近付く。
ロッジへ
……………
……
さて。
警戒されながらもなんとか宿泊(予定)場所に行けそうではあるけど、その案内人……こと、僕に似たフレンズさん。
僕と彼女の間の空気は、はっきり言って……
「「……。」」
気ㅤまㅤずㅤいㅤ。
彼女はずっと警戒しているようにこちらを睨んできたり、何かを考えるような動作をしながら歩いている。
話しかけようにも話すこともないし、話す必要も無い。
でも、この空気は少し
どうしたものか、と。
「……あそこだ。」
そう悩んでいると、無口な案内人だった彼女は口を開いた。
その指差す先に見えたのは、パンフレットに載っていた通りの綺麗な建物だった。
「おぉ……。」
今まで通ってきた道は随分と低い場所だったことがわかった。
人工的に固められた、少し高いところにある道路。
そこまで登ってから橋を渡り建物に入る、というのが本来の入口のようだ。
目立ちにくいながらも装飾がある。
恐らくだが、あそこが正面入口なんだろう。
「こっちだ。」
「あっ、はい。」
無口な案内人は変わらず僕の先を行く。
感動したり観察したりしている暇は与えてくれなさそうだ。
遅れないようにと、階段を駆け上がる。
なかなかの段数があり、少し辛い。
タイリクオオカミさんは苦でもなさそうに登っていくのを見るに、やはり純粋なフレンズの身体能力というのはかなり強いようだ。
「あそこの橋を渡るんだ。とりあえずはこれさえ覚えておけば大丈夫。」
「はい、ありがとうございます。」
「……。」
最低限しか話してくれない彼女を見ていると、この先が不安になってくる。
他のフレンズさんとも話す機会は間違いなくあるはずだが、毎回毎回こうなっては僕の精神がもたない。
大丈夫かな。
「アリツさん、一旦だけど戻ったよ。」
「あれ、用事があったんじゃないんですか?」
先の心配をする暇すら与えてくれなかったのか、案内人は既に扉を開けてその役目を終えたところだった。
どうやら中に『アリツさん』という、別のフレンズがいるらしい。
「ああ、見知らぬフレンズ……いや、フレンズに近い誰かを見つけてね。一旦戻ってきたんだ。」
「フレンズに近い誰か……?」
お互いに姿は見えないため声から察するしかないが、かなり困惑しているようだ。
顔を出した方がいいものか。
そう考える間もなく、僕の前に立つ彼女はこちらを一瞥し、入ってくるように指示をした。
無論従わないわけにはいかないだろう。
「どうも、はじめまして。」
「あっ、はじめまして!なるほど、フレンズに近い誰か……。確かに普通のフレンズとは少し雰囲気が違いますね。」
「ま、そういうことだよ。」
どういうことなんだろう。
それは僕には分からないけど、何かが違うらしい。
「タイリクさんと似ていますね。」
「みたいですね。」
「……。」
他人から見ても瓜二つなのか、そう言われるけど、その言葉は彼女を不機嫌にしていそうで少し怖い。
まぁ不審者と似てるって言われたら確かに嫌だけど、悲しいなぁ……。
「……そうだ、ここなら泊まっていいかもって聞いたんですけど、大丈夫ですかね?」
「あっ、宿泊ですか!?それなら大歓迎ですよ〜!お部屋を紹介しますね!」
おぉ、部屋のことになると急にテンションが上がった。
中々変わったフレンズさん……なのかな?
「じゃあ、私はもう一度行くよ。」
「は〜い、いってらっしゃい!」
と、ここでタイリクオオカミさんがまたどこかへと出かけた。
……いや、ちょっと待て。
ロッジに着いたら自己紹介するって言ったのに、全然自己紹介も何もしてないじゃないか!
