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「いや、そうじゃなくて、涼がナメクジみたいにイジイジしてるからさ。けど、さっき涼が笑ったんだよ。見た? 久々に涼の笑顔。希ちゃんと遥ちゃんに逢えて笑ったんだ」


 そうじゃないよ。

 遥ちゃんが田中のことを、ゴリラみたいだと言ったから。


「希、もう教室に入ろう。紙飛行機も見つけられなかったし、田中君、まじ、うざいから」


「ま、ま、待って。 紙飛行機はきっと別の場所に……」


 希ちゃんが真っ赤な顔で、俺達を見上げた。


「紙飛行機ならもういいの。達哉君が捨ててくれたから」


「それ、まじ?」


 田中は知らなかったようだ。

 あの紙飛行機を、亀田が見つけていたことを……。


 だから……

 二人は急接近を……。


「見つかってよかったね」


 希ちゃんはコクンと頷く。


「希、だからかな? 千春が急におとなしくなったから不思議だと思ったんだ。亀田君が何か言ってくれたのかな」


「……達哉君が千春に?」


「きっとそうだよ。亀田君はかっこいいだけじゃない。希に黙って陰で力になってくれるなんて、口先だけの田中君とはやっぱり違うね」


 二人の会話に田中は口を尖らせ「ピヨピヨ」とふざける。


「口先だけって、口先だけって、ていうか、何の話しなのかサッパリわかんねーよ」


「田中君はわかんなくていーの」


「ちぇっ、亀田、亀田って、どうせ偶然紙飛行機を拾っただけだろう。それなのにまるで天下を取ったみたいに、ムカつくな」


「そういうわけだから、田中君、こんなところでストーカーみたいに私達のことを見張らないでね」


 遥ちゃんは「フン」と鼻を鳴らす。どちらが年上なのかわからない。


「……っ、何で俺限定なわけ? 涼だっているだろう」


「明日香君はいいの。ね、希。明日香君に話があるんだよね」


「俺に話って?」


「あのね、ママが……『先日のドライブの御礼をしたいから家に遊びに来ませんか?』って。今度の日曜にどうかな? ママは目は見えないけど料理やケーキ作るの上手なんだよ。それに……メイもみんなに逢いたがってると思うの」


 希ちゃんがモジモジしながら、上目使いで俺を見つめた。


 可愛いな……。


 希ちゃんのはにかんだ顔を見て、素直にそう感じた。


「ママの手料理!? 行く、行く、行く! ぜってぇ行く!」


 ノリノリの田中を、フェンス越しに遥ちゃんが睨み付ける。


「だからぁ、希は明日香君を家に誘ってるの。田中君はお呼びじゃないのよ」


「運転したのは俺だよ。ドライブの御礼なら主役は俺じゃん」


「バーカ、田中君はメイも明日香君も殺すとこだったんだよ」


「……殺すって、まるで殺人犯みたいに。あれはメイが飛び出したから。ちゃんと危険は回避したし、俺じゃなかったら、メイは車にひかれてたかもだし」


「どーだか。ハンドルを握るってことは人の命を預かってるのと同じことなんだよ。ちゃんと自覚してよね」


 遥ちゃんの言葉に、脳裏にあの光景が浮かんでは消えた。


 希ちゃんが遥ちゃんの隣で、恥ずかしそうに笑った。


 希ちゃんの家に行けば、舞さんにもう一度逢える。翔吾のことを、舞さんに伝えるいい機会だ。


 俺は盛り上がっているみんなをよそに、そんなことばかり考えていた。

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