ご飯を囲んで情報共有

 王様が食事をするテーブルはとても大きく、いつ何時多くのお客さんが来たとしても食事を囲めるようになっている。そうでなくては、ここまで大きい意味はない。何せ食事というのは皆で食べた方が美味しいからだ。


 今この大きなテーブルを囲むのは、俺山田サツキ、カレン、ジニア、トウカ、九条カナメ、クォート兄弟、オウグ。このクォートに何があり、何故ディネクスを攻撃するに至ったのかを聞くために、食事という形で話し合いの場をオウグが設けたのだ。


 各自の皿には、カレンが一番好きだと言っていた野菜炒めがよそわれている。赤色のキャベツに青色玉ねぎ、ピンクのピーマンに黄緑色のニンジン、白いほうれん草などを豚バラ肉とともに炒められたシンプルな料理だ。総料理長的な立場の食堂のおばちゃんであるクッコさんの一番人気メニューでもあるらしい。


「良いのか、我らが頂いても」


「余の家臣きってのお願いを無下にするのか?」


 クォートとその弟セミ・クォートは、今この場で料理を囲む一人となっていることに困惑している。それもそうだろう、ジニアを陥れるために他国の騎士を殺させたのだ。そんな彼らをもてなしていることがもう異様である。これもオウグの優しさ故なのだろうか。


「いや私もうあんたの下についてないし、てか元々家臣じゃないしモグモグ。

 ...あ、もしかしてアレルギーがあったり?それかお箸使えない国だったりする?」


「いえ、そこは大丈夫です。多少の心得はありますし至って健康です」


 クォートな弟であるセミ・クォートの黒いフードが脱げているから、もうクォートが二人いるようにしか見えない。揃って座り、足を揃えて膝に手をおいていた。


「料理も優しさも、冷ます方が失礼だよ」


「クッコさん良いこと言うわね!私野菜炒めおかわり!」


「あいよ」


 クォート達の席にどんどんと野菜炒めが配膳されていく。クォート兄がクッコさんの名言を聞き、料理を口にした。


「こいつは旨い、野菜の甘味がとても活かされている」


「だな兄者、とても旨いよ」


「あんた、もう残すんじゃないよ」


「はい、すみません」


 セミ・クォートがクッコさんに頭を下げていた。何の話だ?


 確かにとても美味しい。

 赤色キャベツなんて初めて食べたけれど普通のキャベツよりもどことなくシャキシャキ感がある。玉ねぎとニンジンの甘味が野菜って感じでとても旨い。豚肉の旨味が更に箸を進ませる。


 トウカにはトウカ用に刺激控えめな調理法をジニアが提案され、それが反映されたお陰でトウカもおいしく頂いているようである。

 そういえばコボ郎もシャリシャリと夢中に紫レタスを食べていた。




「あれ!?メインは!?」


 俺は野菜炒めばかりのこの異様な風景がおかしく思った。確かに、美味しいけれどもさ!


「まぁ本題を急くな、クォートの話は食事が一段落してからだ。余も久しく力を使った故疲れていてな」


「いや、『この集まりの本題であるストリンの悲劇について』って意味のメインじゃなくて、何で野菜炒めばっかりなんだって話を...あ、」


「ごめんね、誰かさんが盗み食いをしていたせいでこんなものしか出せなくて」


 まさか、俺らが盗み食いして無くなったとかじゃあ...まさかな。

 クッコさんは目をカナメに向けた。だがカナメがその目に反論する。俺に指をさして。


「意義ありよ!私だけじゃなくてこいつも食べてましたー!」


 先生にいったーろー!という、一昔前の公開内部告発を繰り出しやがった!

 余計なことを言いやがって!箸を止めてヘイトを跳ね返さなくては!


「いやいや、お前の方がいっぱい食ってたろ!それに前科もあるし!」


「ぐへぇ!」


「ぶひゃ!」


「喧嘩両成敗!」


 カレンが立ち上がり、俺とカナメの脳天にげんこつが下った!痛い!超痛い!頭もだけど、この暴力を反論する余地がないことが余計に心を痛くした!チクショー!オカンがよー!

 喧嘩両成敗なんて言葉も、転移者から記憶から引っ張ってきた言葉なのだろうか...。とほほ。


 しばらくして、ウェイターがそそくさと皿を片付ける。そして本来の目的である、ストリン国に何があったのかを話してもらう時間だ。周囲の視線がクォート兄弟に集中する。

 オウグが切り出した。


「さて、そろそろ腹も満たされたことだろう。話してもらおうか?クォート、一体貴方達が何故我らの仲間を殺し、ジニアを陥れ、ディネクスの支配をしようとしたのか」


「あぁ、本来ならば終焉を待つしかない身だ、我らの知ること全てを話そう」


 意を決した裏腹、何も残されていないまっさらなテーブルを見て、悲しげに語りだした。


 ──────────────────────────────


 ある日、我々の国に一頭のワイバーンが来たことから始まった。真っ昼間に突如として現れた赤い竜に国民達は恐怖した。そもそもワイバーンの生息地はストリンからはるか遠くに位置している火山地帯。現れる訳がなかったのだ。


 幸いしばらくして、途中国内の地上に降りはしたものの、何事もなくワイバーンはこの国を去ったのだが、それでもまた直ぐにやって来るかもしれないし、これは何かしらの良くない兆候なのではないかと、国民が思いを馳せ更に恐怖が煽られていた。


