優秀な魔法使い
国の下で戦う父を見てきた幼いジニアは、いつか彼らみたいにモンスターをなぎ倒して、王様を守って、そしてこの国の繁栄に大いに貢献したいと思っていた。単純にかっこよかったから。いつか彼らみたいに、自分の力を国のために使えるようになりたいと思っていた。
だから魔法使いに憧れた。どうやったらなれるのだろうか?図書館には魔法使いの本を初め、色んな本読んでみることにした。何かヒントがあるかもしれない。そういった思いで、幼いときから図書館に通っていた。
図書館の中のある絵本には杖から魔法が出てくる描写があった。確かに、以前父がゴブリンというモンスターから自分を守ってくれた時、杖から雷を放って倒してくれたことがあった。それがきっかけで憧れるようになったのだ。
なるほど、魔法には杖が必要なのか。そういえばおばあちゃんから5歳の誕生日に貰ったっけ。
家の近くのだだっ広い平原があるので、そこで杖を握りしめ、雷を撃ってみる。えい!
だが出ない。何故だ?
雷を放とうとしても云とも寸とも言わない。何か足りないものがあるのだろう。それは何だ?
...そういえば、雷とは何だろうか?確か図書館に天気に関する本もあったように思う。
杖で魔法を放つのは一旦取り止め、雷について調べてみた。
フムフム、地面の電子と雲の電子が引かれ合って...電子ってなんだ?
そうやって、分からないことを連鎖的に調べていき、ジニア少年は知識を蓄えていった。ひたすら本を読んだ。そして雷に関する知識を調べまくった。だが雷は出ない。どの様にして雷が放たれるのか、ある魔法使いの出したあの時しか知らないからイメージしづらい。そうだ、
思い出しても記憶が曖昧ならば、実際に見ればいい。悪天候になるのを待った。そして空が暗く雨がドッと滝のように空から落ちてきている日になった。祖母は洗濯物が乾かないと嘆いていたが、嬉しかった。私はじっと、平原に佇む木を見ていた。そして、
ピカッ!ドーン!
空が光り、一瞬だったがその光が木に落ちた!そして燃え盛り朽ちていく。炎は雨で一瞬にして鎮火された。
なるほど、これが雷か。
翌日の晴れた日。杖を持ち、バメーアを見据えた。平原でポヨポヨと日向ぼっこしている。こいつを利用させて貰おう。
杖をバメーアに向け、目を閉じ、あの時の雷を想像する。
私自身が曇天となり、対象の持つ電子と結合する感覚...。バチバチと杖が電気を帯びているのを肌で感じだ。そして、
「はっ!」
一瞬のスピードで稲妻が空気を走り、バメーアと繋がった!そしてその電気がバメーアにぶつかり、体を弾けさせた。
これが雷属性魔法か。やっと発動できた。他の属性も、原理を調べるところからやってみるか。
それからというもの、図書館にある魔法関連の本を漁りまくり、炎、水、風、大地、無、今ある属性全てを試し、発動させ、我が物にしてきた。図書館が国立だったため、行き来している私は宮廷騎士の目に留まり、齢16にして父と同じ仕事場の宮廷騎士団にスカウトされた。
だがその異例を認めない輩も一部存在するようで、魔法も使えないで剣ばっかり振るっている奴が私を「父のコネで入ったガキ」だと罵ってきたことがあった。腹が立ったので、ゴブリンの群の掃討作戦にて私一人で完遂し黙らせた。
まぁ黙ったのは表面上だけで、裏では口々と魔法の使えない騎士達が適当なことを言っているのだが。
ある日、父がで戦死したことが伝令によって明らかになった。巨大なドラゴンの討伐を目的とした遠征だったらしく、そいつは物資運搬の際に幾度となく商人を殺してきたとか。そんな化け物と戦い、刺し違えて父は死んだ。責務を全うできただけでも素晴らしい。私はとても誇らしかった。
その話をそこで終わらせたかったのに、終わらせてくれなかったのがその騎士達だった。「かわいそうに笑」「コネ無くなっちゃったね」「ざまぁないな」等々、人の死を愚弄する言葉で私の心を蝕もうとしていた。確かに腹が立つ。臓物が煮え繰り返るほどに憎い。だがそんな気持ちを持ったところで父が喜ぶ筈もない。そう心に言い聞かせてずっと耐えてきた。
その言葉を聞きたくなくて、自然と人気のないところに足を運んでいた。城の端っこ辺りの薄暗いところ。レンガ造りで大きな窓からは、城の壁が伺えた。
ここは静かでいい。その静けさに身を預けていると、人の声が聞こえた。
「さぁ来なさい!大人しく!」
「何ですか!?ここ何処ですか!?離smmmー」
「静かに!誰かいたら...ん?」
派手なピンクでヒラヒラし服の大きな女が、少年を縄で拘束して引っ張っていた。あれは何だ!?何をしているんだ?
