ピアノに捧げる青春
fumi
第1話 敗北
高校2年の夏、今年の夏はとても苦い思いをした夏だ。親友の
夏の痛いほど眩しい太陽の光が肌に刺さり周りではセミがうるさいくらいに鳴いている。僕は今とあるコンサートホールにいる。右手には楽譜やブレザーなどが入ったバックを持っている。そう、今日はこのホールで行われるピアノのコンクールに僕は出場するのだ。今日この日のために毎日4、5時間以上練習してきた。少ないと思うが大丈夫なはず。建物の中に入ると冷房が効いていて少し身震いをした。中は今日のコンクールを見に来た人達が多くいた。みんな手には緑色のプログラムを持っていた。人混みを進み控室に向かった。控室で着替えて廊下にでる。廊下は殺伐としていた。自分は26番目なので自分の番が来るまで他の人の演奏を聴いて待つ。ようやく自分の番が来た。舞台袖に行き深呼吸をして舞台の真ん中に置かれているグランドピアノに向かう。ピアノの前に立ち審査員と観客に一礼して椅子に座る。椅子の高さを自分の好きな高さに変えて少し袖をまくって鍵盤に触れる。右側にある観客席からは物音一つ聞こえない。誰も居ないみたいだ。緊張で体が固まる。最後まで正確にミス無しで弾けるのは正直無理だと思った。でも、ここに来たからには最後までやらなくてはいけない。指が動く。鍵盤を指で押す。ハンマーが弦を叩き弦が響く。その音がホール全体に反響する。タイミングよくダンパーペダルから一瞬足を話したりして一つの曲を弾いていく。今のところは目立ったミスはしていない。指が鍵盤の上を、スラスラと左右に動いていく。引き続けていくにつれて体が熱くなって汗が額に流れる。曲はようやく半分を過ぎた。後少しでこの曲も終わる。そう思っていたら指に違和感を感じた。後少しだから大丈夫だと思っていたが違和感はまってはくれなかった。急に右手の中指がつってしまった。ものすごく焦った。もちろん演奏出来ないので途中で止めてしまった。急いで治そうとするがなかなか治らない。結局そのまま仮設の治療室へ向かった。コンクールで演奏中断は失格になる。結果が出ない。悔しさのあまり僕は控室で思いっきり泣いた。ひとしきり泣いた後着替えて控室を後にした。外では貼られた結果を見ようと沢山の人が集まっていた。その中には喜んでる人や泣いてる人達がいた。その集団の横を通り家へ向かった。家に着くと母親が優しい声でお帰りと言ってきた。僕もただいまと返事をして自分の部屋へ行きベットに飛び込んだ。部屋には楽譜などがいろんなところに散らばっていた。片付けないといけないが今日はそんな気分にならない。結局そのまま寝てしまい母親に夕飯ができたと扉を叩いてもらうまで気づかなかった。リビングへ行き椅子に座って合掌をして味噌汁を少し飲んだ。母親は気を使ってくれているのかコンクールの事について一言も話しかけてこなかった。食べ終わり食器を流しに置きまた自分の部屋へ戻った。戻ると勉強机に置かれたスマホの画面が光っていた。見ると中学3年の時同じクラスになり仲良くなった
「本当に大丈夫なの?」
スマホ越しに彼女がすごい心配してくれているのがよくわかった。
「うん、少し落ち込んでるけど大丈夫だよ。心配してくれてありがとうね」
そう言うとほっとしたのか彼女はいつもと同じ声のトーンに戻った。
「本当にずっと心配してたんだからね!」
「ごめんってば」
「じゃあ今度なんか奢ってよ」
「え、なんで?」
「心配してあげたんだからそれぐらいいいでしょ?」
心配してくれとは頼んでないからこれは理由になってない気がするが応援してくれたし今回は応えてあげるかな。
「わかったよ。でもそんなに高いのは奢れないからね」
「やったー!絶対だからね。約束だよ?」
「あぁ、約束するよ」
「よし、じゃぁまた学校でね。おやすみ」
「おやすみ」
彼女との電話を切り時計を見ると22時を回っていた。さすがに今日は疲れたから早めにお風呂に入り布団に潜った。そのあとすぐに寝てしまった。
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