夏はまだキミを知らない

有明

1 ソウゾウ

真っ赤な夕日が頬を焼く。

茜色なんて上品なモノじゃない。

毒々しい、赤___。





9月中旬。

''中だるみ"の2学期が始まって早2週間が経つ。

ここのところ残暑の厳しい日が続いていたが、今日は比較的過ごしやすい1日だった。

今も燃えるような夕焼けとは対照的に、窓から入ってくる風は心地よい。

グラウンドに面しているせいか、少々砂っぽいのが残念だけれど。

最後にいつ洗われたのかも分からない美術室のカーテンとともに、私の心も揺れている。



「……先輩、お辛くないですか…?」



話かける、or静かに見守る。

二択で揺らいでいた私の心は、衝動的に前者へ傾いた。

ノスタルジックな夕日に感化されたせいかもしれない。


私の問いかけが、スケッチブックに鉛筆を滑らせていた先輩の動きを止める。

丸椅子に座ったまま、理玖先輩はくるりと体を回転させてこちらを見た。

鋭い眼光が私を射抜く。



「辛くないように見えたか?」



抑揚のない声だった。

先輩の質問返しに、私はおずおずと首を横に振る。

理玖先輩は決して表情豊なタイプの人ではないけれど、それでもここ最近は酷く落ち込んでいる…...ように感じる。まぁ常に不機嫌そうな仏頂面なので、特別そういう素振りを感じ取れたのかと聞かれればノーと答えるけれど。


しかし何故、先輩の心情を予想することが出来ていたのに、「辛くないですか」などとくだらない質問をしてしまったのか。

もっと気の利いた一言くらいサラッと言えないものなのか。

自分の不器用さにつくづくうんざりする。

そんな私の気持ちを察したかのように、理玖先輩が口を開く。



「俺に気を遣ってくれなくて良い。お前だって親しい仲だったんだ、無理はするなよ。」



こうして結局私がフォローされる始末。

色んな意味を込めて「すみません。」と私が呟けば、「気にするな。」と言って理玖先輩は再びスケッチブックに視線を戻した。

心なしか、その猫背気味な背中が痛々しく見える。



それはきっとこの夏がまだ去っていないから。





全ては一瞬で奪われた。

夏が見せた悪夢。

理玖先輩の友人で、私も仲良くしてもらっていた孝介先輩という人が、交通事故に巻き込まれて亡くなった。


炎天下に揺らぐ、真昼間の交差点で。

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