59
「大丈夫です。俺がちゃんとどんな花火か解説入れますから。たとえば……赤と黄色の光が超パチパチ光ってますとか。シューッて滝みたいに花火が流れてますとか……」
「明日香君ったら、おかしい」
希ちゃんがクスクスと楽しそうに笑った。俺は大真面目に答えたのに、舞さんもつられて笑っている。
その笑顔を見て、俺の気持ちも和む。
夕食まで御馳走になり、希ちゃんは浴衣に着替える。白地に赤や紫の朝顔の花柄、ポニーテールにした髪型も新鮮で可愛い。
「……どうかな?似合う? この浴衣、ママの浴衣なんだよ」
「舞さんの……。すっごく似合ってるよ。綺麗だよ」
恥ずかしそうに笑った希ちゃん。
縁側から庭に出ると、夜空に星が輝く。
「星が……すごく綺麗だよ」
俺は舞さんに話しかける。
「そう……」
見えない目で、舞さんが夜空を見上げた。その美しい瞳に、光を取り戻してあげたいと切実に思った。
舞さんが心から見たいと思えるように、俺は三人の楽しい時間を作る。
花火に火を点けると、希ちゃんが子供みたいに「キャーキャー」騒いだ。
「ここを持って下さい」
俺は舞さんの手を取り、花火を渡す。
「怖いわ……」
「何恐がってんの。大丈夫だよ」
火を点けたら、花火はシューッと音を立て勢いよく赤い光を放った。舞さんは花火を音で楽しんでいるようだった。
「綺麗?」
「すごく、綺麗だよ。昔、この庭でよくやったよな。二人で浴衣を着て、希ちゃんみたいにハシャイでたよな」
「えっ……?」
――それは翔吾の記憶だった。
フラッシュバックのように映像が脳裏を過ぎり、自然と口から零れ落ちた。
舞さんは口を噤み、花火に視線を向けた。
「明日香君、何? ママと何の話をしてるの?」
希ちゃんが花火を持ったまま近付いてくる。
「危ねぇ……。希ちゃん、花火をこっちに向けないで」
「あははっ、ごめん、ごめん……。ねぇねぇ明日香君。次はこれやろうよ」
「わかったから、焦らないで」
俺は希ちゃんと一緒に、次々と花火に火を点けた。
戸惑っている舞さん……。
ゆっくりでいいんだ。
翔吾とのことを思い出して……。
光がある世界を思い出して……。
光がある世界はこんなにも綺麗なんだよ。
――夜空に赤や黄色の光が舞う。
幻想的な光は、俺達の笑顔を明るく照らした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます