第61話 漫画再び:知識の上書きと自身の安心
漫画について書きたい。
漫画の嫌いな人というのはまずいないだろうし、僕ももちろん例外ではなく、子供のころはよく読んだ。
歳を重ねるにつれて、他に興味が移っていくことで少しずつ読まなくなり、社会人になってからほとんど読まない時期もあったが、この歳になって、どういうわけだか再び読むようになった。
そういう心理的変化がどういうところにあるのか? 単に「懐かしいから」とか、「時間ができたから」いう理由だけではないような気がする。そういったところも興味深いので、これを機会に考えてみたいと思う。
話しの進行上タイトルを紹介せざるを得ないと思うのだが、僕の思春期のころの漫画となると、知らないものもあるだろう。そのあたりはご了承いただくしかないが、でもなるべくタイトルを知らずとも読めるよう工夫していきたい。
まずは昔を振り返る。
僕が幼少時代によく読んだ漫画は、いまでも第一線で活躍している“あだち充”先生の、いわゆる学園シリーズだ。ラブコメにスポーツを絡めた青春モノを得意としていた。『みゆき』や『タッチ』が当時の代表作で、もちろん、それらがあだち先生を好きになるきっかけだったが、隠れた名作として『陽あたり良好』もあった。
高校生活が舞台だったので、中学の僕にとっては憧れを通り越して、その世界観は幻想、さらには妄想に近かった。「高校に進学したあかつきには、若松みゆきや浅倉南や岸本かすみが待っている」と。
これを考えるだけでも、僕にとっての高校受験は意味のあることだったし、実際、相当な励みにもなった。
もうひとつ、忘れられない作品が“小山田いく”先生の『すくらっぷ・ブック』だ。こちらはリアルに近い、長野県小諸市で展開される中学の学園モノである。あだち先生の作品に比べて幼稚な画風だが、クラスの好きな子が読んでいたので、僕も関心を共有したくて小遣いのすべてをはたいて、コミック全巻を揃えて、丁寧に何度となく読んだ――高校時代、長野に行ったついでに小山田先生宅を訪問したことがある。
高校に進めば女の子と仲良くなれる、恋人ができる、楽しい仲間にも恵まれる。これが僕にとっての、漫画から得られる最大の喜びだった。
学童期くらいまでは、憧れというか、将来の自分を投射できるような漫画に興味を抱いていた――が、高校は、何を血迷ったか男子校を選択してしまい、幻想は幻想に終わった。
その後、印象に残っている漫画家をランダムに列挙すると、“高橋留美子”、“柴門ふみ”、“上條淳士”、“佐藤秀峰”、“石塚真一”、“弘兼憲史”などだった。マニアックなところでは、“大友克洋”や、“たがみよしひさ”も好きだった。
これらからうかがえることは、青年期から大学生になるにつれて関心を示すようになった漫画は、言ってみれば実用的なものが多かった。
一人暮らしをはじめたところで『めぞん一刻』を知り、大学生活のバイブルとして『同級生』、バンド活動をしていたころは、『To-y』や『気分はグルービー』、『THE 13TH STREETレディオクラブ』を読み、医者になることを自覚した時点で、『Dr.コトー診療所』や『Dr.クマひげ』、『ブラックジャックによろしく』を読んだ。
趣味としてトレッキングに目覚めたことによって、『岳』や『神々の山嶺』、『孤高の人』を読み、社会人、あるいはビジネスマインドを気付かせてくれたのは『課長 島耕作』だった。
ときに、娯楽として『やるっきゃ騎士』や『ボクの婚約者』を読んだ。これは、あくまで自分の感性に合ったものだ。
社会人になった時点で圧倒的に時間がなくなり、遠ざかっていたが、最近ちょっと余裕を持てる生活に戻したせいか、再度ハマりだした。それは、『MIX』や『BLUE GIANT』、『アンサングシンデレラ』、『Jumping』、『風が強く吹いている』、『黄昏流星群』、『ぱンすと。』などだ。
説明しているとキリはないが、『MIX』は『タッチ』から約30年後の明青学園である。『BLUE GIANT』はジャズプレーヤー、『アンサングシンデレラ』は薬剤師、『Jumping』は大学馬術部、『風が強く吹いている』は箱根駅伝を目指す大学生が主人公だ。『黄昏流星群』に関しては言わずもがな、主役は40代以降の中年・熟年・老年で、恋愛を主軸に人生観などを描いた短編漫画である。
『ぱンすと。』は、個人的な性癖からである。
ごく最近『センチメントの季節』を、古本屋で全巻大人買いした。その理由は、このWEB小説サイトにおいて、中学から大学の思い出を語ることが多かったので、学生時代の感覚を取り戻すために、はたまた女学生の心理を研究したいがために購入したのだ。
気付いたことは、好みの傾向は以前と変わっていないということだ。趣味として活かせる実用的な内容の漫画が相変わらず多いし、作風も似ている。
結局、再び読みたくなった訳は、懐かしいという理由もさることながら、好んでいた漫画の内容が、現代版としてどのようにアップデートされているかを探りたかったということなのだ。「昔好きだったモノを、いまでも相変わらず好きなんだなぁ」ということを感じたかったし、もっと言うと、変わらない自分に安心したいからかもしれない。
『ヤング ブラック・ジャック』や『銀河鉄道999 ANOTHER STORY アルティメットジャーニー』、『東京ラブストーリーAfter25years』なんていうのも、感動すら覚えながら楽しく読むことができた。
そう考えると、流行っている『鬼滅の刃』や『ONE PIECE』、『ドラゴンボール』を読めない理由がはっきりしてくる。昔、この手の漫画を好んでいなかったからだ。『桃太郎』や『彼岸島』、『宝島』や『ドラえもん のび太の南海大冒険』、『西遊記』や『南総里見八犬伝』といった物語には、たいして興味がなかったのだろう。
でもまあこれらはいいとしても、“青春・学園・ラブコメモノ”を読めなくなったのは、ちょっと寂しいかな。
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