に付与（ふよ）すると言う【超不正行為（スーパーチート）】なものだった。

攻撃する度に精神をゴリゴリ削（けず）っていき、精神力（MSP）値が【０】ポイントに為（な）ったキャラアバターが気絶状態に為（な）るだけでも凄（すご）い効果なのに、部隊編成した者にも精神破壊効果を付与（ふよ）するものだからだ。

精神破壊者（ソウルバスター）か、【師（・）匠（・）】が好きそうな効果だなぁ～！

カルマは前世では仮想現実ゲームを色々プレイして居（い）たが、FHSLG『アルグリア戦記』は一人用やり込み型戦争ゲームなので【師匠（ししょう）】と絡（から）む機会（きかい）は少なかった。

其（そ）の為、【ボイスチャット】でゲームプレイ中に情報交換をして居（い）た。

しかし、師匠（しよう）と呼ぶ理（・）由（・）や所以（ゆえん）は決して、仮想現実の世界では口にしなかった。

内（・）密（・）な（・）話（・）は情報が漏（も）れない【アナログな方法（手紙）】で、現実世界でのみ情報交換をして居（い）た。

師匠（ししょう）に何故（なぜ）此（こ）のような手間（てま）を掛けるのかと問うと、決まって『カルマ、此（こ）の世の中には知らない方が幸せな事が結構（けっこう）在（あ）るんだ』と手紙に記（き）される。

徹底（てってい）した秘密主義の師匠（ししょう）。イカれた変態（へんたい）は現実世界でもイカれた存在（そんざい）なのかも知（し）れない。

あの【やられたらやり返す】ルールに忠実な、狂人のプライベートを知りたいとは全く思わない。

だが、ゲーム世界に現実（リアル）に転生して、唯一（ゆいいつ）現実世界の心残りは【師匠（ししょう）】の事だけだった。

ゲームを一緒に遊んだ仲間は沢山（たくさん）居（い）るが、一緒に遊んでいて心から楽しいと思ったのは師匠（ししょう）だけだった。

PS｜（プレイヤースキル）は超下手くそ（ゴミ以下）な癖（くせ）に、DOQ（ドキュン）で最精鋭（トップランカー）廃人（クリーク）の知り合いが結構（けっこう）居（い）る変わった人だった。

初めて師匠（ししょう）と出会ったゲームは、MMOWG【矛盾（バストーロ）】で、多人数参加型戦争ゲーム（矛盾の世界時間は二十四分の一秒で、現実世界の一時間が仮想現実世界の二十四時間に相当する）だった。

戦争の度に【独特な文言の歌】を唄いながら、敵を容赦（ようしゃ）無（な）く襲う人だった。

そんな師匠（ししょう）の口癖（くちぐせ）が、『俺達は戦争ゲームをしているんじゃない！　心理ゲームをしているんだ！』、『心を攻めろ！　精神を削（けず）るんだ！　ゴリゴリ削（けず）れ！』、『どんな最精鋭（トップランカー）も心が折れたら、只（ただ）の木偶の坊（デク）だ！　心を削（けず）れ！』だった。

【矛盾（バストーロ）】では師匠（ししょう）は忌（い）み嫌（きら）われていたが、決して自分からは戦争を仕掛けなかったし全て報復戦争で、一旦戦争が始まると敵が数倍の圧倒的勢力でも、確実に勝てないと判断出来る相手でも、畏（おそ）れなかったし、諦（あきら）めなかったし、止（と）まらなかった。

現実世界での夜討（よう）ち朝駆（あさが）けの時刻（じこく）でする仮想現実世界の夜討（よう）ち朝駆（あさが）けは当たり前で、人が嫌がる攻撃を余（あま）りにする行為（こうい）と、攻撃されなければ決して攻撃しない師匠（ししょう）の【独特な掟（ルール）】から付いた渾名が【凶神（触らぬ神に祟り無し）】だった。

そうだ！　俺は師匠（ししょう）の強烈な意志（執念）に惹（ひ）き付けられたんだ！

茫然自失（ぼうぜんじしつ）から解けたカルマは、積極的に動き出した。

【氷狼（ヒョウロウ）エンプレス】が討伐（とうばつ）されたと言う事は、氷狼（ヒョウロウ）の息吹（いぶき）で凍（こお）ったものが溶（と）け始める。

確（たし）か設定情報ではハルベルト山脈に隣接する氷柩の王国（コキュートス）と呼ばれる地域が在（あ）る。現在脳裏地図（マインドマップ）と脳裏情報（マインドインフォメーション）では、旧アクリス王国跡の注釈（ちゅうしゃく）が付く場所だ。

氷解し始めて春期になったら氷柩の王国（コキュートス）が真（しん）の姿を現す。此（こ）れは大事に為（な）る。

呆（ほう）けてる時間は無いぞ！　父（・）ち（・）ゃ（・）ん（・）と母（・）ち（・）ゃ（・）ん（・）と仲間の運命（シナリオ）を改変（かいへん）するんだ！

洞窟を飛び出したカルマは旧アクリス王国跡を目指し、脳内地図（マインドマップ）を参考にして、【長距離転移（ロングワープ）】したのだった。

「あぅあぅあぅあぁぁ～！（根刮（ねこそ）ぎ、いただきます～！）」

極寒（ごくかん）の雪化粧（ゆきげしょう）の中、空中に突然出現したカルマが真（ま）っ裸（ぱだか）で叫（さけ）ぶ！　

其（そ）の視線（しせん）の先には、【氷柩の王国（コキュートス）】と呼ばれる、雪が降り積った旧アクリス王国跡（墓標）が沈黙を守って居（い）た。

やっと着いた！

旧アクリス王国の王都ロックスまでに在（あ）る、全ての村・町・市街を脳内地図（マインドマップ）と脳内情報（マインドインフォメーション）で、漏（も）れが無いように確認しながら訪（おとず）れ、建物以外全（・）て（・）の（・）も（・）の（・）を回収しながら来たカルマだった。

