不良たちは俺の命を狙ってきました(血涙)




 下校中、部活中、その他の生徒たちから哀れみの視線を向けられながら、西先輩と一緒に校舎裏に行く。


 到着すると、昼休みの時は六~七人だった人数が増えていた。

 目で数えられる範囲で十五、六人ぐらい。しかも全員顔が怖い。

 そして厄介なのが、全員武器を装備しているところだ。


 ●金属バット

 ●テニスラケット

 ●大剣

 ●大剣

 ●大剣

 ●『鈍器』との名称が付いたレトロの四角いゲーム機

 ●大剣


殺傷能力が高過ぎる……。



 背後の道は西先輩に絶たれ、横は壁と金網フェンス、そして前方は大量暴力者集団、逃げ道は当然無い。

 フェンスは気合があれば登れるが、足を掴まれたら終わりだ。

 背後の道は先輩を突破できれば後は超逃げるだけだが、失敗するリスクが高い。

 さて、どうやってこの場を解決しようか……。



 …………ッ!



 出て来るな、お前の力は借りない。



 …………ッ!



 お前が暴れたら俺の平穏な学校生活がパァになる。

 それだけは阻止しないと。



 …………ッ!



『うるせぇよ。黙ってろって!』


「なにごちゃごちゃ言ってんだ?」


「なんでもありません」


 振り向いて返答する。

 小声は聞かれたが内容まで聞かれなかったのは幸いだ。


「さて、シロぼっちゃんだったっけか?」


 そして西先輩が話し始めた。


「お前昼間、俺の頼みを断ったよな?」


「あ~、そうですね」


 ここでオドオドしてても何も解決しないから、返答もなるべく肝を座らせた状態にする。


「本来だったらあそこで半殺しにするはずだったが、あの強気な風紀委員長さんが邪魔してくれたからすっかり白けちまったんだよね~」


「へぇ、そうだったんですか」


「本当なら風紀委員長さんも一緒に誘って〝遊ぼう〟かなと思ってたんだけどよ、まず最初に俺をブチ切れさせたお前をボッコボコにするから、覚悟しとけ……!」


 西先輩も武器を構える……風貌に似合い過ぎる釘バットだ。

 後方の先輩たちも血に飢えた眼差しで、犬のように息を荒くしているのが背中を向けてても感じ取れる。


 仕方ない、成功率は低いが―。


「ちょっと待ってください先輩!」


「あ?」


「今回の件に関しては本当に申し訳ありませんでした。ですが金欠は事実で、なんでしたらクラスメイトから借金して買いに行こうとも考えてました。今後はこのようなことが起きないようキチンと手持ち金を増やしておきますので、今日は勘弁してもらえないでしょうか?」


 交渉に出てみる!


「…………」


 向こうも黙って話を聞いてくれている。

 これは意外にも成功か……ッ!?

 よし、このまま押し通してみよう。


「明日は先輩たちが不機嫌にならないよう調達してきますし、今お望みでしたら家から貯金崩して買ってきま―」



 ドスッ



 重い一撃を鳩尾に喰らった。


「ぐぇ……ッ!?」


 黙っていたかと思った西先輩の拳を受け、吐き出しそうになった。

 衝撃に耐えられず、視界が安定しなくなり、自然と両膝をついて腹部を押さえる。


「お前さ……なに勝手にお喋りしてんの……?」


 どうやら交渉の内容が気に食わなかった訳ではなく、俺が淡々と話し続けたのが原因だったようだ……。


「俺嫌いなんだよな~、許可も出してないのに勝手にペラペラ喋る奴。つうかよ、なんでお前の命令聞かなきゃいけねぇの?」


 後方集団のゲラゲラ声もセットで聞こえ、不安が一層強くなる……。



「もう完全にキレた……お前死亡確定な……」



「…………ッ!?」


 それは高校生には似合わない外道な台詞だった。


「素直にボコボコにされてれば全治一年で済ませたのによ……。人の頼み事は拒否る、勝手に命令するで僕ちゃん我慢の限界で~す! 今からシロぼっちゃんはスイカ役になって僕ちゃんに割られてくださ~い!」


 んなことして……許されるはずが……!


「あ、言い忘れてたけど……僕ちゃんのパパお国のお偉いさんのお仕事してっから~、揉み消してくれるんだよね~♪」


 マジ……かよ……。

 俺……死ぬのか……?

 いや、きっと嘘だ……。


 このあと、生徒指導の先生に、風紀委員の新田先輩、それに警察も止めに来て俺を助けてくれるに違いない……ッ!


 信じろ……信じるんだ……。



 …………ッ!



 バカ……出て来るな……。

 大丈夫だって……ここから懸命に避けまくって時間を稼ぐ……。

『お前』を暴走させて学校生活が辛くなるよりかは……マシだ……。



 …………ッ!!



 おい、やめろって……!?

 一人でもなんとかできるから……!



 だから、出てくんなってば―。




「死ねやゴラぁッ!」




 ガゴーンッ




『…………』


 その場にいる全員が言葉を失った。

 殺人現場を目の当たりにしたからではない……。

 西先輩が勢いよく振り下ろした釘バットが……俺の頭部を形作るように凹んだからだ。


「…………?」


 当のご本人も、何が起こっているのか理解に苦しむ表情を浮かべている。

 それからゆっくりと、〝俺の身体は立ち上がった〟。

 視線が目前の西先輩をロックオンすると、喉が現在の感情を吐き出す……。




《ウケケケケケケケケケケケケケケケケケケ……ッ!》




 その不気味な笑い声が、辺りに鳴り響いた……。

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