分からないが、これ以上見てはいけない、そんな気がして身を隠した。
「誰かいるの?」
ヤバい、勘づかれた!?
「...まぁいいわ、こいつをさっさと運ばないとね」
ズザザ、ズザザと、一室に連れていかれてしまった。
一体何なのだ?分からなかったが、これ以上は踏み込むべきでないと判断して私は逃げた。
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ある日。
ジニアと同じく宮廷騎士団の魔法部隊に所属する私、カレンは食堂で大好きな料理である白身魚のムニエルを食べていた。フォークで身を崩し口に運ぶと、コーティングされたバターが口いっぱいに広がる。
そして極めつけは野菜炒めだ。素朴かと思うだろう?それがいい。野菜の甘味をここまで引き出した調理ができるのは、この城の料理長であるクッコさんだけだ。
舌鼓を打っていると、ある者に目が留まった。
黒いローブを深く被り、注文されているのは野菜炒めのみである。この男見たことがないが、新人だろうか?だとすると見る目がある。真っ先に野菜炒めを選ぶとは。もう他の料理が食べられなくなるよ?
そんなことより異様なのは、全く手をつけていないということ。あれでは料理が冷めてしまう。
そしてもうひとつ、一点に視線を向けていること。
その先には二人の騎士がいた。耳に意識を集中させると、不愉快な内容の会話が聞こえた。
「ジニアめ、自分が魔法を使えて、さらにその魔法使いの中でも実力があるからって、少々威張りすぎじゃないか?この前挨拶しただけで
『なんだ、この俺の金魚の糞になりたいのか?』
って言ってきたんだぞ?自分が優秀だからってそれにくっつくつもりだって勝手に判断しやがったんだ!」
「まぁサクリ落ち着けよ、魔法使いは魔法使いの力があるように、俺たちも騎士なりの戦い方があるんだから、別に良いんじゃないかい?それに騎士の中でもそういう人間はいるからね」
「トレラっていつも寛容だよな、そんな仏の心が俺も欲しいもんだよ。」
カツンと、少々強めにフォークでウインナーを突き刺した。
「いやまぁ、でも少しあの威張り具合を抑えてくれたら良いかもね」
「だろぉ?本当に腹が立つんだよなぁ、この前の仕事でも...」
しばらくジニアへの不満をトレラにぶつけると、サクリは自身のトレイを食事済みの場所に運び、食堂を後にした。
すると、それについていくように、黒いローブもまたその後に付いていった。何かを狙っているのか?つけてみるか。
すかさずカレンは気配を悟られない範囲で黒ローブに付いていった。
「おばちゃんごちそーさまー!」
「あいよ!またきてね!」
その棚には、全く手をつけられていない冷めた野菜炒めが端っこに置かれていた。
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人気のない食堂の道すがら、サクリが一人になった所で、魔法使いが話しかけた――。
「やぁ、サクリさんと言いましたか、初めまして」
「...?はい、初めまして」
サクリはきょとんとした。何故自分に魔法使いが話しかけるのか分からなかった。
「いやぁ、先程の話を私も聞きましてな、ジニアについてですよ。あいつは確かに実力がある。だが、それ故に鼻につく言動や態度が許されると思っている」
「そ、そうなんだよ、俺もあの姿勢に一回ビシッと言ってやりたいと思ってたんだ」
自分の意見に賛同してくれた黒ローブに、活き活きとした口調で話を紡いでいく。それを見てローブから覗く口が不敵に笑うのを見た。何か嫌な感じを悟った。
「そう!」
魔法使いはサクリに指をさして言った。そして耳元で囁いた。
「しかも噂では、彼は闇の者との内通があるとかないとか。以前怪しい者と一緒にいたという目撃証言があったんだ」
「何だと!?そんな奴をここに居させてはいけないじゃないか!」
サクリは彼の言葉に驚きを露にした。
「だから、俺達で奴をこの国から追い出そうじゃないか。協力して欲しい。この国の未来の為に」
「勿論だ、あいつは前々から怪しいとは思っていたんだ、共に国を救おう」
サクリは覚悟を決めて、その誘いに頷いた。
