25
「ごめん。あんまりしつこく聞くから、つい……。でも、まさか俺のことで希が高校で虐めにあってるとしたら、全て俺の責任だ」
千春が突然態度を豹変させたのは、達哉君にファンクラブを作ることをやめて欲しいと言われたから……。
私のことが好きだと、達哉君が話したから……。
だから……。
あんな嫌がらせを……。
「千春のことは大丈夫。友達だもの話せばきっとわかってくれるはず……」
「俺、バカだよな。同じ高校の希の名前を出すなんて。希の気持ちも考えずに、本当にごめん!」
達哉君はテーブルに両手をつき、私に頭を下げた。
「や、やだ、やめてよ。みんな見てるし、恥ずかしいから」
「もしよかったら、俺の部屋に来ない? 希が好きだったミュージシャンのライブDVD買ったんだよ」
幼なじみとはいえ、達哉君のマンションに一人で行くのはちょっと気まずい。ここまで付いて来たのは紙飛行機を取り戻したかったからで、処分してしまったのなら部屋に行く理由もない。
「……ママが心配するから。今日は帰る」
「そっか、残念だな。じゃあ、また今度」
達哉君はカフェの支払いを済ませ、私を家まで送ってくれた。
車を降りると、「また、逢って欲しい」と言われた。
私は返答に困っていた。
明日香君のことが頭を過ぎる。
私は今でも、明日香君に片想いのままなんだよね。
寂しくて、心にヒューヒューと隙間風が吹く。
もしかしたら、達哉君も同じ気持ちなのかな。
でも……、やっぱりムリだよ。
「ごめんなさい。二人きりではもう逢えない。今日は送ってくれてありがとう」
「俺、諦めないよ。希が俺のことを好きになってくれるまで諦めないから。じゃあまたね。今日はバイトがあるからおばさんに逢わずに帰るよ。宜しくお伝え下さい」
達哉君は笑顔で手を振り車を発進させた。
相変わらず、ポジティブでマイペースだな。
私とは正反対。
自分がネガティブ過ぎてイヤになる。
玄関ドアを開けると、母が玄関先まで出迎えてくれた。
「お帰りなさい。遅かったわね。車の音がしたけど、この間のお友達に送ってもらったの?」
「ただいま。達哉君にバッタリ逢ってね、カフェでご馳走になったんだ。家まで送ってくれたの。ママに『宜しくお伝え下さい』って」
「達哉君って、亀田達哉君? まぁ、懐かしい。元気だった? 上がってもらえばよかったのに。ママも逢いたかったな」
「今日はバイトがあるからって。今度連れてくるね。制服着替えてくる」
「夕飯出来てるよ。早く降りておいで」
母は視力を失っても、家事はちゃんとこなせる。どこになにがあるのか、歩数で覚えているし、電磁調理器で料理も作れる。
不自由な体なのに、不自由を感じさせない母。
その姿は視力を取り戻すことを頑なに拒んでいるようにも感じられた。
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