クズ

メリーさん

第1話


世の中には立場の数だけ良いやつと悪いやつがいる。


人を殺す度に良いやつか悪いやつか確かめるのは些かしんどい。


師は言った。


「殺して死んだら悪いやつ。逆にお前が殺されたらお前が悪いやつ。殺して生き返ったら仏だな。その場合は崇めたらいいさ。」


僕がこの仕事を続けるにあたって、1番大事な教えだったろう。


そして仕事を受けるのに大事なのは難易度と報酬。それと依頼主が女かどうかだ。


何が楽しくて男の依頼なんかうけるというのだ。




梅雨のある日だった。その日来た依頼はとある侯爵の殺害。そいつが良いやつかつか悪いやつかは知らんが少なくとも簡単に悪いやつにはなってくれなさそうだなと思った。


それに恐らく時期国王の後継者争いがらみの依頼だろう。その侯爵は第二王子派閥の筆頭だったはずだ。そいつを悪者にしたら僕の立場が面倒くさくなるのは目に見えてる。いくら金積まれても割に合わない。それならば簡単な依頼を数個済ませた方が楽なのは確かだ。


しかしながら問題があった。依頼主の公爵令嬢がとんでもなく良い女だった。


美しい金の髪に、柳眉の下の透き通るような青の瞳。通った鼻筋にふっくら瑞々しい唇。豊満がすぎる胸。折れてしまいそうなウエスト。ハリがあり柔らかそうな臀部。何より佇まいから気品に溢れていた。


今まで色んな女を見てきたがここまで心揺さぶられた事があっただろうか。


別に侯爵を悪者に出来たらこの女を抱けるわけでもない。しかしながらこの女の前で首を横に振るほど男をやめてはいなかった。


良い女の前ではカッコつけたくなるものだ。




女と談笑と契約を交わし別れたあと、僕は準備をした。何事も準備の段階で八割決まると師は言っていた。


バカ正直に家庭訪問したりはしない。侯爵に刃は届くだろうが、安全が保証されない。僕は完璧主義なのだ。悪者にするのは1番油断している時がいい。そして人間の首を外したいなら一瞬の隙があれば事足りる。


凄い毒や魔法を使う同僚に憧れもしたが僕にはその才能がなかった。


僕の才能は優しそうな顔をしていること。人よりちょっと運動出来ること。メンタルが強い。あとはHが上手いくらいだ。


我ながらよくやっている。



まず初めに侯爵家の使用人を調べ、その中でそこそこの信用度と強い家族愛のあるやつを探した。


次にその家族をさらって人質にとり、侯爵の性格や行動や家の間取り。護衛の数など必要なことを聞き出した。




 依頼を受けてからひと月がたったころ、依頼人の女が訪ねてきた。早く侯爵を殺して欲しいらしい。せっかちな事だ。しかしながら良い女はそれすら魅力に感じてしまうのだからタチが悪いものだ。


その頃には使用人の嫁と娘と談笑するくらいには仲良くなっていた。僕は人質には優しくするタイプなのだ。だからといって顔を隠している相手に良くもまぁ心を開くものだと感心する。解放はしてやらないが。



さらに時が経ったある日、侯爵は登城する予定があった。派閥のみんなで悪巧みするそうだ。


僕は使用人を使って侯爵に犯行予告をした。


【今宵婦人と御令嬢のお迎えさせていただきます。】


婦人も令嬢も美しく、僕の好みだったから怯えさせてしまうのは胸が傷んだ。


しかしながらおかげで護衛がいつもより多めに婦人たちに割かれた。




侯爵は思わない。自分が狙われると。


侯爵は思わない。夜ではなく昼に狙われると。



人間不思議なもので犯行時刻や対象を指定されると、指定外の注意が散漫になる。師はそう言っていた。



あとは簡単だ。侯爵領と王都の間の関所を通る時、検問で馬車は止まる。関所の兵士さんたち全員に悪者になってもらって僕は侯爵が来るのを待った。


確認した通り、護衛騎士10使用人3人しかいなかった。跡目争いの最中だというのに随分と余裕なものだ。自分たちが襲われるとは夢にも思っていないのだろう。警戒心が全くなかった。


この人数なら簡単に悪者にできる。


腕に仕込んだナイフを撫でながら僕は微笑んだ。




その日、さる侯爵家から14人悪者がでたらしい。


全く嫌な世の中になったものだ。





一仕事を終えた達成感に包まれながら使用人の嫁と娘と愛を確かめあっていたら女が訪ねてきた。


キスをして2人を撫でるとくすぐったそう微笑みながら眠りについた。



女は依頼達成を知ったらしく機嫌が良さそうだった。笑顔は女の魅力を何倍にもするものだなと僕は思った。ただでさえこの女はとんでもなく魅力的なのに。


先程使用人母娘との愛情確認を途中で切り上げたこともあり、僕は女にとてつもなく欲情した。


僕は目の前の女を抱きたくて仕方がなかった。


しかしながら僕は和姦しかしないと決めているのだ。


使用人の母娘だって和姦だ。


だって強姦なんかしたらいけないじゃないか。


僕は良いやつだからいけないことはしないよ。


ダメなものはダメ。


僕はメンタルが強い。これくらい我慢出来る。







女は笑顔で僕に言った。


今回の功績で第1王子の婚約者に決まったそうだ。


王妃になれると嬉しそうに言っていた。









その日僕は女を抱いた。




次の悪者は第1王子になりそうだ。


腕の中で幸せそうに微睡む女にキスをして言うと、


女は嬉しそうに笑った。





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