第45話 『エッセイ講座』の参加者から:書くことの“表”と“裏”

 この程度の物書きだけれど、毎月1回『エッセイ講座』なるものを、市内の図書館で開講している。


 それは、僕がこの被災地に来て間もない頃、「エッセイを書いているなら、そういう書く楽しみを伝えるような活動をしてみたら」ということを、地元の住民から持ちかけられたことがきっかけだった。

 好き勝手にエッセイを書き散らかしてきた自分にとって、講座として教えるのはちょっとハードルが高いのではないかと思ったが、やらないうちから「できない」と言うのもちょっと嫌だった。


 付け焼き刃かもしれないが、“エッセイの書き方”なる本を数冊読み、エッセンスを伝えるということを5回くらいやった。はじめてみると意外とやりがいを感じるようになり、それ以降ずっと、参加者の書いた文章を添削するということを繰り返している。

 無料ということもあるかもしれないが、多ければ10人程度の参加者が訪れる(少ないと、僕以外に1人というときもあった)。


 8年以上継続し、いつの間にか、もうすぐ100回を数える。


 添削や校正を通じて書き方のノウハウを説くのだが、モチベーションを高めるために、書くことの目的をときどき伝えている。それはすなわち、「書くことによって、自分の考えを整理できる」、「気持ちがスッキリする」、「意外な自分を発見できる」、「何となく自分を誇れるようになる」というようなことだ。

 僕自身もそういう実感はあるし、メリットがあるから書き続けることができている。そこに嘘、偽りはない。


 けっして強制はしないが、エッセイをしたためた参加者がいれば、そのテーマを選んだ背景や、書くなかでの心情の変化などを語ってもらう。それに対して建設的な批評をしたり、感想を述べ合ったりする。シビアな内容も、つらかった出来事も、書いてしまえばいくらか気持ちは吹っ切れる。想いを皆で共有することによって、講座の中は穏やかな空気に包まれる。

「震災後ずっと悩んでいたけれど、やっと自分らしさを取り戻しました」と打ち明けてくれたり、「文章を書いていくことで何か踏ん切りがついて、平常が保てます」という安心をいただいたりすると、継続してよかったと思う。


 という前置きを踏まえたところで、ではこのWEB小説サイトで、僕がエッセイを書く目的は何かと言うと、ぶっちゃけ、エッセイストとして認知され、できれば有名になりたいからである。

 自己顕示と承認欲求をおいて、他にない。


 そういうことで今回は、書くことについて語りたいと思ったのだが、冷静に考えてみると、このサイトでエッセイを書くメリットなんてものを伝えたところで、これ以上のナンセンスはない。

 書くことの好きな人がアクセスしているのだから、そのような人たちに「書くと良いことがありますよ」と言ったところで何の意味もない。

 仮に興味のない人がいたとして、そういう人に当ててメリットを説いたところで、これだけ世の中が多様化しているなかで、「オレは書くことよりもスポーツの方が好きだ」と言われれば、もちろん何も言えない。


 ということで、では、エッセイの書き方なるものを伝えようと考えたとしても、これまた、エッセイなんてものは自由に書けるからエッセイなので、「こう書くべき」なんてことを薦める以上のナンセンスはない。もちろん、基本的な型のようなものはあるけれど――僕もひと通り勉強したけれど――、型どおりに書いて読まれるなら誰も苦労しない。

 僕の筆力というのもこんなもので、アクセスランキングとしては、下の下だ。そんな人間が何かを言ったところで、説得力は、まずない。


 本サイトの投稿では、書くメリットを語ることも、書き方のノウハウを説くことも意味がないとしたら、書くことの一体何を伝えればいいのだろうか。


 そんなモヤモヤした気持ちでいたら、エッセイ講座の参加者のひとりから、「木痣間さんのWEB小説、読んでいます」というメールが届いた。

 その人は、普通の仕事をしている、普通の生活をしてきた30代の女性だ。書くことに興味があるらしく、真面目に講座に参加している。努力するタイプの人で、少しずつ文章力も上達している。

 そういう人だから、こういうサイトのことは知っていて、僕が投稿していることもバレてしまっている。

 

 そんな彼女から、続けて、「面白いです。木痣間さんのこのWEB小説を読んで、エッセイの書き方を勉強しています」というようなことを言われた。


 まずい! 愚痴っていないで真面目に書かないと・・・・・・。エッセイを書く目的についても、講座で言っていることと真逆な俗物的なことを言ってしまった。

 せめてアクセスランキング最下位から浮上していく姿を見せないと、僕の講師としてのメンツが潰れてしまうではないか。

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