舞side

43

 明日香君が帰ったあと、私はいつものように縁側に腰を下ろした。


 希は「今夜中に風邪を治してみせる」と、早々に就寝した。


 私は明日香君との会話に、翔吾との奇妙な偶然を感じ心がザワザワと落ち着かない。


 ◇◇


 ――『いつも間違えるんだから』


 ブラックコーヒーが好きな翔吾に、そそっかしい私はいつもコーヒーのミルクとシュガーを受け皿に乗せて差し出す。


 翔吾は笑いながら、私の額をコツンと指で叩く。


 ――『俺、明日、迎えに来るよ。親父が車を買ってくれたんだ。白いスカイラインなんだ』


『嘘!? 嬉しい』


 子供みたいに無邪気にハシャグ私に、翔吾は優しい眼差しを向けた。免許を取得したばかりの翔吾に、父親が車を購入してくれたんだ。


 ――『クラクションを二回鳴らすから、そしたら出て来て』


『うん』


 あれは二人だけの合図……。

 希も知らない、二人だけの……。


 ◇◇


「単なる、偶然だわ……」


 夜風に吹かれ、独り言のように呟く。


 でも……明日香君の声を聞くと何故か心が落ち着く。


 玄関で手を差し出した時、触れた手のぬくもりに妙に懐かしさを感じた。


 翔吾と明日香君は声質もとてもよく似ている。姿は見えないけれど、声を聞いているとそこに翔吾が座っているような錯覚にすら陥る。


 翔吾はもう……。

 この世にはいないのに……。


 明日香君は希の友達だ。


「……そんなはずはない」


 私は見えない目で、夜空を見上げた。


 あなたは……光り輝く星となり、私を見守ってくれているのでしょう。


 ――翔吾……。


 どうして……あなたは死んでしまったの?


 どうして……私をおいて一人で死んでしまったの?


 ――翔吾……。


 夢でいいから……。


 もう一度……。


 あなたに逢いたい。

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