王国ディネクスの秘密

 幼女だ。幼女がいる。

 さっきまででぶっちょだった大きなナメクジお化けは、投げた梅干しを食べると幼女になってしまった。何が何だか分からないが、異世界というのは色々と何でもありということか。


 って、そんな現象は今は良い。期待通りナメクジお化けを無力化することに成功した。ならばさっさとこいつから吐かせよう、この、梅干しをこうも幸せそうに食べている奴を拷問するのは気が引けるが、この国が何故転移者をさらっているのか。それを聞いて防がなくては、今後の転移者をも拐われることになる。


「酸っぱいけどうんまぁ~!癖になるぅ~!」


「とりあえず食堂に入るぞ、それにほら、梅干しだけだと栄養片寄るし、」


「おい!ぼさっとしてないでこっちを何とかしてくれ!」


 ケモノがあわてふためき此方に懇願している声が聞こえた。何事かと振り向くと、トウカが真っ白なケモノを地面に抑えつけていた。


「ちょ、えぇ!?何でそんな白いの!?」


「今それはどうでも良いだろう!早くこいつを何とかしてくれ!」


「何とかと言っても...んー、あっ!」


 そうだ、ジニアが確かこいつに催眠の魔法をかけていた。それが出来ればトウカの暴走を止められるかもしれない!

 でも眠らせるってどうするんだ?んー、いや、ゼロ・ハピネスの効力も切れそうだし、悩む暇ないか、ダメもとでやってみるしかない。


 逃げられると困るので、子ナメクジにバインドをかけて行動を制限しておく。梅干しに夢中でかけられてのにも気づいて無さそうだが、保険として。


 トウカの元に駆け寄り、肩を掴む。まるで反応がない辺り、あの時と同じだ。眠らせるイメージ、親が子供を眠らせる、背中をポンポン軽く叩き、安心を与えるような、そおっと、


「眠れぇ~...眠れぇ~...」


 小声で優しく、背中をさすりながら魔力を緩やかに放出させる。トウカが白い魔力に包まれていくと、力んだ筋肉が弛緩していき、ケモノを下敷きにして倒れこんだ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 食堂には大きい窓があり、そこからは広々とした町が見えた。カレンと共に空から国に来たことがあったが、ここはその景色とは一風変わっている。街明かりが全くない、月明かりで町の全貌はある程度窺えるが。夜は寝ているのだろう。睡眠を取るのはいいことだ。前世界でももっと夜は電気を消して寝るべきなのだ。


 木でできている長机に、俺と隣にケモノ、正面にナメクジ(道すがら名前を聞くと「九条カナメ」というらしい)、隣に眠っているトウカが座っている。

 この町が何なのか分からないので、まずはその事について聞いてみた。


「ここは、どこだ?」


「ディネクスだけど?」


「でも俺が連れられてきた時と違う気がするんだが、西部劇っぽい建物も見当たらないし」


「西部劇...あぁトーファスね。あれは一つの町ってだけ。ここはディネクスの中央都市ローズよ。」


「中央都市...ちなみにこの国はいくつの町があるんだ?」


「ローズ、トーファス、カセドン、サドーの四つね。まだまだ発展途上国よモグモグ」


「そうか、で、何で転移者さらってんの?」


「それはき...ってその手には乗らないわよ!」


 ちっ、流れで聞き出せるかと思ったのに、意外にも口が固いじゃないか。だが此方にも考えがある。幸いここは食堂だ。

 俺は冷蔵庫から色々と取り出し、レンジ等を使ってかちゃかちゃと。そして様々ある食材から、人に秘密を吐かせる最高の逸品を誕生させた。

 カタン!と、木造の机が鳴る。


「ま、お前も色々と大変だったんだろう?苦労したよな、だがもう良いんだよ、さっさと吐いてしまえ、そしたら食わしてやる」


「こ...これは!?」


 丼に入っているのは、黄金に煌めく横並びの金塊。ご飯の隙間に垂れ流されているのはそのエキス。香ばしくも甘味ある湯気が、月光に辺り白く揺らめいている。


「こんなの見たことない...一体何なのよ!?」


「これを差し出されたら誰しもが秘密を吐くと言われている前世界人世紀の大発明、カツ丼だ」


 ゴクリ。調理しているこっちが唾を飲み込んでしまうほど食欲をそそる風体は流石というべきか。作り置きのトンカツと卵丼の具を組み合わせて作っただけで、ここまで旨そうな代物になるとは。


「さぁ、吐けば食わしてやる。...いやそれじゃあ可哀想か。ほれ、一口くらい恵んでも良いんだぜ?」


「あわわわわわわ、パクッ」


 つまみ上げたご飯とカツをカナメの口に放り込む。カナメはまだモグモグと口を動かし、しっかりと味わい、飲み込んで


「うっ、うううう、」


 泣いた。ヤバいどうしよう、幼女を泣かせてしまったよ。ダボダボの服を着た幼女をグシャグシャにしてしまった。泣きじゃくり、袖がみるみると湿っていく。


「美味しい...美味しいよ、私が見た世界はとても狭かった、こんなにも旨いものがこの世にはあったなんて...」


 ここまで言われると、自分で開発した訳でもないのに嬉しい。もしかしたら、料理店の方々はこういうリアクションをやりがいとしてお仕事されているのかもしれない。将来は料理人になろうかな。

 茶番にしびれを切らしたのか、ケモノが切りだした。

「さて、言う気になったか?」


「うう、カツ丼によ、私はカツ丼に感謝の意を込めてるだけ。

 ...転移者を誘拐して、彼らの記憶を奪っているの」


 背筋がフリーズドライした。

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