舞side

74

 遮光カーテンが閉められた病室。

 医師の手には小さなライトが一つ。

 私の目を覆っていた白い包帯は取り除かれ、耳元で声を掛けられた。


「さぁ、ゆっくり瞼を開けて下さい」


 私はゆっくり……ゆっくり……瞼を開けた。


「光が見えますか?」


「……はい。ぼんやりと光が見えます。片岡先生の手が……見えます」


「ママ……」


 その声に、私はゆっくりと振り向いた。

 椅子の横に立ってい女の子の姿が、ぼんやりと見えた。


 身長は私と同じくらいで、体形も華奢だ。

 ぼんやりしていた輪郭は、次第にハッキリしてくる。


 そこには……希の……泣き顔があった。


「希なの……?」


 希は泣きながら頷いた。

 希の面影は、翔吾にとてもよく似ていた。


「希なのね……。逢いたかった……。ずっと……逢いたかった……」


「……ママ、見えるのね。私が……見えるのね」


 私は希を両手で思いきり抱きしめた。


 涙で……希が……霞んで見えた。


 ◇


 ―代官山―

 

 光を取り戻した私は、いつものように縁側に座り夜空を見上げた。頭上には無数の星が輝いていた。


 翔吾……。


 あなたのお陰で、私は光を取り戻すことが出来た。


 あの不思議な出来事を……

 忘れたりはしない。


 私に逢いに来てくれて……

 ありがとう……。


 ◇


 ―三ヶ月後―


 希と一緒に翔吾の実家の立花生花店を訪れた。


「懐かしい……」


 そう呟く私に希は不安そうな眼差しを向けた。


「ママ……」


 私は優しく頷く。


「いらっしゃいませ」


 お店の奥から白髪のおばあさんが出てきた。上品な容姿、歳を重ねていてもその声と風貌から、翔吾の母親だとすぐにわかった。


「おばさん……お久しぶりです」


 深々とお辞儀する私に、翔吾の母親は目を見開き駆け寄る。


「舞さん……!? 舞さんなの!? あなた……目が、目が……見えるのね……!?」


 翔吾の母親が私を抱きしめた。


「はい……」


 互いに抱き合いながらも、涙が溢れて止まらなかった。


「よく来てくれましたね。さぁ、上がってちょうだい」


 私は躊躇している希の手を取り、お言葉に甘えて翔吾の家にお邪魔する。通されたのは店舗と繋がっている一階の和室。そこには小さな仏壇があった。


 仏壇の前には、遺影が置かれ笑顔の翔吾がいた。


 私は翔吾が好きだった林檎やオレンジの果物籠を供え、線香に火を点し、希と一緒に仏壇を拝む。


「翔吾……あなたの所へ来るのに……長い時が経ってしまった。遅くなって本当に……ごめんなさい……」


 私の目から涙が溢れる。


 翔吾の母が希の前に座り、お茶を差し出す。


「お嬢さん、先日はありがとうございました。ご一緒だった彼はお元気ですか?」


 翔吾の母親の問い掛けに、希は号泣し始めた。

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