第80話 患者会から:本当に応援したくなる人
僕にとって応援したくなる人とはどういう人か?
芸能人やスポーツ選手、芸術家や企業人に、そういう人がいないこともないが、身近なところではやはり病める患者ということになる。それはもちろん、仕事上の使命感という部分もあるが、もっと言うと、個人として応援したくなるのは、いわゆる患者を支援する“患者会”の人たちだ。
具体的には、僕の専門とするところの『日本ALS*協会』、『全国パーキンソン病友の会』、『認知症の人と家族の会』、『全国CIDP**サポートグループ』の会員さんたちだ。
病気の相談をされたり、講演を依頼されたりすることがあるので、打ち合わせや懇親会のなかで、彼らとはよく話しをするし、個人的にSNSでつながっている人もいる。
そんなとき決まって感じるのは、「この人たちはとても強いなぁ」ということである。
『日本ALS協会・福島県支部』の役員のなかに40代の女性がいる。僕が福島に来た際、すぐにご挨拶をいただいた。
彼女の父親がALSで、東日本大震災の混乱の渦中に命を落とした。「父の介護には多くの人が関わってくれた。その恩返しに、私もこの病気の患者家族に寄り添いたい」ということで、本業のあるなか本会の役員を務めるに至った。
それだけでも応援のし甲斐はあるのだが、彼女のすごいところはそれだけではなかった。
個人情報もあるから多くは語れないが、自身も“遺伝性乳がん”患者だった。この疾患は若くして発病し、治療後も再発を繰り返すのが特徴である。
20代で発見され、片方の乳房に対して全摘術を受けた。しかしながら、安心はできない。再発に怯えながらも反対側の乳房に対して定期的なチェックを受けていた。
以下、彼女の最近のブログを抜粋する。
●
もともと遺伝性乳がんで、リスクが高いことは重々承知していたのですが…・・・。先日、新たながんが見つかりまして、全摘手術を受けることになりました。
(中略)
手術は来月の15日、2週間ほどの入院予定です。
抗がん剤治療をするかどうかは術後の病理検査待ちですが、大丈夫だと信じたいです(^_^;)
コロナの影響で検診を受けるのが難しい状況かもしれませんが、女性の皆さま、1ヶ月に1回はご自身の胸を触ってシコリがないかどうかなど、確認してくださいね。
がんは、早期に発見できれば十分に治療も選択できて、治る時代になっています。
私も完全復活できるようがんばってきます!
●
乳がんが再発したのだ。恐れていたことが現実となった。しかし、そんなショッキングな状況であるにもかかわらず、相変わらず他人の心配をしている。
続けて紹介する。
●
手術のために、一昨日入院しました。
入院してからも、お仕事関係の電話をしたりメールをしたりして、けっこうバタバタしています。
気持ちが紛れるのでありがたいです。みんな快く助けてくれて、感謝の気持ちでいっぱいです。
(中略)
今日は、午後からALS協会の“Zoom会議”に参加させていただきました(すっぴんにパジャマなのでビデオはoff)。スマホ1台あれば、どこにいても会議に参加できたり、お仕事もできたりするという環境は本当にありがたいです。
手術は明日の午前中、術後は丸1日「回復室」で安静、その後はリハビリをがんばらねばです💦
ではでは皆さま、また手術後ご報告いたします。病室からは大きな桜の木が見えます。入院中に咲いてくれたらいいなぁ…。
●
手術の前日だというのに、オンライン会議に出席しているのだ。それどころか、「仕事のできる環境がありがたい」とまで述べている。
そして、手術翌日である。
●
昨日の午前中、無事に手術を終えました。
術後はびっくりするくらい元気で、痛みもありません(でも痛み止めの点滴はしました)。
看護師さんの計らいで回復室でもスマホを使わせてもらい、主治医に苦笑いされながら快適な術後生活を送る…、はずでした。
ところが、今朝から患部付近の出血が続いて、病棟の看護師さんたちを慌てさせてしまいました。シーツまで到達するくらいの出血です。
入院のために新しく買い揃えたお気に入りのパジャマたちは、着替えて数時間で全部血染めとなり、結局レンタルの甚平を着ることに。ギンガムチェックのパジャマ、ガーゼ素材のミント色のパジャマ、着るのを楽しみにしていたのだけどなぁ。甚平姿で売店に行くのはキツい…。
まぁでも、そんな状態でもお腹はすいていて、お昼の食事も完食でした。普通にご飯が食べられる幸せ…。
かなりの量の出血にも関わらず血圧も正常。とてもとても元気です(*^^*)
退院は予想していたより先になるかもしれませんが、「ゆっくり休め」ということだと、いい加減観念しようと思います(でもオンライン講座には参加します)。
※ たくさんの励ましのお言葉に心から感謝しております。元気に退院のご報告をすることで恩返しできればと思っています。
●
どこまで、気遣い屋さんなんだ。
文章の流れだけをつかめるよう、途中途中略しているが、行間には何度も何度も励ましに対するお礼やALS患者さんへのお詫びが綴られていた。
僕にとって応援したくなる人というのは、こういう人だ。自分のことをとりあえず棚に上げられる人。そして、他人のことを気遣う、人をおもんばかる人柄。
患者会という、言ってみれば弱者の集団と思われるようななかに、信じられないような強さを持っている人がいる。みなぎるようなそのパワーに対して、心から敬意を評したい。
だから僕は、彼女のブログに対して素直な気持ちをコメントした。
「すごいなぁ、人間そんなに強くなれるのかなぁ。○○さんを見ていると、ちょっとくらいの苦労なんて苦労に入らないと思えてきます。とにかくあせらず、無事に完治することを願っております・・・・・・」
*ALS=筋萎縮性側索硬化症
**CIDP=慢性炎症性脱髄性多発神経炎
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます