遺伝子が強すぎた件。

小倉 唯

第1話

桐生きりゅう学園。


それは、現理事長が独自に創設、運営している学園である。

一般クラスと特待生クラス(通称、Sクラス)の2種類があり、国内唯一の『異例者イレギュラー』の保護施設だ。


Sクラスは『異例者』のみが在籍していて、この学園の生徒会メンバーだったりする。

……と、まぁそんなこんなで解説をしています。美崎杏奈みさきあんなです。私は一般のAクラスにこの4月に入学した普通の女の子です‼︎


……と言いたいところなんだけど、『異例者』の中でも更に稀な『異端者ディレギュラー』だったりしますです。

ん?じゃあ何で私が一般クラスにいるかって?それはねー……


目立ちたくない!から!だよ!


誰が好き好んで人々の前に立つもんですか!私にそんなカリスマ性なんてありませーんっ!

ただこの学園に居れば、学園に『異端者』でなくとも保護施設としての機能はちゃんと発揮されるから安心安全って事で入学したんだよね。



「ねぇ?私の声聞こえてるー?無視されると先輩悲しいなぁ〜?」


そして、私が何故さっきから脳内ナレーションをしているのか。その原因か はこの方。校内一のを謳われる2年の椎名未来しいなみらい先輩がわざわざ1年生のクラス、それも私のところに来たからなのだ。

Sクラスの椎名さんが私のところに来るなんてそんなピンポイントな偶然はあるのだろうか?

いや、ない。あって欲しいけど、たぶんない。


入学してまだ1週間。バレるようなヘマはしてない……はず!


クラスの人達には目立ちつつ、椎名先輩を無視して早5分。

先輩は可愛らしく腕を組み、悩みポーズをしている。

可愛い……


「うーん、どうやったら返事してくれるかなぁ〜?Sクラスの人のはずの美崎さんがなーんで、こんなところにいるのかな?とか、1週間後の未来には私達と一緒に授業を受けてるよ〜とか言ってみちゃう?」

「‼︎」


動揺が私の体を駆け巡る。


ダメだーバレてるー。

それにしてもこんな可愛らしい顔が悪い顔してるなぁ。カールのかかった金髪がまるで悪役令嬢のようだよ。


……なんて、現実逃避してても仕方ないよね。

本当は目立ちたくないけどなぁー、でも売られたケンカは買っちゃうんだよなぁ……私。

まぁ、負け戦は乗らない主義なんだけど。


私は軽く目を閉じ、深呼吸。目を開くと先輩を上から下まで見回した。


「でもさすがにしかいないSクラスに女の私が1人入るのもどうなんですか?ねぇ、椎名先輩?」

「え?それってどーゆう……っ!……美崎さん。ひとまず今日の昼休み、Sクラスの学生寮に来てくれるかな?午後の授業は出られないって私の方から先生には話しておくわ。その代わりゆっくり話しましょう?」


それだけ言い残して椎名先輩は去って行った。

……ちょっとだけおふざけが過ぎたようです。美少女の威圧、これほど怖い笑顔を過去に見た事があっただろうか?怖いねぇー。


入学して1週間、友達はまだ出来てないけど、たった10分でクラスの人達には顔も名前も知られたようです。

そして、さよなら、私の普通の日常。



そうして来た昼休み。私はSクラスの学生寮に来ていた。


一般クラスとSクラスは午前は一緒に授業を受けるが、午後はSクラスのみ学生寮で別の事をしているらしい。

だから昼休みにSクラスの人が勢揃いするのは当然。そして、その当然を予想していなかった私。ファック!


つまり言いたい事は……


「椎名先輩と2人きりじゃなかったぁー!」

「うおっ!びっくりした!おい、椎名。お前が連れてきた1年突然叫んだぞ?」

「椎名が連れてきたんですから、ただの1年生ではないでしょう。変な人ではあるようですが。」

「俺は可愛い女の子なら大歓迎だよ〜!」

「……」

「あら、もう皆んな揃ったの?この子可愛いわよねぇ〜1年の美崎杏奈ちゃんって言うの!Sクラス候補生で『異端者』よ。間違いなく、ね。」


そう言って先輩は可愛らしくウィンクをした。いや、もう先輩って立場の人多いし、椎名先輩、にしとこうかな。


そんで疑問。なんで『異例者』ってこんな美形揃いなの?

