走り続けて人間になった猫
奈々星
第1話
落ち込んだ時はいつもこの公園のベンチに座って誰も乗っていないブランコをぼーっと
見ている。
今日もただただ落ち込んでこの公園にやってきて、ベンチに座っていた。
すると私に1匹の黒い猫が近寄ってきた。
野良猫のようだった。
人間に自分から近づいていくほど人懐こいのかと驚いたが自分にそれほど覇気がないのだと納得した。
それからその猫はベンチに登ってきて私の隣でくつろいでいる。
誰もいないこの公園での私の時間に猫が入ってきたのが嬉しかった。
初めて孤独から脱したことに少し嬉しくなり私は猫に話しかけ始める。
「私今日ね、ママと喧嘩したの。
友達と夜ご飯食べるって言ったらお金は自分で出しなさい、8時までには帰ってきなさいって。ありえないよね。夜ご飯食べに行くのに8時までに帰らないと行けないなんて無理に決まってるよね。」
一通り今日のハイライトを説明した私は猫に目をやった。
猫は私の退屈な話を気だるそうに後ろ足で耳や頭を擦っていた。
私の中には悔しいという感情が湧いてきて、
この猫の興味を引いてやろうと再び言葉を選びながら話を始めた。
「それでね、学校から帰ってきてすぐ喧嘩しちゃってそのまま家出してきたんだ。
まだまだ家に帰るなんて無理だし、やることも無いし、スマホも置いてきたからご飯に誘ってくれた子にも返信できないや。」
猫は相変わらず退屈そうに欠伸をした。
私を舐めているのか、態度の大きい猫に自分の方が上の立場なんだぞと言わんばかりに
私は猫を撫で始めた。
猫は気持ちよさそうにしている。
私も自分の優位性を確認できて気持ちよくなった。
私は猫を撫でながらもう一度ブランコに目をやる。夕日もかなり落ちてきて夕闇が私たちを包もうとしている。
私は何かに取り憑かれたようにまた猫に話しかける。
「私、ママと仲直りできるかな。」
猫はここにきて初めてにゃあと反応をくれた。嬉しかったけど猫の言葉は分からないから私は体で猫を感じようと抱きあげようとすると、猫は腕の隙間からするっと抜けてブランコの方へ歩いていった。
私はちぇっと猫にも聞こえないくらいそっと舌打ちをして猫を目で追う。
猫はブランコに真下まで行くと私の方を振り向いた。それからブランコに飛び乗った。
反動でブランコが前後にかすかに揺れる。
私はベンチからブランコに乗る猫に話を続ける。
「私なんか悪いかな。」
すると猫は今度は体を縦に伸ばしながら
にゃあと鳴いた。
なんだか私が悪いと言われているような気がして今度は猫も気にせず舌打ちをした。
それからはお互い別の方向を見て時間を潰していた。
もう夕日は完全に落ちて夜がやってきた。
次に猫と目が合った時、瞳が鋭く光っていて
不覚にも猫をかっこいいなと思ってしまった。
私はもうひとつの空いてるブランコに座る。
それから再び各々自分の時間を過ごしていた。
私がふと空を仰ぐと月が高く登っていた。
わたし達を見守るように大きな大きな満月が
私はその月を見ながら猫に話しかける。
「ママはね、彼氏でも出来たら好きにさせてあげるって言ってきたんだよね。
出来るわけないのに、ひどいよね。
君が彼氏になってくれたらな。」
冬の夜風で冷えた私は次の瞬間じんわりと温かくなった。
「いいよ、彼氏になっても。」
隣でわたしの話を退屈そうに聞いているはずの猫はさっきよりもシャープな目つきの男の子になっていた。
雲が流れて月の光が私たちを照らすと、
シャープなのは目付きだけではないことに気づいた。
声だけは柔らかかったのを私は忘れていない。
「ほんとに?」
「うん、彼氏。欲しいんでしょ」
「うん!ありがとう!大好き!名前なんて言うの?」
「黒田 千冬。春香と同じ13歳。」
私は自慢の彼氏を手に入れた。
辛い時一緒にいてくれたこの人と今、二人の子供に恵まれ幸せな日々を手に入れました。
走り続けて人間になった猫 奈々星 @miyamotominesota
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