星たちが輝くまで

マヤカ

第1章 桜の語り

 いつもは眺めることのない夜空を、部屋から仰いでみる。二つの星が並んで輝いているのが見えた。私には、あの星々のように寄り添ってあげたい親友がいる。

 

 その子の名前は小鳥遊たかなし舞花まいかといって少し前に転校してきた子だ。はじめころ、おとなしい子でおどおどしていて苦手なタイプかと思っていたけれど、そんなことはなかった。初めての転校で人見知りしてしまっただけだと仲が良くなってから本人から教えてもらった。いまでは、親友といっていいほど仲が良いと思っている。本当は親友と言ってしまいたいけれど、それを言うには一つ問題がある。舞花は私に隠していることがある。

 不思議に思ったきっかけは夏が始まってすぐの頃だった。エアコンの調子が悪くて教室の中がとても暑かった日のこと。クラスのほとんどが半袖で、長袖の人も袖をまくり上げているなか、舞花だけは長袖の袖をまくっていなかった。長袖の理由は寒がりなのかと思っていたが、そうじゃないのだとその時に気づいた。

 それからはどうして長袖なのかを知るために注意しながら過ごした。舞花は体育でも長袖だったし、着替えは異様に早かった。だから身体に見られたくない傷でもあるのかなと思った。あと一年で卒業という時期の転校だったし、複雑な理由があるのかもしれないと思う事もあった。

 これ以上の詮索はやめようと思っていた時に気づいた。舞花がほかの友達と話しているときに一瞬だけ顔を歪めたことがあった。後でその友達に舞花と何を話をしていたのか聞いてみたが、親の悪口を彼女に聞いてもらっていたのだと。他にも親の話をしているときはやっぱり顔を歪めたし、無理に話をそらそうとしていた。普段は楽しそうにしているのに、時々つらそうな顔をしていることにも気づいた。

 わからないことが増えたときに偶然にも見てしまった。左手首にある不思議な形の傷跡を。ピンク色の線がいくつもあって、ところどころは少し赤かった。何の跡だろうと考えて調べてみたところ、リストカットの跡に似ていた。リストカットの跡があるということは死にたくなるようなことが舞花の身に起こったということで……


 泣いてしまいそうだった。


 どんなことがあったのかは私には分からないが、つらかった彼女に寄り添うことすらできない自分に不甲斐なさを感じた。舞花が気づかれたくないと思っていたことに、気づいてしまったことに少しの罪悪感をおぼえた。けれども一人で抱え込んでほしくない。頼ってほしいと思った。だから私は舞花に恨まれるのを覚悟で行動を起こした。

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