「君には次の戦で、このマントを着けてほしいのだ。」
魔法使いは黒い布をサクリに差し出した。
「これは?」
サクリはマントを両手で摘まむと、首を傾げた。
その疑問を、流れるような、予め用意していたかのように説明した。
「これは私が魔力を込めたマントだ。これは闇の者の魔法を関知すると、その魔法を吸収し、発動者に跳ね返すというものだ。その際の痛みはないから安心したまえ。魔法を吸収し跳ね返すだけだからね」
「これだと、俺が彼に跳ね返したことにならないか?大丈夫なのか?」
サクリは少し疑いを示した。
「実はこれはオウグ国王直々の指令でね、裏切り者を見つけるために秘密裏に私に頼んでくれたのだよ。だから君は、国王の命の下にいるんだ。罰せられることはない。どころか君は闇の内通者を暴いた立役者。つまり英雄だ」
「俺が、英雄...!」
キラキラと目を輝かせ、震える手でサクリは黒いマントを受け取った。
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一部始終を見ていたカレンは、悩んでいた。
本当にジニアが闇の者の内通者?もしくはそれは虚言で、サクリをそそのかしてジニアを貶めようと...?
だが、私に黒ローブがあのマントで何をしようとしているのか分からない。話せば余計な混乱を招くかもしれない。
ジニアに話す?彼が素直に聞いて休むとも思えない...んー!
「よし!」
一応話すことにした。何もせずにはいられなかった。
「ジニア!」
「ん?なんだカレンか。何か用か?図書館では静かにしろよ」
図書館にて読書を嗜んでいるのは宮廷内でも有名なため、容易に彼の場所を特定することができた。眼鏡をかけてペラペラとページをめくっているジニアを静止させてしまったためか、パタンと本で栞を挟み、少々不機嫌な語気で目を合わせず返事をする。
「たいへんよ、誰か分からない魔法使いが食堂でー」
「まぁ、あの食堂は一般公開されてるからなぁ。うるさくて嫌だからここでゆっくりと昼の時間を嗜んでるわけだ、だから黙っててくれ」
そういうと、大きな机に置いてあるサンドイッチを食み、傍らに返答する。
こっちはあんたの為に来てるんだが、人と話すなら飯は置いとけよ!せめて視線だけこっち向けろ!
怒った顔を戻し、ジニアに向き直る。ジニアは性格に難ありなため、あまり刺激を加えてはいけないことを知っているからだ。
「あなたが闇の者の内通者だとかって言って、黒いローブの魔法使いが騎士を唆してたの。多分、次の戦は何かあるわ。休むべきよ」
「何?」
ジニアは眉を歪め、ため息をつきカレンの忠告に反感の視線を向けた。
「そんな言葉を信じたのか、それに今私がいなくなったらかなり戦力が割かれることになる。駄目だ」
「だけど危険よ!次の戦いは恐らく何かあるわ。あなたの穴は私が埋める、だから様子を見、」
「君の言葉が真実である事が前提だろう?それに何が起ころうとも私なら対処できる」
ジニアの自惚れも仕方がないと思った。彼はこれまで何事も滞りなく仕事をこなしてきた。だからこそ失敗を想像することができないのだ。それに何事も起こらないのかもしれない。万が一何かが起きたとしても、彼ならば何とかするのかもしれない。
「そう、何事もないことを祈っているわ」
「祈る時間があるなら仕事に回してくれ」
これが彼との、同僚として最後の会話となった。
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今日は、遠くの深い深い森から大勢のモンスターが攻めてくるという情報があり、その進攻にたいする防衛、戦である。サクリはいつも通り鎧を装着し、国旗のデザインが描かれたマントを着けた。そしてその内側には、黒いマントも着ていた。
それが目新しいのか、トレラが聞いてきた。
「サクリ、その黒い布はなんだい?」
「あぁ、いや何でもないよ。」
魔法使いとの話は秘密にしてほしいと魔法使いが言っていた。だからこのマントも秘密なのだ。
俺サクリは今、闇の内通者ジニアの正体を明るみにする!
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