白になるも黒になるも俺たちの自由

三原シオン

調子狂う朝

「……分かってるな?」


 …………。


「毎回言っているように、何があっても決して〝出て〟くるんじゃないぞ」


 …………。


 〝黙って頷く〟……俺にはそうしているように見えた。

 朝の日差しが、閉め切られたカーテンによって遮断され、自室は薄暗い空間になっている。

 中央で胡坐あぐらをかき、目の前の虚空を睨み付ける。

 傍から見たら異常者と勘違いされる光景だ。



 ドンドンドン



 などと会話に集中をしていたが、ドアを強く叩く音で意識が逸れた。


『しろー、学校行く時間だよ~』


 妹の声だ。

 毎朝飽きもせず、登校時間前後になると呼びに来てくれるから有り難い。


「ああ、ありがとう!」


 ドア越しに妹に返事をし、そして再び虚空に目を向けて確認を取る。


「じゃ、今日もよろしく頼んだぞ?」


 …………。


 さっきと同じく〝黙って頷く〟……ように見えた。


「言うこと聞いてくれたら、何か買ってやるから……」


 …………ッ!


 そう口にすると、一瞬〝微笑んだ〟……ように見えた。


「よし、今日の時間は終了だ。行くぞ」


 了承も得たことで閉め切っていたカーテンを気持ち良く盛大に横開きする。



 ビリッ



 今何か嫌な音が聞こえたが気にしないことにしよう。

 うん、そうしよう。


 そして薄暗かった自室に明るい光を取り入れる。

 途端、視界に広がった埃の軍団に気分が少し下がった。

 今度、掃除しよ……。


 気を取り直して学校指定の鞄を肩に掛け、ドアを開ける。

 毎朝行われるこの会話も、最近は十分以内で済ませられるようになった。

 ようやく理解してくれたのか……その点は不明だが、今日も一日〝出て来てくれない〟ことを祈るばかりだ。



 ツルンッ

 ドテドテドテッ



 階段を踏み外して二階から勢いよく転げ落ちたが、こんなことでブルーな気持ちになってはいられない。


 もう高校生だぞ……ッ!


 そう自分自身に言い聞かせ、打ち付けた脛の痛みを堪えつつ玄関に向かう。

 入学して一か月、よく今日まで何も起こさず生活してこれたものだ。

 ローファーを履き、玄関からリビングのある方向に顔を向け―。


「行ってきまぁす」


 何気ない挨拶を少し大きめの声で口にする。

 リビングのほうから母親の返事を耳にし、それを合図に玄関を開ける。


「うおッ! まぶし!」


 開けた瞬間、日光が視界いっぱいに広がる。

 咄嗟に瞼を閉じ、反射的に言葉が出てきた。

 数秒で目は慣れた。さて、行くか。


 この数秒後、玄関でこけて顔面クラッシュを味わうとは……俺、白石白瀬しらいししろせ少年は予想していなかった。


 そう言えば朝食中に見た星座占い……一番ビリだったっけ。

 涙が出た。あと鼻血も……。

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