第51話 三度目のモテ期から:偶然の巡り合わせに過ぎない
今回はちょっと俗っぽい話しをしようと思うので、若干気分を害される人が現れたら申し訳ない。
人生に三度はあるという“モテ期”の話しだ。僕の場合は、すでに二回は終了した。
一回目は、中学の最初くらいのときだった。このときの僕は、少しだけ脚が速く、少しだけ勉強ができて、少しだけ絵が上手で、少しだけ背が高かった。顔は普通だったと思う。もちろん、それぞれにもっと優れた能力を持ったクラスメイトはたくさんいた。
ただ、このときは中学に上がったことで、クラスの人気モノとされるヤツとたまたま仲良くなった。そいつを中心に3人でつるんでいたので、便乗商法がうまくいって多少モテたというだけであった。
二回目は、医者になってから2~3年目くらいの期間だった。すこぶる格好よくなったわけではまったくないし、仕事のできは普通だったと思うが、研修医というのは、とかくチヤホヤされるものだ。
若さに任せて飲み会とかコンパとか、そういうところに行く機会が多少あったから、なんとなくモテた気になっていただけだと思う。
過去の話はいいとして、さて、「医者はモテるのか?」という質問を受けることがときどきある。
当たり前だけれど、モテるモテないは人によりけりだ。積極的に合コンなどに出かければ、“数打ちゃ当たる”で、また違うかもしれないけれど、医者には出会いの場が少ないので、結局は関係者からしか相手にされない。
モテると思われる理由として、お金持ちというのがあるかもしれないが、病院勤めをしている医者に関して言うなら、所詮はサラリーマンだ。稼ぎだけを考えれば、他の業種にだって高給取りは、もっとたくさんいる。
ただ、医者にとってのアドバンテージは、病院には女性が多いということである。看護師、介護士、事務職員、医局秘書、検査技士、社会福祉士などなど、医療職に就く人は女性が多い。だから、モテやすいというのはあると思う――逆に、嫌われたときには、皆からの手厳しい仕打ちがあるけれど――。
僕にとっての人生最後と思われる三回目のモテ期が、ここ5年くらい続いている。
年齢を重ねてからのモテ方というのは、若いときとは条件が異なる。20代から30代くらいまでは、格好いいとか、優秀だとか、性格が温厚だとか、運動が得意だとか、あるいは、異性への積極的な声がけとか、そういう人より秀でる部分があることがモテの条件だった。結婚を考えている女性からしてみれば、いい遺伝子を受け継ぎたいと思うだろうから、まあ無理もない。
しかしながら、40代くらいになってくると、そういうものは必要ない。すべて普通でいい。
注意すべきは、不潔だとか、格好が極端にダサいとか、意地悪だとか、ねちっこいとか、そういうダメな部分を減らすことだ。そうするだけで、あとは雰囲気を造るだけでモテの条件は整う。
そのくらいの歳になれば、主要な役職に就いているかもしれない。上の立場にあれば部下を従わせることもできるかもしれない。仮にそうでなくとも、経験値は増えている。まずは、そういうことを笠に着て、威張ってはいけない。たいしたことのない過去を、盛って、武勇伝っぽく仕立ててはいけない。そういうのはすべて見透かされる。
たいていの職場において、部下から見た上司の評価というのは厳しいことの方が多い。「あの課長さぁ・・・」とか言われているのがオチである。
評判のよくない上司の多いなかにおいて、あまり目立たず普通でいる。可もなく不可もなくでいい。そうして減点材料さえ出さないでいれば、普通を維持していることで十分なプラスが生まれる。なぜなら、周りが勝手に下がっていくからである。
僕は大学病院を辞めて、この被災地病院に転勤してきたわけだが、基本的な診療スタイルを変えるようなことはなかった。格好に関しても、大量に購入してきたワイシャツやネクタイや靴があったから、使わないのはもったいない。そのまま使っていた。
ある日、そろそろネクタイをしていくのも疲れたし、そんなもの付けているドクターはひとりもいなかったので、ノーネクタイで出勤した。そうしたところ、ナースから、「あれっ、先生、今日はネクタイしてないのですか!? 似合っていたのに・・・、先生くらいの人はしていた方が素敵ですよ」と。
飲み会というものにも行かなくなった。それは、早朝の乗馬があるから、なるべく早く寝たいというのがあるのだけれど、これに関しても、「木痣間先生はほとんど飲み会に参加してくれませんね。先生と飲みたいと思っている人は多いですよ」と言われたこともある。
別に何の努力もしていないし、無理もしていない。いままでと同じスタイルを貫いているだけだ。確かに僕は、10年前、20年前と比べて、体型や頭髪量に加えて、ファッションセンスのようなものも、ほとんど変わっていないような気がする(「成長していない」という意見があったとしたら、それも甘んじて受ける)。
周りのモテる40代くらいをイメージして欲しいのだが、部下から持ち上げられるような気の遣われ方をされているような人間は、まずダメだ。似つかわしくない言葉やファッションの流行を取り入れようとして、痛々しく見える人も残念だ。
要するに、無理をしない、依存しない、派手でない、フラットで自然体に見える人がモテる。さらに言うと、「いざとなったら責任を取っていつでも仕事なんて辞めてもいい」というようなカードを持っている人の方が信頼できる。
三回目のモテ期の到来を得られるか、得られないかで人生の後半戦の楽しみ方が変わってくると思っていた。
なんでも打ち明けられるようになった女性の社会福祉士さんに言われたのは、「やっぱ、木痣間先生は変わっていて面白いですよね。このへんにはいないタイプです」ということだった。
そうか、他県から移住してきた僕が風変わりで、単に浮いているということが最近わかった。要するに、物珍しがられていただけだったのだ。
そう言われてみると、一回目も二回目も環境が変わったことで、ちょっと面白がられていたようだ。どうやらモテ期というのは、偶然の巡り合わせで周期的にやってくるだけのものなのだ。
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