椎名先輩は私の最大の隠し事さらっと言っちゃうしー。

朝の事で怒ってないみたいで安心したけどさぁー。


「『異端者』が同じ世代に2人なんて凄い偶然もあるもんやなぁ〜。瞬はダブルやろ?」

「あ、今まで隠してたけど、私って男よ?美崎さんにはバレてたみたいだけど。」

そー言って、椎名先輩はリボンを解き、制服を脱いだ。


寮には一瞬の静寂が訪れる。そして、3人は目を見開き、叫んだ。


「「「はーーーっ!?」」」



突然の椎名先輩の爆弾発言に当事者の私達以外が叫んだ。まぁ、1人だけ最初から寝てるけど。


あ、椎名先輩がこっち見てニコッてしてる。

私も秘密話したんだから貴方も折れたら?とでも言いたげな顔だ。


私は大きくため息をついた。


「さーて、椎名さんもそろそろ折れてくれた頃だと思うし、自己紹介していきましょ?まずは同じ1年生同士でひーちゃん!どーぞ?」


さっきの叫び声で起きてたみたい。むくりと起き上がり、促されるまま自己紹介を始めた。


「……水琴翡翠みことひすい。1年。水とか自由に操れる。眠い。」


そー言って再び寝ちゃったよ。眠り姫かな?


そんな水琴くんを気にする事もなく、次々と立ち上がった。

「次は俺か。2年の一堂理樹いちどうりきだ!身体強化に特化してる。まぁだから力仕事があったら任せてくれ。」

「はいはーい。3年の早乙女紅さおとめこうでっす!火のことは何でもお任せあれ〜?紅って呼んでね。杏奈ちゃん。」

「3年の千歳瞬ちとせしゅんです。代々千歳家は雷と風に卓越しています。今代の僕は珍しいことにダブルですね。」


爆弾発言は一体どこへやら。気配さえ消え、ほとんどの自己紹介が終わってしまった。


もしかして椎名先輩の爆弾発言って日常茶飯事なのかな……?


そして、最後に椎名先輩が立ち上がった。


「もう知ってると思うけど改めて。私は椎名未来。2年生ね。こんな見た目だけど正真正銘の男子よ。それで、」

「未来、が見えるんですよね?名前の通り。」


被せるようにして私が声を上げる。初めて会った時に、1週間後の未来には、って言ってたから違和感あったんだよね。1週間後、とかで良いのにわざわざ未来って付けないよね。


「っ!さすがね。そう、私は未来が予知夢として大体分かるの。」


そうして私以外の自己紹介が終わり、5人が次はお前の番だと私を見ている。


ここに来た時点で逃げ道なんてないけど、やっぱり自分の秘密を明かすのは怖い。

でも、どうしてだろう?この人達となら、椎名先輩の爆弾発言をさらっと普通に受け止めてしまうこの人達となら、上手くやっていけるのかな、と思ってしまった。


「1年の美崎杏奈です。椎名先輩の言った通り『異端者』です。能力は……」


やっぱり口がすくんじゃう。私にはこの輪に入れるほどの勇気はないよ……


「杏奈ちゃん、ここではね、能力は無理に聞かないようにしてるの。もちろん、一緒に過ごすうちに分かる事が多いんだけどね。だから、話したくなった時で良いんだよ?」


椎名先輩は私に気遣って多少の逃げ道を作ってくれた。背中を押してくれた。


私は深呼吸をする。


「それでも、どうして私が男だと分かったのかは教えて欲しいな?これでも私って男なのバレた事無かったし、自分の演技力にも自信があったの。」


椎名先輩、話を逸らそうとしてくれてるんだ。


でも、確かに先輩のバレないための対策は徹底されてた。私じゃなければ誰も気付かなかったかもしれない。


そんな秘密を私は堂々とバラしてしまったんだよね……それなのに怒るどころか私の秘密は無理には聞かずにいてくれてる。


こんな先輩のためなら少しは私も頑張れるかな?


「椎名先輩って体育出た事ないって聞きました。それって脱げない理由があるからですよね?だから服の下をこのコンタクトレンズを使って見ました。」


私はコンタクトレンズを外して見せた。

このコンタクトレンズには透視機能がある。私が先輩のケンカを買う前に作り出したんだよね。


「私は自分の頭の中でイメージした物を実際に出現させる事が出来るんです。『創造主』と私は呼んでいます。それで、透視の出来るコンタクトレンズを先輩と話している途中に自分の目元に出現させました。」

「ほー、なんかよく分かんねーけど、すっげーな。」

「結構バレないように隠しててもその行動でバレちゃうものなのねぇ〜。って、ん?透視で服の下見たって事は……」


椎名先輩が顔を今にも火が噴き出さんばかりに赤く染めている。

まぁ、そうなるよね。だって、服の下見て男って分かったって事は、そういうことだ。


「すみません。下心で見た訳じゃないんです。」


私が謝るとついに椎名先輩の顔が真っ赤に染まった。


「いやあぁぁぁぁぁぁっ!」


椎名先輩の悲鳴が学生寮全体に響き渡る。……本当ごめんなさい。

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