牢屋から脱出しよう

「うええぇ、」


 トウカが舌を出し、不味そうな顔をしていた。おむすびを持っていない片手で鼻を摘まんでいる。


「梅干しは苦手なのか?」


「いえ...」


「あ、酸っぱすぎて食べられなかったか?...でも梅干しを取ればいいんじゃ...あれ?」


 遅いアドバイスを施す。だがトウカの樹木皮の上には、既に取り外された梅干しと周囲の赤いご飯があった。

 トウカは無口だが、その状況からある程度の察しはつく。


「なるほど、それでも酸っぱさを感じられるということか...」


 おむすびや日の丸弁当を食べる時、梅干しが嫌いな人はそれを取り外す。だがお米にはそのエキスが残る。それも駄目な人もいる。なるほど、そういう人もいるよな。それに


「トウカは五感が鋭かったな」


 周りのご飯に付着したエキスが駄目なのは分かるが、風味が駄目って凄いな。


 そこで俺は、トウカへの気配りが足りないことに気づいた。手を合わせ、声を潜めて語りかけた。


「ならすまん、さっきまでうるさかったろ?」


「...え、あ、いえ、捕まる前に、ジニアが魔法をかけてくれたから、大丈夫」


 トウカは顔を落とし、しゅんとした感じで呟いた。まだジニア以外の人に心を開かせることは無いようだ。...そういえば、洞窟の中でこの子の綺麗な髪や足を凝視して、つい感謝の言葉を叫んでしまったような...。そんな人に心を開くだろうか?否である。なので頭を下げた。

 だからここは紳士になろう。真摯に紳士になるぞ、心身共に!


「いいや、俺の配慮が足らなかった、刺激が強くても周りが何も感じていなければ無意識に我慢してしまうものだ。自分だけが文句をいうのは間違いだと。しかしそんなことはない。トウカにはトウカの気持ちがある。これからはドシドシ言ってくれ!うん!」


「えぇ!?はぁ...わかり、ました?」


 トウカは身をのけぞって、俺の勢いに驚き目をぱちくりさせた。これでいいのかな、逆効果になってそうなんだけれど...。


 気を取り直して考える。感覚制御の魔法があってもここまで感覚が残るトウカの固有スキル。だが、気がかりなことがあった。


「だとしても疑問だな、なんで力が強くなったんだろうか?」


 トウカと初対面の時に、大木をバキバキとなぎ倒していたこと、それに洞窟の中で蹴られた時の、あの馬鹿力を思い出していた。謎である。トウカにも聞いてみた。


「...私にも分かりません、目を閉じたり耳を塞いだり、外界からの刺激を絶つと何故か色々と壊せるように...」


 女子なのにそんなバーサーカーな一面があると自分で言うのには抵抗があるようで、顔を赤くして段々と言葉が小さくなっていった。


「固有何とかとは、何だい?」


 ケモノが首を傾げた。どうやら「固有スキル」については知らないらしい。

 固有スキルの事を説明。どーせこれらの知識は分かることだからな。


「トウカさんはいいとして、サツキ君はどんな固有スキルなんだい?」


「俺のは『魔力が運気に比例する』ってやつだな、多分」


「分からないのか?」


「確証がないってだけだよ、ゲームみたいに能力名と説明文があればいいんだけれどな」


 そう、これは飽くまでも推論でしかない。結果から導きだした考えうる可能性だ。だからこそ回数を積み上げてその推論を限りなく真実に近づけていかないと。神のこともそうだが、その前に考えないといけないことがある。それをケモノが切り出した。


「なるほどね、とりあえずトウカさんならこの檻を壊せそうじゃないかな?感覚を制御して」


「確かに!こう...ガツンと!」


 俺はジェスチャーで木の檻にパンチし、トウカに提案した。

 ということで、トウカは目を閉じて拳を振りかざす。

 そこでパッと、嫌な予感が浮かんだ。だがかわす間もなく


「ふん!」


「ブフェアッ!」


「あれ?」


 俺はトウカの真後ろにいたのだが、何故かトウカの拳が飛んできた。その嫌な予感も見えていたのだが。

 おかしいなぁ!?後ろにいたんだけどなぁ!??殴られるはずないんだけどなぁ?痛いなぁ!??


「いや何かそんな気がしてたけどね!?」


「ごめんなさい見えませんでした」


「ま、まぁ見えないなら仕方がないな、うんうん」


 これも不幸の賜物かぁ...。

 ペコッと頭を下げるトウカにこれ以上叱責すると逆に悪い。諦めよう。

 気を取り直し、トウカは目を閉じて拳を檻に振りかざす。


「ちょっと待った!」


「はい?」


 トウカが目を開けサツキを見る。


「こじ開ける感じにしよう!うん、今思えばそっちの方が音小さいだろうし」


 また殴られてはこっちの身がもたないよ...。

 バギバギバキィ!

 トウカは檻二本に手をかけ、ゆっくりと木の檻が広がるように壊していった。その力で木片が散らばる。


「こうもいとも容易くか、すごいな、」

 ケモノはトウカの力を見て感服した。


「急ごう、まずは医務室だ」


 顔に刺さった木片を引っこ抜き、俺は血だらけで脱出を目指した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る