第4話 美少女ですね……
結局、彼女はどこで会ったか教えてくれる事はなく、その日は別れてしまった。
帰り際に、「またお会いできると思うので、その時までに思い出しておいて下さいね。」とだけ言い残して、足早に帰っていった。
しばらく公園でその意味を考えてみたが、結局はどこで会ったかも、最後に言い残した言葉の意味も分からないまま、俺は帰路についた。
ダイエットのため歩いたはずなのに、その時間の半分は彼女との会話で終わってしまった。
家に帰ってシャワーを浴びたあと、俺はパイプベットに横になる。
時計を見ると、午前0時。
何ひとつことの確信がつけなかった彼女との会話にモヤモヤしたまま、俺は眠りについた。
明日は朝から学校だっただった……。
※
目が覚めると、朝日が差し込んでいた。
肌寒さを感じ布団から出る事を惜しみながらも、重い身体を動かす。
顔を洗って身支度を整え、朝食を摂る。
そうは言っても一人暮らしの男が朝から大層な物を作る訳じゃない。
買い置きの食パンをコーヒーで流し込んではい終了。早々と家を出て、自転車でバイト先を通り過ぎて15分の位置にある大学についた俺は1限目のある教室へと足を運ぶ。
教室は既に生徒が何人か席についていてざわついていた。俺もいつものように窓側の中列辺りに席を取り授業の始まるのを待っていると、俺の隣に誰かが座る。
「上本、おはようさん!!」
親しげに俺の名前を呼ぶこいつは藤堂智。
こいつが俺を合コンに誘い、俺を差し置きまんまと可愛い彼女を作った張本人だ。
藤堂は決してイケメンではないが、関西出身でノリがいいので大学入学から今までよく一緒にいる。
ただ、今日だけは違った。
「……おはよう。」
「なんや、その顔は?しみったれてんなぁ〜」
テンションについていけない俺が睨みつけると、藤堂は揶揄う。
「なんでもねぇよ。それより、テンション高いな。」
「そうか?それより、お前知ってるか?」
「何をだよ?」
突然の主語のない会話に何がいいたいのかわからず聞き返す。藤堂はテンションが高いときに限って主語をなくす癖があった。
「今年の1年に可愛い子がおるって聞いて、どんな子か気になっててよ。噂を聞いていたらなんやこの授業を受けてるんやって!!」
藤堂の話を聞いて初めに脳裏に浮かんだのは昨晩会った彼女の横顔だった。もしかしたらこの学校の生徒だったのかも……。
「ああ、一目お目にかかってお近づきになりたい……。」
俺が昨日のことを思い返していると、藤堂はソワソワしながら教室を見回す。そんな姿を見て俺は呆れてしまう。
「最近彼女ができたくせに、そんな事を言ってるとすぐ振られるぞ……」
「何言ってんねん。ただ純粋にお友達になれたらと思ってるだけやん。それに俺はカノジョ一筋やで?」
胡散臭い言葉とともに爽やかな笑顔で俺を見る藤堂におぞましさを感じる。
……リア充爆発しろ!!
そんな事を思っていると、教室中がざわめきを増す。
何事があったのかと顔を上げて見ると、ロングスカートを履き背筋をピンと伸ばして、凛とした表情の美少女が入ってきたところだった。
「……あの子や。あの子が今井アリアゆうてこの学校でも5指に入るであろう一年らしいで。マジ可愛いやん。」
藤堂は彼女を見ると先ほどのテンションは何処へやら……、どこでその情報を得たのか、独り言のように説明する。
クラス中も彼女の存在に気付いて静まる。
それはまるでアイドル……いや、どこぞの物語からお姫様が出てきたかのような気品とオーラを纏った人間が自分たちの目の前に現れたのだ。驚いても不思議ではない。
彼女はその雰囲気を気にする事なく、そのまま教室の入り口の辺りに座り授業を受ける準備を始める。
「な、言うた通りやろ?って、上本?おーい!!」
彼女の後ろ姿を見たまま俺に声を掛けてきた藤堂だったが、俺が黙ったままだったことに気が付きこちらを向く。
だが、俺は反応しなかった。いや、できなかった。
それはなぜかって?俺には奴の声が届かなかったのだ。
……なぜ彼女がここにいるんだ?
昨日会った女の子が今井アリアと言う名前で目の前に現れたのだ。驚いても不思議ではない。
だが、俺は彼女に声をかけられる前から会った事はないし、今井アリアと言う名前にも覚えはなかった。
だが彼女は俺を知っている素振りを見せ、帰り際に言った『またお会いできると思うので、その時までに思い出しておいて下さいね』と言う言葉を思い浮かべてしまった。
いや、またお会いできるって言ってたけど、昨日の今日で会うとは思っていなかった。
「おい、上本。どうした?」
俺の肩に手を当てて呼びかけてくる藤堂の言葉に気づく。
「なんやぁ〜、あの子に見惚れてたか?」
「……いや、そう言うわけじゃないよ」
からかってくる藤堂の言葉を否定しながらも、内心慌てていた。
学校でも噂になるほどの美少女と昨日偶然とはいえ会って話をしたのだ。
そんな偶然ある訳がないじゃないか?
なら必然とでも言うのか?
答えはノーだ。必然というものはこの世には存在しないはずだ。
たとえどちらかが努力したところで何かが一個でもすれ違ってしまえば出会う可能性は低くなる。
俺自身が何か努力をした覚えもないので、少なくとも俺ではない。
ならば運命というのか?
いや、それも違う……。
これが運命だったら……だなんて言ったらなんとチープな言葉なんだろう。俺と彼女の出会いが運命だと言うのならば人の出会いの数だけ運命があるはずだ。
自意識過剰に思われるかもしれないが、昨日から続く彼女との偶然の出会いは俺を戸惑わせるには充分だった。
だが、そんな俺の黙り込み思い悩む姿を見た藤堂は再び俺の肩に手を乗せた。
「やめとき……。お前には高嶺の華の存在や。友達が犯罪者になる姿は見たないで。」
「は?なんでやねん!!」
真剣な表情で心配をし始める藤堂に俺は全身全霊のツッコミを入れる。
その様子を彼女が……、今井アリアが見ているとをこの時の俺は知らなかった。
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