 なので我々は速やかに国の中枢達に連絡を取り、国内全土に緊急事態宣言を発令し、国民の不要不急の外出をしないように呼び掛けた。その際国民に発生した機会損失はちゃんと一律定額給付金という形で還元した。何せ緊急事態だからな。国民の憶測とはいえ、本当にそういった事態が起こらないとも限らないから、一応様子見としてな。


 そしてしばらくして、緊急事態宣言は解除。国民の活気は直ぐに戻った。何事もなく平穏が訪れるはずだったのだが、またもやワイバーンが襲来。しかも今回は、人を一人誘拐していったのだ。大きい人一人分ほどの大きさの頭で、大人の男を跳ね上げ頭に乗せ、そして飛んでいったのだ。


 そこでも同じく緊急事態宣言を発令した。だが前回と同じく何事もなかった。男一人が拐われたこと以外はな。


 だが国中でその男の身元を探ったのだが、分からなかったのだ。どんな性格でどんな職業で年齢がいくつでどこに住んでいるか等。名前さえも分からなかった。


 ここからが本当の悲劇の始まりだ。

 二度のワイバーンの出現から、我々はデフォルトの警戒を強めていた。もしかしたらまたワイバーンが来て、今度こそ問答無用で襲ってくるのではないか?というな。


 だが来たのはワイバーンではなく、一人の男だった。年齢は15、6くらいか、ちょうど君、サツキ君くらいだったよ。純白の服装を纏い、首には小さな様々な武器、剣、盾、銃、杖、鎚等々の飾りをネックレスの様に着けていた。そんな男が、急に我の個室に入ってきたのだ。


 彼は言った。

「この国は、想像力がとても乏しい。」

 その顔はとても無に近く、感情を推し量ることは難しかった。


 我は言い返したかったが、それよりも確認したかった。

「...貴方は何者だ、何が目的でここに来た?」


「僕は世界の調整を命じられし者、天の遣い。今からこの国を破壊する」


 事務的に国の終焉を告げた天の遣い。当然抵抗の意を示したさ。

「なっ!?破壊だと?そんなことを許すとでも思っているのか?」


 だが我の言葉など聞いていないかのように、言葉を続けた。

「だが天の者は寛大だ、だから半壊にサービスするとのことだ」


「半壊だと?」

 それでも受け入れられるわけがない。唐突にやって来て国を半壊するなんて、身勝手の極みだ。


「半壊は半壊だ。復興を頑張ればできる程度に破壊する。だからその復興に励むことだ。

 ただし、他者の力を頼ってはならない。自国のみで解決せよ。

 あ、他国を支配したら自国扱いだから、その限りではないよ」


 途中砕けた口調になりはしたもののそう言うと、男は我の部屋の窓をぶち破り消えた。追いかけると、男は背から翼をはやし、頭に輪をつけているのが見えた。そのまま空まで飛行した。

 我は直ぐに国中に連絡し、避難を求めた。だが、避難をするなんて不可能だった。


 どのように半壊させるのか、空を見たときに確信したからだ。


 約50~60の隕石が、火球みたいに降ってきたのだ。


 一つ落ちると、その衝撃波が広がり、たちまち町が壊されていく。国が壊されていく。受け継いできた物が断たれていく。


 半壊なんて生易しい、ほぼ全壊だ。それから復旧という復旧に追われ、自国の資材では間に合わない事がわかった。分かりやすいところでは食糧難だな。それに人手や建築資材などもろもろ足りない。


 一段落ついき落ち着いたところでそういう問題に直面し、まず最初に浮かんだのは他国へのSOSだ。そもそも我々ストリンは争いを善しとはしていない。だから本来ただの悲劇や災害だったならば、貿易が盛んなイオ、スティル、等に助けを求めたかったのだ。


 ところがそこで、あの男の「他国を頼ってはならぬ」という言葉を思い出した。こういう事態を想定して釘を刺すために、我の目の前に来たことに今更ながら気づいた。


 そういう経緯があり、手頃な発展途上なディネクスを狙ったということだ。若い国ならば、内部にスパイを仕込み撹乱し弱点を探すことも容易いと踏んでな。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あれ!ワイバーンって確か追っ払ったわよね!?」


「...え、あぁ、まぁそうなんだけど...」


 カレンが俺に向かってそう尋ねた。確かにそうなのだが、どうしても素直にそれを喜べない。


「どうしたの?追っ払ったじゃないの、もっと喜びましょうよ、私達危機を救ってたのよ!」


「いや、来てたんだよ、ワイバーンは。そして一人浚っていった。いや、その一人がワイバーンの背中に乗っていったって感じか」


 まさか、あいつが関わっていたとは。確かに不自然なところが多かったが、ストリンのこの話の中心人物だった。


「え、どういうこと?」


「俺とトウカが誘拐されてから、このディネクスに潜入していたセミ・クォートとは違う、もう一人の男に出会っていたんだ。名前は猪熊ケモノ。同じ転移者だ。もしかしたらクォートの話に出てきた『さらわれた男』っていうのは、そのケモノのことかもしれない」


「なんですって!?」


 ケモノは敵かもしれない。それもかなり大きな所の敵。

 何故ならば、ストリンでのそいつの出現がきっかけで、あいつが来ていたのだから。


「そしてケモノは多分、神の手先だ」


「神、お前が前に言ってたやつか」


 ジニアもそこで口を出した。


「うん、ストリンの話からの推測にすぎないんだがな。だけど、俺はその天の遣いを探したい。そいつは神だ、自称だがな、間違いない。俺の友達を死なせる原因を作った奴、そいつに違いない」


 この話で、俺はその「頭に輪を着け背に翼を生やした男」を探すことを決意した。

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