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「どうしたの、こんなに泣いて……。可哀想に……」


 翔吾の母親が、希の肩に手を掛ける。

 私はその様子を眺めながら、ゆっくりと話し始めた。


「突然こんなお話をしても……信じられないでしょうが……」


 明日香君と翔吾の不思議な出来事を、翔吾の母親に全て話した。翔吾の母親は驚く風でもなく、胸元につけていたカーネーションのビーズのブローチをゆっくりと外して、手に取り私達に見せてくれた。


「やはり……そうでしたか……。あの日……店先に……二人が訪ねていらした時から、そんな気がしていたの。彼の雰囲気がとても翔吾によく似ていたから……。帰り際に彼が……このブローチのことを私に教えてくれたんです。どうして彼が、翔吾が私のために用意していたブローチの収納場所を知っていたのかわからなくて、その時は混乱してしまったけれど、これで全て……理解出来ました。

 あの子が……、翔吾が……、私に逢いに来てくれたのね。私や家族のことを……今でも思っていてくれたのね。そのことがわかり、私はもう十分です。私は幸せ者ね。舞さん……あなたのことがずっと気になっていたのよ。訪ねて来てくれて、本当にありがとう」


 翔吾の母親は泣きながら私を抱き締めてくれた。


「おばさん……。驚かないで下さいね」


 私はそう前置きして、話しを続けた。


「希は……この子は……翔吾さんの子供なんです」


「……えっ!?」


 翔吾の母親は絶句し、希を見つめた。


「事故をした時……、私は……この子を身ごもっていました。私は視力を奪われたけれど、この子は奇跡的に生きていた……」


「あんな大事故をして……、あなたは翔吾のせいで失明までしたのに、この子を……翔吾の子供を……生んでくれたの? 翔吾は死んでしまったのに……、あなたの視力を奪ってしまったのに……、翔吾を恨む事なく生んでくれたの? どんなに辛く苦しかったことか……」


 翔吾の母親は希を見つめ、何度も涙を拭った。


「私を心から支え、希を我が子として慈しみ育てててくれた人がいたから……、私は……今まで生きてこれたんです」


「あなたが翔吾の子供だったなんて……。ああ……なんてことでしょう。希ちゃん、私に……逢いに来てくれたのね……。ありがとう……本当にありがとう……」


 翔吾の母親は希を強く抱き締めた。


「おばあちゃん……おばあちゃん……」


 希は泣きながら話しを続けた。


「おばあちゃんに明日香君が逢わせてくれたの……。私とおばあちゃんを……、そして……ママとおばあちゃんを……。

 私の本当のパパに逢うことが出来たのは……明日香君が逢わせてくれたからなんだよ」


 希の心はもう張り裂けそうだったに違いない。声を上げ体を震わせ、希は仏壇の前で泣き続けた。


 私も……涙が……溢れて止まらなかった。


 明日香君……。


 あなたに……

 逢えなかったなら……


 きっと私は……

 今も闇の中を彷徨っていた。


 あなたのお陰で……

 私は今……光の中で……生きている。

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