……まぁ、別にいいか。
どうせ自己紹介はすることになるんだしね。
「さて、じゃあ着いてきてくださいね。」
「はい。」
彼女について考えるのはここまでだ。
ここからはアリツカゲラさんに紹介してもらわないと。
さっきのパンフレットによると、様々な種類の部屋があって、フレンズと人のどちらにも幅広く対応しているらしい。
もっとも、人の居なくなってしまった今、どのような管理体制が採られているのかは知らないけどね。
少し気になるし、楽しみだ。
……
まず一言目は、すごい。
暗くて湿っている『しっとり』、ハンモックで寝られる『ふわふわ』、バルコニーのある『みはらし』、恋人用の設備付きの『なかよし』、空調設備で高めの気温が維持されている『ぽかぽか』など、これ以外にも多種多様な部屋があった。
人とフレンズ、どちらの事も最大限考えて作られているこの設備からは、かつてここにいた人間の情熱というのを読み取られる。
そしてそれ以上に驚いたのは、この広さの建物の管理をほぼ全てアリツカゲラさん一人で行っていることだ。
『ボス』と呼ばれる何かが手伝ってくれることも多いようだけど、毎日これらの、言ってしまえば一癖も二癖もある面倒な部屋を全て使える状態で整えているというのは……すごい、の一言だ。
しかしまぁ、僕はヒトであり、タイリクオオカミだ。
比較的寒さに強い体であるため、そこまで暖かくない気候になっている……と、パンフレットに書かれていたこの辺りでは空調すら必要ない。
まぁ……つまりは、この一癖も二癖もある部屋のほとんどは僕とは無縁ということだ。
現に宿泊客もいないように見えるし、そう考えると少しもったいなく感じてしまう。
まぁそんなことはどうでもよくて。
いやよくはないけど、今は置いておいて。
「……どの部屋がいいですか!?」
……これ以上ないハイライトを目に宿してこちらを見ているアリツカゲラさんに応えなければ。
暗くて湿っているのは合わないし、ハンモックの部屋も魅力的には感じない。
前述の通り、空調での温度調節は必要ないし……まぁ、相手がいないというのもあってなかよしも却下。
となると、
「みはらしにします。」
自ずとこうなってくるだろう。
「おぉ、みはらしですね!ここに泊まるフレンズさん達にも人気の高い部屋なんですよ〜!」
「簡単に外の空気を吸えるっていうのはいいですよね。」
「ですよね〜!」
うーんテンションが高い。
だからこそ、客が来ないともったいないと思ってしまうんだけどね。
「さて、この後はどうしますか?」
この後か。
とりあえずは、兄に頼んだ『荷物』をどうにかして、あとは……また終わってから決めようかな。
「とりあえず、部屋に行って一息つこうと思います。わざわざありがとうございました。」
「いえいえ、これからもロッジアリツカをよろしくお願いします!」
「はい、お世話になります。」
これからしばらくの間はここにいることになりそうだ。
できれば永住できる場所も探したいけど、それもまた今度かな。
それまでは、よろしくお願いします。
……
「えーっと……。」
どういう構造をしているのかよく分からないボタン。
押して……みないと始まらないか。
とりあえず、ポチっとな。
「わっ!?」
すると出てきたのは、事前に荷造りしておいた荷物たち。
よく分からない音を立て、目の前の空間に急に現れたように見える。
「ほんとに一瞬だし……。」
その中身は、僕の入れた通りになっている。
お遊びにと持ってきた物、生活にいると思って持ってきた物、趣味に必要な物、訓練に必要な物……。
その中でも……
「そう、これだ。」
兄と同じ青のジャケット。
思い出が僕を寒さから守ってくれるかな……なんて。
今はまだ着ないけどね。
「……まぁ、整理することもないか。」
入れる段階から既に整えてあるから、驚く以外にすることがないというのが事実。
さーて、どうしたもんだかね。
……。
よし、まずは周辺から見に行こう。
この辺りを把握するというのは、別に悪い考えじゃない。
それと、時間も潰したいしね。
何を持っていこうか。
とりあえず小さめのバッグ。
それと……絵を描く道具。
これは趣味の部分。
あとはまぁ、メモ帳や筆記用具をすぐに出せる位置にしまっておこう。
これでいいだろう。
さて、あとは……アリツカゲラさんに出かけるとだけ言ってからにしようか。
絵に残したいくらいの風景があるといいけど。
……
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