第5話 デート後半
どうでもいい世間話で時間を潰して、気がつけばプラネタリウムの時間まであと15分というところ。慌てて店を出て、プラネタリウムに急ぐ。
「ほれ、荷物こっちが持つから」
「でも……」
「いいから。お前、あんま体力ないだろ」
「うん。ありがとう」
「ここまで来れば大丈夫だろ」
手を引いて走っていたが、寛子はぜーはーと息をしている。
「慎ちゃん、なんでそんなに走れるの?前から思ってたんだけど」
「生物部はフィールドワークも多いからな」
「そういえば、そんなことも言ってたね」
それからゆっくり歩いて、なんとか時間前に入場することが出来た。プラネタリウムのプログラムは約1時間半で、解説を聞きながら、色々な星を見ることができるらしい。
会場が暗くなって、まず、日本の夜空が天井に投影される。あちこちに星が瞬いているけど、光の影響もあって、ここらでは見られない星がたくさんある。それから、個々の星々について解説がつく。有名所の黄道十二星座から始まって、天の川銀河やアンドロメダ銀河についてなどなど。
思ったのは、人間というか自分はなんてちっぽけなんだという事だった。その事を改めて自覚する。なんせ、天文学では、スケールが1億年とか10億年だ。想像すら難しい。それに比べて、人生は長生きしてもたかだか100年だ。
「はー。なんだか、凄かったよ!子どもの頃と比べて技術も進歩してて別物みたい」
プラネタリウムの後、再びお茶をする事になった俺たち。そして、寛子はといえば、主にプラネタリウムの技術面での進歩に感動したらしい。
「確かに、小学校の頃はもっとちゃちかった気が……」
「ちゃちいは言い過ぎ。でも、最新技術は凄いんだなって思ったよ」
「そっか……」
「慎ちゃんは何か別の事考えてたよね」
「お見通しか……」
「考え事をしてる時の癖。手を
無意識だったが、そんな事をしていたとは。気をつけないとな。
「考え事と言えばそうかもな。どうでもいいことだよ」
「何を考えてたの?」
「いや。人間はちっぽけなんだなってだけ。ま、スケールが違うから当然だが」
「また、何か哲学的な事考えてるんだね」
少し茶化した様子で言われる。
「哲学って程大層じゃないと思うが。それはおいといて、そろそろ飯の時間だな」
「どこにしようか?」
「ちょっと前に調べておいた、うどんの店があるんだ。どうだ?」
「うん。じゃあ、そこに行こ!」
というわけで、目的地の、うどん屋『
「あれ?ここって、前に行ってみたいって私が言った……」
「偶然だ、偶然」
「……そんなところで照れなくてもいいのに」
事前にリサーチしていたとはいえ、その事を見抜かれるのはどことなく気恥ずかしい。
揃って、店の売りらしい、シンプルなざるうどんを頼んで、しばし待つ。10分しない内に、頼んだざるうどんが運ばれてきた。
「「いただきます」」
そう言って、食べ始める。
「うわあ。コシが凄いあって美味しい!つゆも出汁が効いてるし」
「やっぱり美味い。俺の目に狂いはなかったな」
ちょっと冗談めかして言ってみる。
「うん。ほんとに、慎ちゃんは凄いよ。私の言った事、ちゃんと覚えてて……」
「いやいや。別にちょっとした手間だろ」
下調べのために食べたというと気に病ませそうなので、そこは言わない。
「全然、ちょっとした手間じゃないと思うんだけど」
「何か言ったか?」
「ううん」
ちょっとした手間じゃない云々と聞こえて来た気がするが、さすがに下調べしたことは見抜かれていないだろう。
「やっぱり、慎ちゃんはカッコいいよ」
「よせやい」
いつもなら出ない程の褒め殺しで、少し調子が狂う。その後もうどんを堪能した俺たち。
「で、次、どうする?本屋とかどうだ」
「慎ちゃんが行きたいところにしよ?本屋はまた行けるし」
そう遠慮気味に言うが、こいつが本屋巡りが好きなのはよく知っている。
「なあ、今日はもう遠慮はやめないか?」
「え?」
「お前がそういう性格なのはよくわかってるけどさ。別に今更、そのくらいでどうこう思ったりはしないってことくらいわかってるだろ?」
「……」
「それに、俺も本屋は好きな方だし」
「うん。そうだね。ごめん」
「謝らなくていいけどな」
つい遠慮してしまうのは良いところでもあるし、無理に変えなくてもいいと思う。ただ、俺の前ではそうして欲しくないというだけで。
というわけで、書店を向かった俺たち。俺は特に買いたい本があるわけじゃなかったが、寛子が
「あ、これ新刊出てたんだ。でも、お小遣いが……」
とか
「これ、凄い読みたい。でも、お小遣いが……」
と悩む姿を見ているのも楽しい。バイトをしていない高校生の身では、買えるものにも限度がある。
そんな風に、あっちへふらふら、こっちへふらふらとした末に、最後に寄ったのがライトノベルのコーナー。
「ん?寛子は、そこまでラノベ読まないよな」
「最近は読んでるよ。賞に応募するから、既存のラノベの傾向も抑えておかなきゃ」
「賞に応募するってあれ、そこまで本気だったんだな」
「賞が取れるとは思ってないけど、投稿まではするから、本気といえば本気。でも、出すからにはきっちり満足の行く作品にしたいじゃない?」
そうまっすぐに言う寛子は、どこか輝いて見えた。自信がない癖に取り組む時は本気なやつだ。
「おまえ、やっぱ凄いな。真似できそうにないよ」
「でも、慎ちゃんもネット小説書いてみたんじゃないの?」
「俺はちょっと書いて読んでもらえた人が居たので、それで満足」
小説を書いて、少しでもこいつの心情を感じてみたかっただけなのだ。
「慎ちゃんだったら、頑張ったら私よりもよっぽど出来ると思うよ」
「過大評価だって。俺は器用貧乏って奴なの」
「はあ。慎ちゃんは、やっぱり自己評価低いね」
「その言葉はそっくり返すぞ」
「……」
「……」
「止めようか。不毛だ」
「そうだね」
せっかくのデートだ。もっと楽しく行こう。
その後は、ボウリングをしたり(寛子は点数は55点、俺は110点ほどだった)、ゲーセンでUFOキャッチャーや対戦ゲームに興じたりして。
俺たちの地元の駅にたどりついた時は、もうすっかり夕方だった。
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