千尋

 夢を見た。



 夢というのは、日々得られる厖大な情報を取捨選択する際の副作用だ、というのを以前耳にしたことがある。それを思い出す度、私は実に不愉快な思いに駆られるのだが。

 そもそも人間一個体の存在自体が情報の塊であることを思い起こせば、私のこの煮え切らない想いを理解してくれるものと感じる。例えば、年齢、性別、職業、家族構成、住所……その他諸々。いわゆる〝個性〟という情報にあぶれていながら、その情報の全てを処理すること能わないときた。

 情報は、古来より等しく莫大な価値を孕んできた。ときには、高額の銭を対価に仕入れることもあるというではないか。

 しかし、私自身ときたらどうか! 斯様な貴重な情報を、私はみすみす見落としている風に感じられるのである。昨日、わざわざ有限の時間を割いて読んだ本の内容を克明に思い出せるか。

 否。

 最悪なときには、何も残っておらぬ。うん百とある文字列のたった一行ですら、私は処理することができぬのである。


 そのような出来損ないの記憶のシステムに、更にそれを助長するような絡繰りがあるというのだから、私は非常に不愉快なのだ。



 人間の精神は、視覚から得る情報の処理に一番手間をかけるらしい。あたかも、目で見た形に対象の価値の全てを押し付ける短絡さが垣間見えるようで実に滑稽である。

 そう思った私は、あるとき両目を抉り出してしまった。

 出来心―そう言ってしまえばそれ以上のことはない動機であったが、私は心の片隅でなにか期待していたに違いない。

 もっとも、その期待はものの見事に裏切られた。


 だって、夢を見てしまったのだから。

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千尋 @yomai_roto

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