脅威
………
「というわけで、少し周りを歩いてきたいんです。」
「なるほど、了解です。」
ジャパリパーク、ロッジにて。
外出に関する相談を宿主……いや、ロッジ主?
まぁ、ここの主であるアリツカゲラさんにしてみている。
「じゃあ、日が暮れるまでに帰ってきていただければ、それで大丈夫です。」
「わかりました。」
日没までとなると、まだかなり時間は残っているだろう。
「じゃあ、行ってきますね。」
「はい、お気を付けて。」
と、扉を開けて外に出る。
樹高が高いとはいえ、針葉樹の葉の隙間からは十分光が見える。
今は正午近くだろうか。
時間はたっぷりある、ゆっくり歩き回ろう。
ついさっき上った階段を下りる。
相も変わらず段数が多い。
どうやら盛り上がった場所に道路が敷かれているようで、そこに合わせるように階段が設置されているようだ。
そこからは橋で屋内に入る、といった感じだろう。
改めて見ると、この周辺の木の樹高はとても高い。
ロッジそのものも高い位置にあるのに、そのさらに上にまで木々が伸びている。
何かしらの過程が大事だったのか、それとも環境がそうさせたのか、それはよくわからない。
少し不思議だ。
さて、階段を下りた先にはちょっとした道のようなものがある。
何者かの往来でできた訳ではなく、人の手により敷かれた道のようだ。
これを辿っていけば、何かしらがあるのかもしれない。
少し歩いてみようか。
……
「おぉ……。」
道を辿った先。
そこにあったのは、透き通った水たまり。
大きさ的には池と言うのが自然だろうか?
「……。」
地表にある水の溜まった場所にしては、水が澄んでいて透明だ。
ここまで綺麗な池というのはなかなか見ないし、水中に植物も生えていない。
やはり土壌に何かがあるのか、それともこれも『サンドスター』とかいうのの影響なのか。
僕にはわからないけど、これは生活用水として優れたものだと思う。
起きてそのまま水浴びでもすれば、すっかり目も覚めるだろう。
不快感もないだろうしね。
さて、ここまでこの池に関して色々考えてはいたけど、僕の荷物には絵描き道具が入っていることを覚えているだろうか。
僕はこういう自然の風景を描き写すのが好きだ。
むしろ、こういう風景を発見するために散歩をしていたといっても過言ではない。
見つけたからには、描かねば。
近場にある平らな石に座る。
道具を取り出し、大まかな構造を決める。
できるだけリアルかつ綺麗に。
完成系をイメージしながらスケッチブックに描き始める。
「……。」
趣味、というのは大事だと思う。
ここに来てまだ一日すら経っていない今で、誰と話すでもなくこうやって気を紛らわすというのは間違ったことかもしれない。
だけど、こうやって絵を描いたら他人に見せられる。
少しは自分を知ってもらうきっかけにならないかな?
「……よし。」
考え事をする余裕は最初はなかった。
けど、今なら何かを考えながらでも多少絵が描ける。
今のうちに、してみたいことでも漠然と考えておこう。
まず第一に、いくつかある『地方』のうち、いくつかを
きっとまだ会ったことの無いフレンズさんとも出会えるはずだし、綺麗な場所も見つかるはずだ。
そしたら、何度か遊びに行ける施設や、永住できる施設なども探してみたい。
巣穴暮らしも考えのうちには入るけど……まぁ、これだけ建物があるパークのことだし、どこか一箇所くらいは空いてそうではある。
空いてなかったら……え、どうしよ、頼み込む……?
それと、パークについて調べれば調べるほど分からなくなったこともあった。
何かしらの『脅威』とでも呼ぶべき存在が、パーク内にいたらしい。
パークが封鎖されてからだいぶ経っているけど、それが今も居るのであれば……。
まぁ、対処できるようになる必要はあるか。
要は友達作りの旅と、住まい探しと、自己防衛手段の確立だ。
これらを同時には厳しいかもだけど、少しずつゆっくりやっていけばいいだろう。
大丈夫、きっとうまくいくさ。
「っと、こんな感じ……かな。」
しかしあれこれ考え事をしていると恐ろしいのは、気付いたら時間が消し飛んでいることだ。
もう絵は描き終わりそうなところまで進んでいる。
そこまで丁寧に描いていないというのはあるし、描き直すというのはありだと思うけど……。
「いい感じじゃない……?」
自画自賛とはこのことだ。
現実そっくりな光や色彩、木々の形。
細かなところを比べてしまうと粗が見つかるかもしれないが、ぱっと見る限りだとずいぶん綺麗な絵に仕上がった。
これには僕自身も満足、2点……は冗談として、90点をつけても問題ない。
「……♪」
上機嫌。
鼻歌を歌いながら、あと少しの部分を仕上げていく。
「……よしっ。」
新しく買ったスケッチブックの1枚目、そこを飾ったのはパークに来て初めて見つけた水源。
綺麗な綺麗な反射と透過、素晴らしい題材だった。
「さて、もう少し歩いてみようかな。」
軽く伸びをする。
きっと絵もそこまで時間はかかっていないはず。
もっといい景色を探しに行こう。
………
「うーん……。」
ここに来て問題が生まれてしまった。
「ここ、何も無いな?」
そう。
見所も描き所も、話題になりそうなものも、不思議な物も何もない。
「……帰ろうかな。」
周囲はほとんど歩き尽くして、おそらく見落しもない。
これ以上は時間の無駄だろう。
あの池以外は特に何もない、それで終わりかな。
ロッジへ続く道を歩く。
散歩道としては綺麗だが、道の左右には雑草が生い茂り、人の手が入っていないのが伺える。
少し残念だ。
左右に花でも植えられていれば、周囲の木と合わせて綺麗な景色になっただろうに。
まぁ、無い物は何を言っても無い物だ。
これも仕方ないか……と、そんな事を考えていると。
「っ……?」
嫌な予感が鼻につく。
特に匂いはしないのに、確実に何か変なモノを鼻が察知している。
そう、それは言うなれば……
「天敵……?」
最も自然な言葉はこれだ。
生命の危機を感じる。
これが例の『脅威』なのか、それとも別物なのか……。
危ないのは分かっているけど、様子を見に行ってみたい。
少しだけなら……大丈夫じゃない?
行ってみよう。
何をしてくるかはわかったもんじゃないけど、多少のことには対処できるはずだ。
………
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