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 ◇


 日曜日、田中の運転する車で希ちゃんの家へ向かう。


「涼、お前、やっと免許取ったんだから、今日運転してみる?」


「いや、この車はお前の車じゃないし、親父さんの車だろう。遠慮しとくわ」


「お前は本当ビビりだな。まあどう足掻いても俺様の運転には勝てねぇけどな」


 田中は助手席の俺に視線を向け、ニカッと笑った。


「うわ、わ、前を見て運転しろよな。本当にお前は危なっかしいんだから、寿命が縮まるよ」


「俺達まだ十八歳だぜ。寿命なんて腐るほどある。お前は本当にヘタレだな」


 田中は俺の家のあと、遥ちゃんの家に立ち寄り、三人で希ちゃんの家へ向かった。


「遥ちゃんはいつ見ても超可愛いね」


「な、何言ってんの? 気持ち悪い」


「俺、遥ちゃん一筋だからね」


 最初は希ちゃんを狙っていたのに、いつの間にか遥ちゃんに乗り換えてるよ。


「や、やめてよ。ホラー映画より怖いんだから」


「……っ、真剣に告白してんのに、ホラー映画より怖いってどーいうこと」


「その顔も、歯が浮くようなセリフも怖いから」


 俺は二人のやりとりに爆笑する。


 本当に、仲がいい。


「ずっと気になってたんだけど、紙飛行機の件、俺にも詳しく教えてよ」


「田中君、希の家でよけいなことを言わないと約束してくれる? おばさんに心配させたくないの。あの紙飛行機はね、実力テストの答案用紙だったんだよ」


「……えっ!? だから、あんなに焦って探してたんだ。自分で作って飛ばしたのか? チャレンジャーだな」


「まさか、田中君じゃないんだから。希はクラスの女子に嫌がらせをされてたの。その子は高二までは仲のいいグループだったのに、突然、希に嫌がらせをするようになった。その理由も何となくわかってたんだけど……。その嫌がらせが最近ピタリと止まったんだよ」


「希ちゃんの嫌がらせと亀田が関係あるのか?」


「嫌がらせしている子、光鈴女子高の亀田君のファンクラブの会長なんだ。自分で勝手に仕切ってるんだけどね」


「ファンクラブ!? 光鈴女子高に亀田のファンクラブ!? まじかよ」


「きっと亀田君がその子に注意したんだよ。だから、嫌がらせがピタリと止まった。もう同じグループには戻れないけど、希は嫌がらせが止まっただけでいいって。私ならみんなの前で謝らせるけどね」


「もっと早く聞いていたら、俺がその子にガツンと言ってやったのに」


「田中君が? それって火に油注ぐだけでしょう。田中君じゃ消火剤にもならないよ。大炎上だよ」


「……ちぇっ、ひでぇな。亀田と俺、たいして変わらないだろう」


「大違いだよ。王子様と馬車馬だね」


「……馬車馬って。遥ちゃんはドSなんだね。ウン、俺はドMだから大丈夫。鞭を振るわれるの嫌じゃないから。それに比べて、希ちゃんは本当にいい子だね」


 俺は笑いを堪えるのに必死だ。


「だ、だれがドSなのよ。変態! 私も希もピュアなんだからね。明日香君、希の気持ちわかってるよね? 希は亀田君に告白されて困ってるの。だから明日香君を家に誘ったんだよ」


 亀田に告白されたから……。

 俺を……?

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