まきびと【フリー台本】

江山菰

第1話

/*始める前に: ややゆっくり目に、聞き取りやすく演じてください。指定箇所以外のBGM・SEはお任せいたします*/

/*登場人物*/

/*  猟師→20代後半くらいの男性*/

/*  人狼→20代後半から30歳くらいの女性*/


/*ここから本文*/



猟師「(連れてきた猟犬を探す声)おーい、ぽち! ぽち! クロ! クロ! 帰るぞ! おーい!」

 

猟師「(間をおいて)あー、もう! あのバカ犬、また勝手に帰りやがった!」




/*可能であればSE:藪をガサガサ移動する音*/ 




猟師「(間をおいて、独白)あれ? 人だ……こんな山奥に? それに何だあいつ……イノシシ担いでる? デカいやつ担いでんな……しかも、血抜き、終わってるな、あれは。素人じゃないな……今日、妙に静かなのはあいつがここで立ち回ったせいでみんな逃げちまったせいだろう。あんなでっかい年寄りイノシシ、固くて臭くてまずいから、普通は狙わないのにな……食って旨くなきゃ売れねえし……」




/*可能であればSE:藪をガサガサ移動する音*/ 




人狼「<猟師の独白から2秒くらい間をおいて、独白>ああ、狩猟者が見てる……よくこの辺で嗅ぐ匂いだわ。あの猟師か……デビューしてからずいぶん頑張っているようだし挨拶しとこうかな」




(間)



/*可能であればSE:藪をガサガサ移動する音*/




人狼「こんにちは、ご機嫌よろしゅう」 



猟師「えっ!!! お、おんな?!!?!! (小声で独白)しかも巨乳美人?!」




人狼「女ではいけないの?」




猟師「いや、いけなくない! いけなくないけど!」




猟師「<独白>俺、頭おかしくなってないか? それとも、何かに化かされてんのか?」




人狼「(少々責めるように)あなたも挨拶くらいしたらどうなのよ」




猟師「(どぎまぎしながら)……お、おう、こんにちは。あ、……えっと……そのイノシシ、ハンティングの獲物か?」




人狼「そうよ」




猟師「一人で?」




人狼「(当然、といった感じで)ええ」 




猟師「猟銃? ボウガンとか使ってんの? それともトラップとか?」




人狼「いえ、素手で。狩猟免許がいらないから素手がいいわ」




猟師「素手?!」 




人狼「あ、仕留めた後の処理はナイフ使うけど?」 




猟師「手こずるだろ」 




人狼「そうでもないわ」 




猟師「えっと……血抜きは沢で?」 




人狼「ええ、ちょっと沢で吊るしてたわ 血を採ってブルストにするの。おいしいのよ? ほら、ビニール袋に入れて持って帰るの」




猟師「吊るすって、……重いだろ?!」 




人狼「私ねえ、ちょっと力持ちなのよ」




猟師「同業者?」 




人狼「いいえ」




猟師「趣味のハンター? 固くてまずいのに大きいの狙うのは、トロフィー用?」 




人狼「いいえ、ちゃんとありがたく食べるわよ。確かにこれだけ育ちきってしまうと食味は落ちるけど……(2秒ほど間をおいて)ねえ、猟師さん、何で私がこのイノシシさんを狙ったかわかる?」 




猟師「デカいから?」



人狼「いいえ……あなた方人間が営利で野生動物を狩るときは見かけが美しいものや美味しいものを狙うわよね?」

 

猟師「うん、生活がかかってるし」

 

人狼「私は、食物連鎖の上位にいる肉食獣にはそれなりの役割があると思ってるの。だから幼いおいしい個体は狙わないわ」

 

猟師「え?」

 

人狼「このイノシシさん、体内のどこかに腫瘍があるの。匂いでわかるわ。もうすぐ寿命が尽きるところだったの」

 

猟師「匂いって……?」




人狼「この方はね、最期の力を振り絞って私とたたかったわ。さすが、年を経て生き残っただけあって強く賢かった……。崇高な、森の主として君臨してきた立派な方だったわ」




猟師「え? 立派な方って、そのでかいイノシシのこと? 言ってること、よくわからないんだけど」

 

人狼「私も、私の言ってることはあなたにはわからないだろうと思ってるわ。ちょっと脱いでみせましょうか」

 

猟師「(焦って)こんなとこでぬ、脱ぐのか?! ダメだ! そういうのは破廉恥はれんちだぞ!」




人狼「何言ってるの、フードを取るだけよ。よく見なさい」



猟師「(うろたえる)え? あっ……あんた、耳……耳が!!」

 

人狼「ええ、あなたたちとは違うタイプの耳があるわね」 




猟師「(うろたえて、悲鳴のように)作り物だろ?! カメラで撮ってんだろ?!」

 

人狼「私はカメラは大嫌いよ」




猟師「(うろたえて、悲鳴のように)ああ! 尻尾! 尻尾が!」 




人狼「ズボンに穴開けて通すの大変なのよ。トイレに行くときも切羽詰まる前に脱ぎ始めないと大変だし」

 

猟師「(うろたえて、声を震わせて)お前……もしかして……」




人狼「ここら辺のお年寄りに聞いたことはない? 大昔、オオカミと村娘の間に生まれた子がいるとか何とか。オオカミはいなくなってしまったけど、私はまだここにいるわ」




猟師「(恐怖におののく)……あ、ああああ……」 



人狼「私は人は襲わないわ。時々完全なオオカミの姿でこの辺をうろうろすることがあるけど。だけど、ルール破りには容赦はしないから、猟師さん、どうぞお手柔らかにね」

 

猟師「あ、ああ……」 




人狼「話の分かる方でよかったわ。ところで……(風をくんくん)これから東の国道のほうに降りるの?」




猟師「恐怖しながらうなずく)……あ、ああ」

 

人狼「猟場をうるさくしたお詫びに教えてあげる。えーと、たしか田中さんとかいうお宅の仔ヤギが迷子になって、村中に『探しています』って貼り紙が出てるでしょ。そのヤギがちょうどルート上、このすぐ先にいるわ。」




猟師「……よく……知ってんな」




人狼「情報収集しないと生きていけないから。ヤギちゃん連れてったら、お礼金くらい出るんじゃない? もうすぐ雨になるから、捕まえるなら急いでね」

 

猟師「え!」




人狼「では私はこれで。できればお互い、傷つけあわずにやっていきましょうね。私の匂いを嗅いで一目散に逃げてったわんちゃんたちにもよろしく」 



 ――終劇。



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