『機械アシストされた天使たちが世界を救う! ~天使長は97歳の美少女? 異世界が重なった地球でいま戦争が始まる!』

たいら由宇

第1話 機械アシストされた天使たち


 風を切って舞いおりていく。

 外装ユニットの背中側にある展開式降下翼ウイング

 その働きで5名の強襲魔導小隊員が、かろやかに空を舞っている。


「うーん、気持ちんよかー!」


 姫川3尉だ。全身に風をうける爽快感を隠そうとしない。


 ウイングは魔装備のひとつだ。

 ただし翼といっても、グライダーのように滑空するタイプではない。


 基本的には

 降下加速を利用して短時間の高速飛翔を実現するものだ。


 似たものには、ウイングスーツという名のエアダイブ用品がある。

 ムササビみたいに大気にのって飛ぶやつだ。


 飛行距離はみじかい。

 高度2000メートルからの降下で、だいたい6キロくらい。


 でもパラシュート降下より自由に空中位置をきめられるし、降下しながら攻撃もできる。これが重要。


「お嬢。油断は禁物だぞ」


 藤堂3尉の、低音のきいた凄味のある声。

 外装ユニットの一部になっている、ヘッドギアのインカムを通じて聞こえている。


 姫川をお嬢とよぶのは藤堂だけだ。

 ほかの小隊員は姫とか隊長とかよんでいる。


 ――姫川は名字。名前のほうは……秘密。


「あっ、敵おったー! ウチが先行するけん、いつもん通りしてくれんね!」


 無線式のインカムをつかって全員につたえる。

 さすがに100メートル以内だと、でもとどく。


「だめですよ姫川さん。さきにいくのは藤堂さんの担当でしょう?」


 すかさず、やわらかい声の叱責がとどく。

 魔法支援担当の美原佳奈江3尉だ。

 しかる声は、まるでお母さん。


「サポートはあたしっちがする。姫ちゃんには自由にやってほしい。そっちのほうがらくに動ける」


 安芸妙子3尉の声。

 中間遊撃を担当している。

 スポーツブラと短パン姿の小娘にバックアップされる……大丈夫か?


「行く」


 藤堂がぼそりとつげる。

 前方へ加速しつつ滑空し、左手にもった大盾で速度を制御しはじめる。


「射つばい!」


 これは姫川の声。あい変わらず方言丸だし。

 ここまでくると九州人特有の無意味なこだわりか?


 前方の空にいる敵は16匹。

 12匹が火炎弾を吐く金属プレート装着のワイバーン。

 背にリザードマンの竜騎兵をのせている。


 のこりの4匹が問題だ。

 強襲飛行型の変異ドラクーンは手ごわい。


 あきらかにワイバーンより大型。

 あとづけの金属プレートだけでなく、自前の外鱗装甲をもっている。


 変異ドラクーンは、とおい昔に真性ドラゴン種(古竜種)とワイバーンの交配により誕生した異系種だ。そう、ハーフエルフの小隊顧問――レオナ・セルファーレンが言っていた。


 ワイバーンは爬虫類が魔物化したもの。

 両者は進化の系統がちがうらしい。


 真性ドラゴン種は、異世界でも最強クラスの能力をもっている。

 その血が混っているだけに、ワイバーンなど比べものにならない。


「班長……方言がなおらんなー」


 平田公平3尉がツッコミを入れてきた。


「あら、博多弁でごめんちゃねー」


「ウソこくな。筑後弁だろ」


「や、やかんしかー!」


 興奮すると筑後なまりがでる。

 博多出身と言いはっているが、じつは福岡県筑後地方の久留米出身。

 両親ともに佐賀県出身のため佐賀訛りまでまじることがある。


 姫川は平田を完全に無視する。

 翼の右側にある固有武装アタッチメントから、03式8ミリ魔導重徹甲加速弾発射装置レールガンをとりはずしてかまえる。


 携帯状態のレールガンは全長1・2メートル。

 魔導エネルギー《MP》をながすと、すぐに全長3・5メートル、全幅45センチまで展開伸長する。おおげさに変形するため姫川も満足の魔装備だ。


 このレールガン、姫川以外は使いたくても使えない。

 なぜなら姫川の魔導変換術式の癖にあわせて調整されているからだ。


 しかも1発射つたびに、なんとMPを5000も消費する。


 姫川のMPは889000。

 自衛隊の魔法支援をおこなっている一般魔導兵員(上級魔法士資格保持者・平均MPは4200)でも、起動させるだけでMPがなくなってしまう。


 装弾は1カートリッジで20発。

 外装ユニットの両腰にある予備カートリッジ2基をふくめると総数60発。


「せーの!」


 ――キュイン!