結構（けっこう）手間取（てまど）ったな、では！　根刮（ねこそ）ぎ、いただきます！

見渡す限りの雪原の中で、一ヶ所だけ氷が三角帽子のように出っ張っている処（ところ）が、王都ロックスにある石塔を頂点とするロックス城だっだ。

そして、カルマは休む間も無く空中を短距離転移（ショートワープ）をしながら、その氷の山の中に消えていった。

寒冷操作（かんれいそうさ）、ヤバい効果だ！

称号【氷狼（ヒョウロウ）の愛息（アイソク）】の効果で在（あ）る、寒冷無効（かんれいむこう）と寒冷操作（かんれいそうさ）の併用（コンボ）効果で、雪嵐（ブリザード）の中だろうが氷の中だろうが、関係なく息も出来て何（なに）も無い空気中のように進んで行けるのだった。

そして、任意で自由に寒冷（かんれい）を操作（そうさ）して称号効果で自身のMP（魔力）を一切使わずに周囲の魔素を取り込んで雪嵐（ブリザード）を起こし、任意の範囲を凍り漬け（氷柩の王国（コキュートス）と同じ効果）に出来る、超不正行為（スーパーチート）を超える埒外不正行為（ウルトラチート）な効果だった。

氷中世界のロックス城は、王族を始め王城で働く全ての人々の時間が止まって固まって居（お）り、其（そ）れはまるで生（・）き（・）て（・）い（・）る（・）かのようだった。

FHSLG【アルグリア戦記】は、一人用やり込み型ファンタジー歴史シミュレーションゲームで熱狂的（コア）な愛好者（ファン）を獲得して居（い）た。

お気に入りのキャラアバターで戦争関係無くアルグリア大陸の生活を楽しむプレイヤーが居（い）れば、同じ所属勢力内キャラアバターで立場を代えて楽しむプレイヤーも居（い）る。

現実世界の様々（さまざま）な立場のプレイヤーがゲーム世界で自分（じぶん）好（ごの）みの様々（さまざま）な立場のプレイヤーとしてプレイをする。

そんな現実を束の間忘れさせてくれる究極の娯楽世界。

制作運営会社曰（いわ）く、『アルグリア戦記』が一人用であるのは、同じ時間軸で色々なキャラアバターで遊ぶ事で歴史のもしも（if）を体験して貰いたかったからだった。

弱小勢力でもアルグリア大陸の歴史を知っていれば（知識チート）、この時代に存在（そんざい）しない政策（内政チート）、存在（そんざい）しない武器（生産チート）を駆使（くし）して歴史を誰（・）も（・）が（・）創意工夫で変える事が出来る、可能性を秘めた世界がFHSLG『アルグリア戦記』だった。

やっと終わった！

王都ロックスを含め、氷柩の王国（コキュートス）に囚（とら）われた旧アクリス王国の全ての村・町・市街を訪れ、建物以外の全（・）て（・）の（・）も（・）の（・）を回収し、寒冷操作（かんれいそうさ）で氷柩の王国（コキュートス）と同様（どうよう）に再度（さいど）凍（こお）り漬（づ）けにして、氷狼（ヒョウロウ）が討伐された証拠を封印（隠滅）したカルマだった。

災厄の縄張り（テリトリー）は迷宮（ダンジョン）だから、洞窟まで一（・）回（・）で（・）転（・）移（・）出来ないのが手間だなぁ～！

そう思いながらカルマは氷柩の王国（コキュートス）から、長距離転移（ロングワープ）を使用して一瞬（いっしゅん）で姿を消した。

やっと帰って来た・・・・・・

カルマは洞窟を進み、碧光（あおびか）りのする花水晶の間に短距離転移（ショートワープ）で入っていく。

『お帰り、坊や！』

『ただいま！　母（・）さ（・）ん（・）！』

極寒（ごくかん）の花水晶の間で、空中に浮かぶカルマが真（ま）っ裸（ぱだか）で元気に挨拶（あいさつ）をする！　

其（そ）の視線（しせん）の先には、自分が討伐（とうばつ）してしまった白い巨狼、も（・）う（・）一（・）人（・）の母親が静かに微笑んで居（い）た。

・

【アルグリア戦記】には、セーブ機能（きのう）は存在しない。全て最初からのスタートと為（な）る。現（・）実（・）の（・）世（・）界（・）で、セーブなどは出来る筈（はず）もない。此処（ここ）は【アルグリア世界】、もう一つの現実の世界。現実の一秒が、三千百十万四千秒に相当（そうとう）する仮想の現実世界。現実の一時間が、百二十九万六千日（三千五百五十年と二百五十日）に相当（そうとう）する【悠久（ゆうきゅう）の歴史（れきし）を刻（きざ）む世界（せかい）】。