いつまでも食べられる気がしていました……


「寒いですね……」


 二十分後、壱花と子狸たちはストーブを囲んで震えていた。


「アイスの食べ過ぎだねえ」

と笑いながら、高尾もストーブにあたっている。


 同じくストーブの前にいる冨樫が壱花に向かい言った。


「お前ら、文字焼きでもなんでも、いつも作りすぎなんだよっ」


「冨樫……。

 その『お前ら』の『ら』に俺も入ってないか?」

と冨樫の横でストーブで手をあぶりながら、倫太郎が言う。


「ああっ、すみませんっ」

と冨樫は慌てて謝っていた。


 入ってないと言えばいいだけなのに。


 冨樫さん、莫迦正直だな~と思いながら、壱花は見ていた。


 まあ、私なら、入ってないと言った瞬間に半笑いになってしまってバレるかな、と思う。


「……甘酒でも作りましょうか。

 あったまりますし」


「俺はもう買い出しに行かないぞ……」

とすぐさま倫太郎が言ってくるが。


「いやいや、酒粕さけかすがあったんですよ。

 流しの棚に」

と壱花は言って、


「此処の流しの棚にっ?」

「いつのだっ」

と倫太郎と冨樫に言われる。


「いつのでしょうね~。

 なんか酒粕とかって永遠に食べられる気がしてましたが」


「……賞味期限あるだろう、一応。

 お前、味噌も納豆もいつまでも食べられると思ってるくちだな」


「納豆はさすがに。

 でも、味噌は古くなって色が濃くなったのも結構美味しいですよ。


 あんまり料理しないので、味噌、冷蔵庫の中で大変な色になっちゃってるんですが。


 その味噌を使って作る私の味噌汁は絶品だと評判ですよ」


「それは飲んでも大丈夫な奴なのか……」

と冨樫が言い、


「……誰に作ったんだ、それ」

と倫太郎が言い、


「料理しないのでと平気で言い切るのどうなんだ」

と冨樫が言った。


 冨樫さん、二度も責めてきましたね……と思いながら、壱花は、

「冨樫さんの方が社長より、追求が厳しいですよね」

と呟く。


 だが、冨樫は、

「社長よりって、社長はなにもお前を責めてないだろう」

と言ってきた。


「今、誰に作ったんだ、それって言ったじゃないですか。

 どうせ味オンチのやつに作ったんだろって意味でしょ?」


 高尾が笑って、

「面白いねえ、化け化けちゃん。

 そうじゃなくって、味噌汁って、朝、彼氏とかに作ってあげるものじゃ……」

と言いかけたとき、倫太郎がさえぎるように、


「いつできるんだ、甘酒。

 早くしろ」

と壱花に言ってきた。


「え? 腐ってるんですよね? あの酒粕」


「知らん。

 見てみろ。


 腐ってるようだったら買ってきてやる」


「さっきもう買い出しに行かないって……」


「やかましい、早く行け」

と店の奥へと追い立てられた。


「社長、買い出し行くのなら付き合いますよ。

 私はそのまま帰りますから」

と冨樫が言っているのが聞こえてきた。


「もう帰るのか」

と倫太郎が言っている。


「うっかり長居して、また三人で目が覚めたら嫌なんで。

 じゃ、行きましょうか」


「そうだな。

 さっさと行ってくるか」

という会話のあと、ガラガラとガラス戸を開けている音がする。


 ええっ?

 私、今、酒粕確認に向かってるんですけどっ?

と戻ってみたが、どうせ腐ってると思っているらしい男二人はもう消えていた。





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