 みじかいエネルギーチャージ音。

 トリガーをしぼる。


 ――ビイィン!!


 耳にひびく射出音。

 直径8ミリ長さ4センチ、金属セラミック製の弾体が発射される。


 プラズマ化された大気が金色にかがやく軌跡をえがく。

 絶妙の弧をえがき、接近中の変異ドラクーンの頭部を直撃した。


 ――バン!


 弧をえがいたのは姫川が遠隔魔法誘導してるからだ。


「頭部貫通。撃墜たいね!」


 空中で勝利のポーズ。


「姫川さん、さっさと残りの3匹をやって!」


 また美原の声。

 お母さんの説教にしか聞こえない。


 急接近中のドラクーンを野放しにしていると、射程が100メートル近くある火炎噴流をあびることになる。だからこの叱責は彼女の【愛】だ。


「しぇからしかー!」


 気合1発、連続3発!


 いずれの弾体にも、付与魔法によるホーミングと慣性力増大/速度増大/高熱耐性がこめられている。


 弾体はミスリル/タングステン/高カーボンセラミック合金製だから、融点は6000度以上。マッハ8の速度で溶けずに敵を貫通する。


 3発すべて命中。

 弾体による断熱圧縮効果で、頭部が跡形もなく炸裂する。

 これでドラクーンはいなくなった。


「先におりるけんね!」


 空中での役目は終わり。

 降下角度をふかくして速度を増す。


「公平! 空にいるのはワイバーンだけ?」


 安芸から平田への呼びかけが聞こえる。

 2人は中間遊撃担当だ。

 いまも協調して警戒している。


「後方に地上攻撃用の翼竜爆撃隊がいる。でも、あっちは陸自高射部隊にまかせて大丈夫だろ?」


 まるで興味がないといった感じの平田の声。

 安芸が、すこし落胆した声で答える。


「なら、あたしっちの出番はないね。あとは美原姉さんにまかせる!」


 名指しされた美原が、困ったような微笑みをうかべている。

 そのまま後方の空中で


「広域拡散爆雷!」


 みじかい詠唱がおわり術名宣言をおこなう。

 手にした魔導拡散増幅杖、愛称【天撃杖】を鋭く前方へつきだす。


 ――ドガガガガッ!


 12匹いるワイバーンの頭上に無数の雷がおちた。


 1本1本の雷が異様にふとい。

 ほとんど枝わかれしていない。


 1本でも5億ボルト20万アンペア。

 巨大落雷だ。

 ワイバーンたちが瞬時に黒焦げになっていく。


 美原は、ほとんど普通の人間だ。

 物理攻撃力と物理防御力は、自衛隊の魔法戦部隊員よりすこしだけ高い程度。

 だから敵の攻撃をうければ重大なダメージになる。下手すれば死んでしまう。


 火炎弾などを魔法防御なしでくらえば、それこそ丸コゲの死体。

 しかし美原には、欠点をおぎなってあまりある長所がある。


 それは小隊戦闘員の中で最大のMP保有量。

 人類最高レベルの魔法攻撃力と魔法防御力がそれだ。


 MP1523000は日本国内でもトップクラス。

 つい最近までダントツの1位だったが、おもわぬニューフェースの登場で3位に甘んじる結果となった。


 いまの1位は、なんと鈴木優太小隊長。

 300万MPをこえるアホらしいほどの数値が確認されている。


 なのに鈴木は魔法がつかえない【無能力者】。まったくの戦力外。

 膨大なMPをもちながら、魔法攻撃力と魔法防御力がともにゼロだ。


 原因は不明……だが、たま~にいるらしい。


 MP2位は、第3防衛線で待機中の掩護班員、乙音おとねひかり。

 乙音はきちんと魔法がつかえる。実質的に日本最強の超絶級魔導師だ。


 でも、まだ11歳。

 だから最前線勤務ではなく後方支援担当になっている。


「さて、と……」


 姫川は着地にむけて降下速度を調整中。

 地上10メートルあたりで水平飛行にうつり、そこで風系魔法をもちいて急速制動をかける。


 同時に外装ユニットについている翼を切りはなす。


 ウイングは地上戦では邪魔だ。

 あとで回収班が収拾するからポイしても大丈夫。


 着地寸前。

 身体をもちあげるように突風を形成し、着地の衝撃を消す。


 ――ズン!


 総重量100キロを越える外装ユニットが大地におりたった。

 さあ、つぎは地上戦だ!



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