夢の夢

僕はキャベ沢。その名の通りなのか人間界ではキャベツっていうらしい。あの、フカフカしていた畑ってところを去ったのは60歳(60日)のとき。朝っぱらに突然引っこ抜かれてお隣に住んでいたキャベ子さんとその他仲間達と共に四角いものに突っ込まれて揺れる四角いものに乗せられた。私はキャベ子さんに

「これからどこにいるか知っていますか」

と、尋ねた。そうしたらキャベ子さんは

「今から前よりもっと極楽なところに行くらしいですよ。」

へぇ悪くないな。けど何処へいくのだろう。

 

 この箱の中はゆらゆら揺れてたまに転がっている。前に、後ろに、前に、前に、前に。ごんっ。おっと何かにぶつかった。僕とは全然違う見た目。ジャガイモっていうらしい。へえ妙な生き物がいるものだ。そうこうしているうちに、ゆらゆらが止まった。

僕が行くべきところについたらしい。結局何処なのだ、此処は。あっ、人間に運ばれて動く道に乗せられました。プールが見えてきました。このままこの道に乗っていたら落ちてしまうではないか、私まだ泳いだことないのに。どんどん近づいてくるぞ。こうなったならしょうがない、飛び込んでみるか。3、2、1、ドボン。ええ、私浮けるんだ。60代になって初めて気づいたよ。そんなことを考えていたらいつの間にか水から上がっていた。そして道から突如持ち上げられ、今度は真っ暗な箱の中に入れられた。今日は本当に忙しい一日である。



 あれ、いつのまにか寝ていたようだ。寝ていた、というか記憶がない。長旅で疲れていたのだ。そうさ、キャベツだって寝るさ、僕は寝るんだもの。起きたら何故か私は明るいところにいた。あれさっきまで暗い所にいなかったっけ。あれれれれれ。仲間のキャベツが私の上にも下にも乗っかっている。それにしても上のキャベツ重いな。下の方すみませんね、僕重いんです。それにしても此処は人間がいっぱい通る。さっきから僕の上に乗っているキャベツがどんどんいなくなっているようだ。どこへ行くのだろう。そうして一人の人間がやってきた。キャベツをじっくり見比べているようだ。ついに私の番もやってきたのか。ほかのキャベツと比べられ、三度、今度は蓋のない箱の中に入れられた。揺れる、揺れる。もうちょっと揺らさずに持って欲しいものだ。



 あ、何かがまた此処にやってきた。タマネギっていうらしい。構造こそは私と似ているが、見た目が全然違う。サイズも全然違って小さい。ちょっと話しかけてみよう。

「こんにちは、私キャベ沢って言います」

「こんにちはぁ、わたしはぁ、タマ子っていいますぅ、よろしくねぇ」

いかにも語尾にハートがついていそうな子だ。私とはタイプが全然違いそうである。

 もう一つ、何かが入ってきた。今度は私と全く違う。ひき肉って言って今まで大変な経験をしてきたようだ。ちょっと前まで生きていたらしい。しかも、違う生き物だったらしい。ちょっと私には考えられない経験をしてきたようだ。みんな大変だったのだろうな。あと、ビニールに包まれた何かが入ってきた。これはチーズらしい。謎が多いなあこの世界は。

 そして箱から出されて半透明の袋に入れられた。この人間はエコバックというものを家に忘れてきたらしい。ちょっと悔しそうにしているのが見える。ドンマイです。



 本当にもう少し揺らさずに持つことはできないのだろうか。揺れて肉のプラスチックが刺さって痛いのだ。ああ痛いな、もう。

 家、とやらについたらしい。ついたらすぐ袋から出されて洗われた。そして私のだいじな葉をはがされた。痛いんですけど、ほんとに。この人間は嫌いだ。畑にいた人間と全然違う。そして熱すぎるお湯に入れられた。熱すぎて柔らかくなってきてしまった。私の自慢のしゃきっとしている葉は何処へ。嗚呼熱い、熱い。

 やっとお湯から出してもらえた。薄情過ぎはしないか、この人間は。キャベ子さんの言っていた極楽なところとは正反対である。次は、私を使って先ほど会った肉を包むらしい。よく見ると肉の中にさっきのタマ子ちゃんも混ぜられていた。そっちも大変なのだな。お互い頑張ろう。

 この人間、私を使おうとしているくせに不器用らしい。さっきから私、破られているのですが。もう少し丁寧にできませんか。そして木の棒が私と肉を突き刺した。この人、容赦ないな。なんか鼻歌なんかうたって楽しそうだし。サイコパスかよ。

 えっ、この中に入るんですか。この、ぐつぐつと煮えたぎる中に。無理ですよ、そんなの。

えっ、熱い、熱い、熱い、熱い、い、熱い、熱い、熱い、熱い・・・。

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