第91話 付き合いたい人:わがままに付き合ってくれて、なるべく疑義を申し立てないで、できるならば先回りとフォローとをしてくれるような人

 今回は、ひんしゅくを買う投稿になるかもしれないが、“これから付き合いたい人”という内容で、ちょっと述べてみたい。


 周りを見回してみて気づいたことだが、最近、“はっきり口にする人”が増えたと感じる。

 そういう人は、「思ったことをすぐに口にするけれど、言えば気が済むのであとあとまで引くことはない」という思考回路というか、言い訳を持ち合わせている。本人は、それを、サバサバした性格と自負しているし、ともすると誠実だと思っているきらいもある。が、しかし、はたしてどうだろうか。


 そんな、「はっきり言うからときどき言い合いになることがあるけれど、それでサッパリするから次の日には普通に話せるよ」という、先の傾向をもつ40代の女性と出会った。

 それは受診した患者だったのだが、ちょっとした神経痛だったのですぐに改善した。

 詳しい経緯は忘れたが、僕らの企画するイベントに顔を出すようになり、ランニングにも参加するようになった。そういう意味では、明るく、前向きで、快活な人だった。実年齢よりは、ずっとずっと若く見えた。ふたつの仕事を掛け持ちするようなところもあるから、きっと職場でも頼りになる存在なのだ。


 案の定、ちょっと口やかましかった。思った本音が口を衝いて出る。要は、意見の多い人だった。

 僕から言わせると、「僕と合わないなら無理をすることはない」だ。


 最近になってからは――要は、年を取るにしたがって、ということになるのかもしれないが――、なるべく平穏に、できうるならば笑って過ごしたいと思うようになり、そういう意味では、「あとに引くことはないにしても、思ったことをすぐに口に出す」人よりも、「思ったとしても周囲に合わせて黙っていることが多い」というような人を好むようになった。

 木痣間の“自分磨き”はとりあえず終了したとご理解いただき、僕の考えを変えようだとか、誤りを正そうだとかムキになってもらわなくても結構ということである。


 また、そういう人は、「アタシのことをもっと正確に理解して!」という願いがあるのかもしれないが、言い合いまでして理解したいとは思わないし、言い合わなければ理解できないとしたら、はじめからそれほど共感し合える間柄にはならないということである。


 ただまあ、よく考えてみると、若いころの自分は、こういうはっきりした女性と付き合った方が、何かと有益だったのではないかと感じていた。耳の痛い提案であったにせよ、思ったことを正直に言ってもらった方が自分の成長につながったからだ。

 昔の彼女には、「そのカッコ、ダサいからこっちにしてよ」とか、「その頭、もう古いから、今度こういう髪型にしてもらったら」とか、「アンタ、運動むいてないんだから、そんな趣味やめたら」とか、まあ、いろいろ指摘していただいた。

 それはそれで、おそらく彼女の言うことはかなり正しかった。大袈裟に言えば、それに従うことで、僕はかなりまともな――もっと言うと、気位の高い――社会生活を営むことができた。

 言い合うことによって僕らは互いを知ったし、それによって他人の気持ちというものを理解した。


 思ったことをつい口にしてしまうことで、多少の誤解や齟齬が生まれることがある。その際に、徹底して話し合うことで誤解が解け、「雨降って地固まる」ではないが、結果として親密な関係になることは、確かにある。

 時間と体力と高ぶった感情さえあれば、そういう人間関係の構築の仕方も素敵だが、自分には時間がないばかりか、そんな余裕すらない。少し残念なことかもしれないが、“一から相手を知る”というものに手間を割くほど若くはなくなったということかもしれない。


「会っていきなり意気投合、あとは互いに負担をかけないよう、言いたいことがあってもそれを正そうとするのではなく、善いところだけ評価して付き合いましょう」というのが理想的だ。


 だから、たいへん厚かましいことを言わせていただくけれど、「僕のわがままに付き合ってくれて、なるべく疑義を申し立てないで、できるならば先回りとフォローとをしてくれるような、そんな人たちとだけ濃密な関係を築きたい・・・・・・」、と願うのだけれど、思ったことをはっきり口にする女性が現れることによって、(自分で言うのも気が引けるが)僕は若さを保っているのかもしれない。

 言ってくれる人が周りにいることは、けっして悪いことではない。


 読者のなかで、「アタシにも当てはまりそうだ」という人が仮にいたとしたら、そういう人はまずもって若々しいということを前向きに捉えていただき、僕がこうして言い合いに参加したのだから、“あとを引かない”という性格のとおり、明日には笑って許していただければ、たいへんありがたい。

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