10
仕方なく約束通り恵とゲームをする。
呼んでもいないのに瞬と悠もやってきて、ゲーム機の奪い合いを始めた。
この俺様に勝とうだなんて、チャレンジャーだな。バトル開始数分で、俺の圧勝だ。
「やったぁ~ 俺の勝ち!」
弟達を相手に俺は向きになる。
「兄ちゃん、もう一回! もう一回!」
弟達が再チャレンジするが、俺は一切手加減せず連覇する。弟達は躍起になるが、何度やっても大学生の俺に勝てるはずはない。
「もう! 面白くない。兄ちゃん、あっちに行け!」
弟に邪魔にされ、結局部屋から追い払われることになった。
「せっかく遊んでやったのに。俺と勝負するのは十年早い」
俺は笑いながらキッチンへ行く。
「涼、ゲームが済んだなら、早くお皿並べて手伝いなさい。自動車学校の学費分、家事や弟の世話を手伝ってもらいますからね」
お袋がニヤリと笑った。
まるで鬼の首でも取ったかのように勝ち誇った顔だ。
「やだよ。あいつらは俺の言うことなんか聞きやしない。それだけはお断りだ!」
大皿に盛られた餃子や豚カツ。俺は茶碗にご飯をよそいテーブルに並べていく。
また今夜も戦場のような夕食が始まる。
この家にも、光鈴女子高の生徒みたいな可愛いい女子がいたらなぁ~。どんなに我が家が平和なことか。
「わっ! 豚カツだ! いただきっ!」
さっきまでゲームをしていた恵が椅子をよじ登りテーブルに手を伸ばし、トンカツを箸で突き刺し、茶碗に乗せてガブリと噛み切る。
「一番デッカイのゲット!」
瞬が一番デッカイ豚カツを奪い取る。
「うわ、その一番デッカイのは兄ちゃんのだろ」
悠が負けじと箸を伸ばす。
「僕は二番目にデッカイのゲット!」
「バ、バカ、二番目にデッカイのは兄ちゃんのだってば」
「我が家にそんなルールはないよ。豚カツに名前なんて書いてないんだからね」
小さな体でデッカイ豚カツを口に頬張る弟達を、お袋は嬉しそうに見ている。
「母ちゃん、お代わり、お代わり!」
大皿の豚カツを次々と奪い去り、ほんの数分で皿の上は焦げたパン粉だけになった。
「お、俺の豚カツ残ってねーじゃん!」
茶碗を持ったままボーゼンと空の皿を見ていると、お袋がトドメをさす。
「涼がボーッとしてるからだよ。早く食べないと餃子もなくなってもしらないよ」
また弟達にしてやられた。
ゲームで負けた仕返しに、三人で手を組んだな。
のんびりしている性格の俺は、三人の怪獣の食欲と悪知恵には勝てない。
「なんでこの家には、可愛いくてしとやかな女の子が居ないんだよ。妹なら『お兄ちゃんどうぞ』って、きっとおかずを取り分けてくれる。お前ら、ガツガツガツガツ、養豚場の仔豚じゃないんだから。次はお前らが豚カツにされるぞ」
「くだらないことをブツブツ言ってないで、早く食べないとポテトサラダもなくなるよ」
「ポ、ポテサラも!?」
餃子の大皿はすでに空っぽだ。
残っているのは、ポテトサラダと野菜サラダだけ。
恵が俺の茶碗に、「兄ちゃんドーゾ」とおかずを差し出す。
恵のやつ、優しいじゃないか。
思わず感動しかけたが、白米の上にはスティック状のキュウリがひとつ乗っかっているだけだ。
ちぇっ、俺はキリギリスじゃねぇっつーの。
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