第3話

フランソワを後ろから追いかけていたのは、なんと、ついこの間婚約を破棄したばかりのドリス王子の弟、ロイドだった。










「フランソワさーん!」









「ロイドさん……?!」









あまりの驚きに、一瞬にして涙を止めることが出来た。しかし、ロイドはフランソワの泣き腫らした顔を見て、少し決まり悪そうな表情になった。













「フランソワさん、お久しぶりです」










「お久しぶりです」









お互いに頭を下げて挨拶する。










「この度は兄が、その……」









とても言いにくそうだったので、フランソワはロイドの意思を汲んでやる事にした。










「大丈夫。私なら心配ありませんわ。それよりロイドさん、わざわざありがとう」











「フランソワさん……」










ロイドは気づいた。フランソワが作った満面の笑みの奥底は、全く笑っていないということに。心が痛くなると同時に、自分の兄がしたことであるため、少なからず責任を感じた。











「あの、フランソワさん。婚約破棄について。

僕はあなたが、心優しいあなたが、指輪を盗んだとはとても思えないのです。真実をお聞かせくださいませんか!」












かなりの思い切った発言に対して、フランソワは微笑みながら優しく拒絶の意を表する。











「気遣いはありがたいけれど、お兄様を疑うのはよくないですわ。でも本当にありがとうね」












嘘だ。こんなに眩しく、こんなに美しく、こんなに透き通った笑顔を持つこの人が、あんな罪を犯すはずがない。

ロイドはこの後も粘り強く頼み込んだが、やんわりと断られてしまった。


翌日、フランソワが朝から石炭を売り歩いていると、再びロイドが現れた。










「おはようございます。重くて大変そうですね、お手伝いしましょうか?」










「あら、ロイド様おはようございます。

いいえ、結構ですわ。王子様にこんな事させるわけにはいきませんもの」










「ははは!何をおっしゃいますか」









そう言うとロイドは半ば強引にフランソワから石炭を半分ほどひったくり、通行人に売り歩きはじめた。

なんとも強引な男である。しかしながら、王子に石炭のセールスをされた通行人は断るわけにもいかず、100発100中で石炭は飛ぶように売れ、昼までには完売した。












「ほらね、フランソワさん。手分けしてやった方が、早いですよ」










そう言ってロイドは笑うが、やはり王子にそんな仕事をさせてしまったことに罪悪感を覚えたため、フランソワは差し支えない範囲で、ロイドに婚約破棄の経緯について話すことに決めた。

ロイドにその意を告げると、ロイドは嬉しそうにフランソワを近くの高級なレストランに招待した。







いつもの食生活とはかけ離れた、いってしまえば婚約破棄を宣告される以前以来の、豪華な食事。フランソワは少し、母親に申し訳ないような気がした。

料理が運ばれてくる前に、せっかちなロイドは核心にせまる。










「フランソワさん。僕はドリスの弟として、真実を知りたいんです。正直にお答えください。

あなた、指輪を盗んでいませんね?」












「…はい……」










フランソワが答えにくそうに言ったのもお構い無しに、ロイドはあからさまにほっと胸をなでおろす。












「よかった〜!僕、信じていたんです。

フランソワさんは絶対にそんな事するような人じゃないって」










「は、はぁ……」










この時フランソワは、正直なところ、早く仕事に戻りたいという気持ちでいっぱいだった。

真相をロイドに分かってもらったところで、

ロイドから信じてもらえてたというのはたしかに嬉しいが、生活が豊かになる事なんて何ひとつとしてない。過去の過ぎ去った事についてあれこれ話している暇があったら、仕事など有意義な事に時間を費やした方がマシだと思った。

それほど、フランソワの生活は貧しいからだ。

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