第73話 年下の女子から:年下の娘から好感をもたれるには

 年下の女性から好感をもってもらうにはどうしたらいいか?

 今回はちょっとくだらないテーマかもしれないけれど、“一期一会”を信条に文章を綴っている僕としては、やはり忘れられないエピソードだったので、あえてお話しさせてもらう。


 職場の部下が、自分より相当若いということはあるだろう。特に、若い娘とのコミュニケーションの取り方がわからないというおっさんもいるはずだ。

 そこで、10歳以上も歳の離れた娘から好感をもたれた僕の経験について、ちょっとしたこぼれ話しをする。


 僕が30歳台半ば、相手は2人の看護師さんで、まだ22歳だった。


 僕の所属する病棟に配属された2人の新人看護師さんのうち1人は、噂に聞いていたとおり、ものすごくかわいかった(“K子”とする)。そして、もう1人は普通だった(“H子”とする)。はじめて見た印象では、自分も確かにそう思った。ただ、その普通と評された娘も、かわいい方と比較するからそうなるだけで、相対的な問題として僕から言わせればそこそこかわいかった。

 まあ、こんなことを内心考えている医者もどうかと思われるかもしれないけれど、人間だから、男だから、そこは寛大なお気持ちで読み飛ばしていただけるとありがたい。


 2人の勤務態度は良好で、能力的にはそう大差なかった。K子も、かわいさを鼻にかけるようなことはなく、純粋で奥ゆかしい、いまどき珍しいくらい素直な娘だった。そういう意味では、黙っていても人気が出ていった。一方、H子は、ぼんやりしていそうに見えるのだが、人懐っこくて放っておけないようなタイプ、そして、何より打たれ強かった。


 数ヵ月が経って、そろそろ勤務に慣れてきたであろうある日の休憩時間、僕は2人と雑談をする機会に恵まれた。


「先生、“病棟医長”お疲れ様です。アタシたちもだいぶ馴染んできました」

「それは良かった、がんばっているようだからね・・・。2人とも可愛らしいから、みんなからいろいろ教えてもらえるんじゃないかな」

 いまだったら、ちょっとセクハラになるのかもしれないけれど、僕のキャラだから許されたのかもしれない。


「お陰様で、先輩はもちろん、先生方も優しいので助かっています・・・・・・。ところで、いま一応『可愛い』って言いましたけれど、木痣間先生は、アタシたち2人のどっちが好みですか?」

 何の意図かわからないが、そんな質問を、H子からされた。


「んーーっ、これははっきり答えた方がいいのかな? 僕、個人の好みで言わせてもらえるなら、キミの方かな」

 僕は普通の方の娘を指さした。

「えっ、アタシですか!? 本当に・・・・・・」

 ずいぶん驚いた様子だった。


 もちろん、それは本当だった。僕だってこの歳だから、女性を容姿だけで選ぶということはない。K子に関しては、容姿はもちろん、内面的な性格もまったく問題はなかった。むしろ、すこぶる良好と言ってもいい。だから、おそらく普通の性癖をもつ男だったらそちらを選ぶ。

 僕も、そう思った。でも、普通を選んだ――「選んだ」というとちょっと上からだが、尋ねられたので答えただけである。


 同期で、同じ病棟に配属された2人だから、きっとこれまで、何かと比べられる機会が多かったのではないか。もしかしたらこの日まで、「オレの好みはこっち」という答えを繰り返し受けてきたのではないか。そのたびに、K子の方に軍配が上がっていた。

「またK子」という判断がくだるだろうと覚悟した次の瞬間、自分が選ばれた。


「同じような質問をすると、先生たちは、みんなK子ちゃんって言うのですけれど、はじめてアタシって言ってもらえました。先生はどうしてアタシなの・・・」

「ん、別に理由はないよ。確かに好みの問題だけれど、そう思っているからそう答えただけ」


 でも、内心は違っていた。こういうときの男心というのは、どういうものか?

 好ましいか好ましくないかは、その娘と差し向かいになったときの、具体的な展開をイメージして判断する。グラビアアイドルを写真だけで評価するのとはわけが違う。もし仮に、2人きりで飲みに行けるチャンスがあったとしたら、K子よりはH子の方が断然面白いだろうし、いろいろな意味で楽しめる。少しすっトボケていて、それでいて打たれ強いなんてのは、最高にイジりがいがある。特に、相手が歳の離れた女子だったら、そういうお兄さん的なポジションを確保しないことには、間がもたない。顔だけで判断している場合ではないのだ。


 以来僕は、H子のキャラを正当に評価した人物ということで、彼女はもちろん、彼女に近い人からすごく信頼されるようになった。何かにつけて慕ってくれるようになり、優しく接してもらえるようにもなった。

 歳の差があるから本気になるようなことはなかったけれど――彼女の人生を狂わすわけにはいかないから――、でも、ある日の病棟で、さりげなく、「いつになったら飲みに誘ってくれるの?」と問われたときには、年がいもなく本当にドキッとした。


“私でも美人に勝てる”と思わせるようなことさえしてあげれば、女性はなびく。

 いずれにせよ、いい思い出である。

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