第11話
部屋の前に辿り着いた。アセンブルホールの大きな扉を前に、ロイドは少し足がすくんだ。
ドンドン、と大きなホール内のどこにいても聞こえるように、強めにドアを2度3度ノックする。返事はない。
おそるおそる扉をあけてみる。胸が張り裂けそうになるくらい鼓動が高鳴るのが自分でも分かる。一か八か思い切って部屋に入ると、幸い、中には誰もいなかった。
(よかった、まだ母もソフィもきいてない)
とりあえず、ロイドはほっと息をついた。
ロイドはアセンブルホールに来るのは初めてだった。宮殿内においてもあまり使われないこの広い部屋を隅から隅まで見渡す。すると必然的に目に入るのが中央に位置する大きな四角いテーブルだ。恐らく、このテーブルに料理が盛られるのであろう。
ロイドはそのテーブルの下に潜り、裏に何かの危機を取り付けた。
(よし、これで2人の会話を聞き出せる)
アリアス夫人とソフィ・ムーアが食事会で婚約破棄について何か語るかもしれない、そしてそれをこの盗聴器によって聞き、真相を知ることが出来るかもしれない。そう思うとロイドは期待に胸を膨らませたが、それと同時に、盗聴がバレた時のことも想像して怖くもなった。
もしムーア家が婚約破棄について本当に何かやましいことを隠していて、自分がそれに感づき調査していることがアリアス夫人に知られたら、いくら息子でも追放されることは確実だろう。
そう思うと途端に恐怖が込み上げ、一度取り付けた盗聴器にもう一度手を伸ばす。
そしてその時、フランソワのことが頭に浮かんだ。
(ダメだ。フランソワさんのためにもここで失敗を恐れるわけにはいかない。)
ロイドは意を決して、盗聴器をつけたままアセンブルホールを後にした。
全ては真相を知るため、そして、フランソワのためだ。
フランソワは、明日に控えた食事のために、どこにロイドを招待しようか悩みに悩んでいた。
やはり金もないので安い店くらいにしか入れないし、仮に高い店に招待出来たところで、いつも豪華な食事をとっているロイドにとっては珍しくもなんともないので、きっと喜んではくれないだろう。
そんなことを考えながら工場から帰宅している途中。真夜中のことだった。
「お〜い、フランソワ!」
「!!!」
驚いて振り向くと、そこに立っていたのは先日フランソワが解雇された、野菜売り場の主人だった。
「あっ、ご主人。お疲れ様です。でもこんな夜中にどうしたのですか?」
「いや、俺もこの間はお前さんに冷たいことをいっちまったなって、反省しててさ。
カミさんにも怒られちまった」
「えっそれでわざわざ私に謝りに!?全然気にしないでください!むしろお店に迷惑かけたのは私の方なんですから!」
「まあまあ、みずくせいこというなって、ほら、これ、お詫びのしるしに。受け取ってくれ」
そう言って主人はフランソワに、沢山の野菜が入ったカゴを渡した。中にはキャロットやピーマン、メロンなど、様々な野菜や果物が入っていた。
「えっ!何ですかこれ!」
「遠慮なく受け取ってくれ!」
「えー!!こんなに沢山良いんですか!」
「おう。俺への免罪符として受け取ってくれや」
「しゅ、主人…。本当に、本当にありがとうございます!!!」
フランソワは何度も何度も頭を下げた。
主人は照れ笑いをしながら、また遊びにくるように言って、手を振りながら去っていった。
フランソワはとても暖かい気持ちになり、人間の優しさを噛み締めながら、帰り道を歩くのだった。
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